遁逃・落魄

遁逃・落魄





『起きてください。私の声が聞こえていますか?真人』


――はな、み?


『聞こえているのですか?…あぁ、良かった――』

『どうか落ち着いて聞いてください。もう少しで貴方を助けられます。貴方はずっと……』


――花御??


――おかしい、何かがおかしい

――俺は一体、どこで、いや、花御、渋谷で……





「………ッッっっっんんんおおぉおっんんんおおっんっ!!!??」


異常な感覚に意識が引き戻される。

真人は自分の置かれている状況が理解できなかった。

逃げ込んだ廃ビルだということはかろうじて覚えているも、全身がびっしりと弾力を持った触手に絡みつかれていた。柔らかい質感でありながら一本一本が硬い筋肉のようで信じられないほど強い力に押さえつけられ、完全に身体の自由を奪われていた。

触手を辿り視線を動かすと、


「あ゛?…呪霊?どうし、て……」


巨大な翼鰓生物のような呪霊、数体。

……理解が追い付かない。

呪霊が仲間である呪霊を襲うことなどありえない。一般的には、ではあるが。例外である可能性を上澄みも上澄みの特級呪霊である真人は瞬時に考える事が出来なかった。再び異常な感覚が


「!!!ッ!、!!ごッほぉおおお゛お゛おっ♥♥!!!」


再び脳天を貫くまでは。

……有り得ない。


「ごっ、ふぅっふぅ、……共食い……??俺、を……???」


異常な感覚の正体は翼鰓呪霊が何かを真人の股間から引き抜いたせいだった。

真人は息を呑む。引き抜かれたのはどっぷりとした巨大な吻部だった。表面をびっしりと覆う吸盤のような細かい凹凸が、どくどくと脈打つ動きにあわせてぶぽっぶぽっと開口し白濁した粘液を分泌している。

視線をずらすと、本来自分には備わってないはずの股間の穴がぱっくりと穿たれひくひくと糸を引いている。翼鰓呪霊は吻部を再び真人の股間にあてがうと何度かペチペチとマーキングするように叩きつけ、一回り太い先端部分で弧を描くように膣口の周りをなぞる。


(……あり得ないありえないありえないありえない不山戯やがってッぎ゛っひぃぃぃぃい゛イ゛イ゛イ゛♥♥♥♥!!!」


吻部が容赦なく再びゴチュリと挿入され発条のように体が跳ね上がった。浅ましく高い嬌声が迸り女性器から牝潮が撒き散らされる。

特級呪霊である自分がはるかに力の弱い呪霊に歯が立たないでいる。どころか馬鹿力で縛り上げられ、無慈悲なピストン運動による快楽に襲われるがままとなっている。

体内を何度も上下する異物感の悍ましさに嫌悪感が煽られ集中して呪力が練れない。もう一度集中する。――が。



(思い出した)


渋谷。

生まれて初めての死の恐怖。

死そのものに見つめられる恐怖。

白い狼の姿をした死。

生きたまま末端から朽ち果てんとする自分の魂。

――――

敗北。


死そのものの双眸。




「ふぎぃヒィぃッ!?!?ぷぎッ……!?ひぎゃぁッ!?お゛お゛お゛んッッ!!!」


ぐるりと両目が裏返り意思に反して体が痙攣する。吻部の凹凸が分泌する液体のせいなのか凹凸による刺激なのか無意識に自身の感度を上げたからなのか元々そうだったのか何も分からなかった。翼鰓呪霊は触手を操り真人の下半身を持ち上げ子供が玩具で遊ぶ用に吻部によるピストンを行った。真人はただ快楽に翻弄されびしゃびしゃと牝潮を恥部から垂れ流し、時々どろりと白濁の混じった粘液と合流しながら太腿を伝い身体全体に走る継ぎ接ぎの縫い目に引っ掛かり溜まりを作った。


「………ッッぁ、あぁ゛ッぁ゛ッ!!っ!!っ゛ッっ、あ!あ゛ぁぁ…ッっ!!!」


ここは翼鰓呪霊のたまり場だったのだろうかいつの間にか現れた別個体が触手腕を伸ばしぶるぶると揺れる乳房に這わせる。やはり何かの媚薬作用があるのか双丘が弄られ、先端をつまみ上げられ、吸い上げられる度に電流が頭に走る。初めて黒閃を受けた時のようだと無意識に思い出していた。大量の脂汗が顔に浮かび、快楽を堪えようと歯を食いしばろうとしたがいつのまにか口に捻じ込まれていた細い触手腕の束にすかさず口内も蹂躙されてしまう。


「ろっっ!!♥おっフほ゛ほぉっッおっあぁああっっ!!♥♥んあぁああ!!!」



魂は肉体に先行する――

その世界観で生きてきたはずの特級呪霊の脳裏に走るのは魂の代謝ではなく淫辱の数々。自分が仕留めたと思った男の、精神を叩き折り芯から蹂躙を尽くしたと思った男の狂気が呪詛返しのように自分の身へと叩きつけられた時。恐怖の最中縛りで術式の制御権を奪われ、悍ましい人間の生殖器を自らの手で作らせられ、何度も何度も荒々しく犯された時の屈辱的な快楽。ある時は普通の人間に使うことを想定していないような妖しい道具で嬲り尽くされ、ある時は人間の集団に「透明な女」として玩具のように凌辱される。


それらを屈辱と感じられなくなるほど魂が麻痺していると気付いた時にはとうに、魂の形はもう、従順な牝奴隷として変身を遂げていた。


すなわち、快楽への屈服に抵抗する術など、既に、どこにもない。



「おっほおおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ♥♥♥♥」



かつての特級呪霊、今や性奴隷として仕上がった肉から下品に蕩けた声が突きあがる。もはや何度目かも分からず絶え間なく浴びせられる絶頂の衝撃。連続した思考をほとんど許さない快楽の蹂躙。

死に際で掴んだ魂の本質。かつてはそれで真の姿へたどり着くことが出来た。――では今は?

牝奴隷として完璧に「完成させられてしまった」魂、すなわち自分の新しい姿、本当の自分の姿は――――快楽の器。

理性の存在を否定するような、有無を言わさず本能を快楽で塗りつぶすような、ただ牝の喜びを全身で表すだけの肉人形。



「きた♥きたっ♥♥きたぁ♥♥ああっ、あ、ああぁあ♥♥ひぎィい♥♥♥♥♥♥いっ♥♥だあ゛っやら゛やあ゛っ!!!!やだぁああ゛あ゛ああああ」

ごきゅキュキュキュッ


子宮口が力強くこじ開けられ、無数にも思える翼鰓呪霊の触手の先端部がゴリゴリと我先にと押し当てられ、粘りを引いた熱い何かが硬い打撃のように注ぎ込まれる。

魂の本質からフィードバックされた快楽の濁流に意識はまたしても吹き消される。周囲の低級呪霊への恥も威厳もなくイき狂う。獣のような太い嬌声が胎の底から生き物のように迸る。

粘液がこびり付いた薄水色の長い髪と、絶え間ない愛撫で所々充血した死人色の肌。

そこにはかつて実力を持つ呪術師をも何人も屠り去った特級呪霊の面影はもはや残されていない。

全身を形作る膨大な呪力と、今なお甘ったるく発せられるその香り以外は。


「ひんら゛、ぅ…… ちく、しょぉ、んぉ、……はふっ♥はっ♥はひ」


呪霊は共食いにより力を得る。

目の前の極上の食材はビクビクと痙攣し、白目を剥き、上下の口から湯気を立てて大量の牝潮と愛液と精液を垂れ流している。

翼鰓呪霊には当然、確実に弱らせるためにさらなる凌辱を行わない理由はなかった。


(うぅ゛う~~……ッ゛、ィッッ……こ、いツ゛ぅ、まだ……っ)


触手腕が蠢き何度も体位を変えられる。ある時は四つん這いにされ、ある時はいわゆるまんぐり返しにされ何度も種付けをされる。

絶頂したと思ったそばから牝穴を激しく犯され、絶え間ない快楽のフィードバックに完全敗北し感謝の叫び声を上げながら股を広げ、涙と涎を流しながら凌辱を受け入れた。



微かな。

微かな閃光が空気を斬る音。



「い、たどりィ……」



翼鰓呪霊が、自らの身体を粉々に粉砕する黒い閃光の正体を知ることはついに無かった。






Report Page