遊びに行きたい
デンジから連絡が来た為、アサはおめかしをして約束の場所へ向かう。義理とはいえ家族同然の付き合いをしているらしい人達の外出に混じるなど気が進まない。
(私ってそこそこ可愛いから、次からは二人っきりでデートにも行けるでしょ)
しかし次のデート以降で攻勢に出よう、と考えれば緊張はしない。早川家が出かけるのは後楽園周辺にある遊園地。デンジのアイデアで、出入口で集まる事になっている。
出入口でアサはデンジ達と合流したのだが、見覚えのない男が一人混ざっている。
「あの…早川さん?」
「ああ」
「公安にいる悪魔の力でよ〜、昔の顔被せてもらったんだよ。仮面のままじゃ、気分盛り上がんねーだろ?」
デンジが得意そうに説明した。アサと出くわしたアキは渋い顔をしていたが、追い返すことはしなかった。
その顔は銃の魔人となる以前の顔。仮面と魔人の特徴の2つを隠した事で現れたもので、デンジの目から見ても完璧なカモフラージュだ。
これは視覚的な隠蔽であり、もしアキの顔に手を伸ばしたなら、そこにある見えない仮面を触ることができる。
「なんじゃ、そのデカいリュックは?何が入っとるんじゃ?」
パワーがアサの背負っているリュックに興味を示す。
「ちょっと…触んないでよ」
「は?口の利き方がなっとらんのお…ワシが教育してやろうか?」
アサが注意すると、パワーは喧嘩腰になった。ヨルは内心冷や汗をかいたが、デンジが間に入った為、衝突には至らない。デンジがジェットコースターを話題にしてパワーの意識を逸らすと、彼女は遊園地内へ走り去った。デンジが追いかけると、アサはアキと二人きりになる。
「なんでデビルハンターになろうと思ったか…聞いていいですか…?」
アトラクションを回っている最中、アサはアキに尋ねた。
「家族が…銃の悪魔に殺されたからな。ヤツを倒す為に、俺はデビルハンターになった」
いや、銃の悪魔ってアンタでしょ。アサは内心でツッコミを入れたが、口には出さない。通りのよい設定を持つのは理解できるし、銃の魔人ですと名乗られた方が幻滅しただろう。
アサはアトラクションを回る最中、それらの概要をアキに喋っていた。デンジに行き先を聞いてから、予習はバッチリしてある。園内の地図も頭に叩き込んできた為、効率よくアトラクションを回れるだろう。
「…わざわざ調べてきたのか?」
「デンジ君に行き先を聞いたので、調べてきました」
「…参考になったよ。ありがとう」
アキがぼそりと言うと、アサは機嫌が良くなった。次のデートあたりで武器化できるラインまで行けそうな手応えを感じる。
お化け屋敷に入り、もうすぐ出口という所で異変が起きた。客が屯しており、従業員と一部が言い合っている。アキが何事か尋ねると、外に出れなくなっていると答えた。出口から外に出ようとすると、また入口に戻ってしまうそうだ。
「どうなってんの…?」
実際に試して入口に戻ったアサは混乱のまま、出口付近にいるであろうアキのもとを目指す。途中、屋敷内にいたデンジとパワーに出くわす。アサは彼等と合流してアキのもとへ戻った。
「面倒くせえ事になったな…」
「やあ、奇遇だねデンジ君」
背中からデンジに声がかかる。振り返ると学ランを着た吉田が立っている。
「吉田か…殺し屋の時以来だな」
「お久しぶりです、早川さん」
偶然、この遊園地に遊びにきていた吉田も巻き込まれてしまったらしい。
悪魔の力でお化け屋敷が延々とループしており、外部の助けか原因となった悪魔を倒さなければ出られなさそうだ。早川家の面々は、犯人に心当たりがある。永遠の悪魔だ。
アキは身元を明かし、巻き込まれた一般客を宥めると同時に、従業員達へ彼らの保護を求める。悪魔の目撃情報も求めたが、見た者はいない。
アサは他の一般客に混じって、スタッフルームに留め置かれる。不安を殺しきれないでいるアサは見張りに立っているアキに断ってトイレに向かうが、トイレの水は流れなかった。
(最悪……)
このまま死ぬかも知れない、と不安に思うアサの前に一人の少女が現れた。ユウコを再生させた少女だ。
「怖がらないで、これはアサちゃんのためなの」
「…は?」
アサは正しい事しかできないから、人を武器にできないと断言する少女は、アサの力についても把握していた。恐怖を覚えたアサが、なぜ知っているのか尋ねる。
「まだ言ってなかったっけ?私は戦争の悪魔のお姉ちゃん。飢餓の悪魔。キガちゃんって呼んで」
名前を聞いた直後、ヨルは目に見えて狼狽えるがキガが指を鳴らした瞬間、2人の姿が消えた。立ちすくむアサの耳に、キガの声だけが届いた。
「飢えればどんな人間でも正しさを捨てられると思うの。だから私がその舞台を作ってあげる」
ヨルを一時的に建物の外に連れていったキガは、アキを武器にするまで建物からは出られないとアサに語った。