逃亡海兵ストロングワールド⑭─2

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第十六話 正門前の戦い 後編




俗に言う非加盟国というのは、いくつかの種類に分けられる。

一つは、世間一般が想像する通りの国だ。世界政府に納める天上金のない貧乏国家。この手の国は犯罪の温床となりやすく、特に今の時代であれば海賊に荒らされ、略奪の標的となることも少なくない。そして加盟国ではない以上誰も助けてはくれない。故にこの手の国はただただ荒れ果てていく国であることが多い。

一つは、戦争を繰り返す中で国家としての統治機能を失った国。その戦争が他国に対してのものであれ、内戦であれ。常に血を流し続ける国は荒れていくしかなく、そうなれば天上金など支払う余裕はない。最悪なパターンは代理戦争の舞台となっている場合だ。世界政府の加盟国でない以上、調停に入る者もいない。そうなると、いつか国家そのものが消滅することさえもありうる。

一つは、そもそも加盟国になることを考えていない国だ。戦力であったり技術であったり立地であったりといった要因によって容易く干渉できない立場にあり、そして国そのものも単体で運営できている国。前者二つと比べると非常に真っ当な国家と言える。ただこの手の国は鎖国状態にあることも多く、海外の情報をあまり仕入れられないため思わぬところでトラブルに巻き込まれることもあるのだが。

ただ、これらに属しないタイプの非加盟国も存在する。当たり前の話だ。人の生き方が人それぞれであるように、国家のあり方も様々なのだから。

しかし、この国の在り方についてはその中でもあまりにも特殊であった。


“やはり、無理か”

“すまない。彼にも感謝と謝意を伝えて欲しい”


その国の名は、アラストゥル。

かつて国が栄えたものの戦争によって滅び、そしてとある海賊が無法者を集めて建国した国だった。その国ができたのは約十年前。知る者さえほとんどいない国だ。

決して大きな国ではない。だが、その国の住民たちは苦労は多い中でも確かに生きてきた。


“残念だ。こちらに来る意志はあるのだろう?”


若い国である上に、そのできた経緯もあってこの国の王には居城はない。小さな一軒家の一室で、その王は来客と会談している。

王も巨漢と言える体格をしていたが、来客者はそれ以上の体格であった。少し広めに造られた部屋が狭く感じるくらいに。


“順番の問題だ。お前たちと先に出会っていたら、おそらく肩を並べて戦うこともしただろう。……シキの計画が終わり、私の役目を終えた後にまだ席があるのであれば”

“いつでも用意している”


即答だった。王はその解答の速さに苦笑する。


“過大評価だ。ただの海賊、それも傘下のいない男に対するものではない”

“お前が優秀な男であるのはこの国を見れば一目瞭然だ。世界政府の誘いもあっただろう?”

“おそらくその選択が一番賢かったのだろうが、それについては無理だ。……そのせいで皆には苦労をさせてしまうが”


チラリと、王は外を見た。そこでは目の前の来客が連れてきた者たちと共に国を出る準備を進める島の住民たちの姿がある。


“残念だ。もしかしたら共に戦えたかもしれん”

“勧誘があったのは随分前の話だ。能力不足として追放されていたかもしれない”


静かな会話であった。共に海賊として世界に名を響かせる立場であるというのに、非常に穏やかな空気だ。


“私もそう裕福ではない。彼らを任せる礼としては少ないだろうが、用意できる精一杯を用意したつもりだ”

“十分だ。しかし、お前はどうするつもりだ”

“私は世界政府の言うところの無法者国家の王だ。……王が逃げて滅びる国など、笑い話にもならない”


再びの苦笑。勝算はあるのか、と来客者は問う。


“政府はバスターコールさえも視野に入れている”

“私一人ではどうにもならないだろうな。だが、何人かは残ると言ってくれている。それに”


窓の外へと視線を向ける王。そこには、一人だけ異質な服装である着流しの男がいた。


“ウハハハハ、すまぬでござるな酒を貰ってしまって。ん、金品? そんなものいくらでも持っていくでござるよ。お主らの今後の生活のためでござる”


去りゆく者たちへと声をかける男は酒を飲みながら上機嫌だった。その姿を見て、常に冷静である来客も少し言葉に呆れた様子が混じる。


“あれが勝算か?”

“勝つのは不可能だろう。相手は世界政府だ。私たちはそれをよく知っているはず”


王が肩を竦める。そうか、と来客は頷いた。


“……そろそろ我々は出る。武運を祈っておこう”

“面倒をかける。すまない。──くま”


来客──バーソロミュー・くまへと王はそう声をかけた。いや、と彼は首を振る。その彼に対し、王は言葉を続けた。


“帰る場所がない者というのは存在する。……ここが、彼らにとっての居場所になればと思ったが”

“世界政府にとってこの島はあまりにも目障りなのだろう。──フィッシャー・タイガーが逃した奴隷たちが造った国など”


その言葉に、王はつまらなさそうに頷いた。


“そうなのだろうな”


決して外に向かってその事実を公表したわけではない。だが、人はどうしても気に入らないものが目につくようだ。

おそらくこの国は存在しなかったことにされる。元々できたばかりの対外的に国を名乗っていただけの小さな集落のような国だ。世界政府がその気になれば容易く消すことができる。


“最後に、聞かせてくれ”


立ち上がったくまが、この奴隷たちが造った国の王に問う。


“この国の名の由来はあるのか?”

“……あまり声高に言うものではないが、お前になら教えてもいい”


言うと、王は自身の手を眺めた。そこには随分と古びた指輪が嵌められている。


“私の過去そのものだ。私が救えなかった、奴隷として生きていた女の名だ”


この王が、この国を造った理由。

行き場のない奴隷たちを抱え込み、人として生きられる場所を造った理由だった。


“……すまない”

“構わない。この名前を覚えていてくれれば”


そして来客を見送るため、王も立ち上がる。その彼に対し、“暴君”と呼ばれた海賊は言葉を紡いだ。


“改めて、武運を。──ラウンド”

“ああ。──友よ”



その数日後、とある非加盟国が消滅した。

当初はニュースとなるはずのなかったその事件はしかし、とある海賊の蛮行によって世界中へ衝撃として伝わることになる。

事件の中心にいたのは、“殺人鬼”と後に呼ばれることになる海賊。

千人を超える海兵を殺戮したその海賊は、その死体を槍に突き刺した上で晒し者にした。更にその場所にあった国さえも破壊したという。

故の、“国呑”。

故の、“アラストゥルの悲劇”。

かつて“酒呑”と呼ばれた海賊が起こした事件に、世界中が戦慄した。

──ただ。

王と呼ばれた海賊の名は、不思議とニュースにならなかった。



◇◇◇



その賞金首は、“墓荒らしのレムナント”と呼ばれている。

かつては世界政府の研究機関に籍を置いていた男だ。そのトップである世界最高の頭脳の倫理観のこともあり、研究において大抵のことは許される。だが、彼のそれは常軌を逸していた。

表向きは彼の二つ名の行いである墓荒らしによって追放された。だが実際は違う。決して表立っては言わないだろうが、『その程度』で優秀な人間を追放するような愚を世界政府は犯さない。

故に、本当の理由は別だ。この男は世界政府における最高の頭脳の研究を盗み出そうとしたがために追放された。

そのことについて、まあしゃーない、とは本人の談である。少々自分の研究が行き詰っていたためにリスク承知で手を出したのだ。そして賭けには負けた。だからこうなっている。

この辺りを自覚しているので本人は自分はまだマシと思っている。周囲からすればどんぐりの背比べだが。


「さて、状況の整理だ」


戦場の様子を眺めながら、レムナントは呟く。

頭脳労働が本職というだけあり、本人の体力は絶無と言っていいほどにない。百メートル走るだけで限界を迎えるレベルのもやしである。

故に彼は、『外付けの力』を利用することにしたのだ。それが今彼が着込んでいる『スーツ』であり、彼が生み出した『フランケン部隊』である。


「海兵どもはこの城の門を突破しに来てる。まあ当たり前だわな。で、ドリーマーがその防衛の指揮を任されてるが、あそこでラウンドの野郎と一緒に向こうの主力とぶつかってるときた。……いや強いなあの海兵ども。普通にやり合ってるだけでバケモンだろ」


自分自身が相手を倒すだけの力を持たぬが故に、レムナントは相手の実力を推し量る能力については優れている。かつての同僚たちからも評価されていた部分だ。彼が将来有望な海兵だと思った人物は、そのほとんどが時を置かず活躍している。

弱いからこそ慢心せず、自分にとっての危険を嗅ぎ分けるという本能。この時代、この世界においてある意味最も重要な能力かもしれない。


「で、数はこっちが上だが怪物共が乱入してきた混乱もあって互いに動きにくい状況と。……ふむ、じゃあおれの役目はあいつだな」


視線の先にいるのは海兵たちの指揮をとる男、ドーベルマン中将だ。世界政府に所属していた時に何度か見たことがある。

海兵というのはどうにも真面目な奴が多いとレムナントは思う。まあこのクソみたいな世界で“正義”なんて掲げようとするアホだから当たり前なんだろうが、とも。


「巨人が動いたぞ!」


海兵のうちの一人が声を上げた。こちらに向かって複数の弾丸が放たれる。だが、その悉くが弾かれてしまう。


「無駄だ馬鹿共め」


分厚い鎧を着込んだ巨人。死体を改造して作られた彼の『スーツ』は生身の生物とは根本的な出力が違うように作られている。追放されるきっかけとなった『パシフィスタ』なるサイボーグの初期構想のうち、利用できる部分を注ぎ込んでいるためだ。

通常であれば、いくら巨人族でも重みで動きを阻害されてしまうほどに分厚く、重い鎧。それも死体であり、体の中身を徹底的に改造されていれば何の問題もない。


「吹き飛べ海兵共ォ!」


複数の弾丸と砲撃を受けても、その巨人はびくともしない。取り出した巨大な剣を力任せに振り下ろす。

轟音と共に地面が割れた。太刀筋には何の技術もない。ただただ純粋な出力だけで彼の技術はそれを成し遂げる。


「テメェが指揮官だな!」


ドーベルマン中将へと刃を向けるレムナント。それを周囲の海兵たちが止めようとするが、レムナントの操るスーツの背後から新たに人影が現れる。

それは鎧を着た集団だった。鎧の胸元にはシキの海賊旗のマークが刻まれているのだが、その集団はまるで軍隊のように規則正しく行進をしている。

いや、或いは正式な軍隊である海軍のそれよりも足並みが揃ったものかもしれない。


「増援か!?」

「お前たちはそいつらの相手をしろ! “墓荒らしのレムナント”は私が相手をする!」


部下に指示を出すドーベルマンは刀を抜くと、彼自身もレムナントに向かって切り込んでいく。対し、レムナントも受ける構え。


「不合理だなァ海軍! この力に勝てるか!?」

「ぐっ!?」


一度めの激突は、振り下ろされた刃をドーベルマンが受け止める形になった。その衝撃で彼の足が地面に減り込む。


「中将殿がわざわざ相手してくれるなんて光栄だねぇ!」

「く、この出鱈目な動き……!」


レムナントが何度も刃を振り下ろす。それはやはり戦う技術を持つ者の動きではないが、その破壊力だけで十分脅威だ。

対し、ドーベルマンは正面から受けるのではなく受け流す形での対処に方針を変える。

金属音が幾度となく鳴り響く。レムナントの攻撃は重いが、素人の剣術だ。それで簡単に殺せるほど海軍本部中将という肩書きは甘くない。


「流石だな海軍本部……!」


呟くレムナント。だが想定内だ。故に彼は一つの機能を発動する。

巨人の右腕、その鎧の一部が開いた。そこから突如白煙が噴き出す。

視界を奪う煙。ドーベルマンが声を上げた。


「毒ガスか!?」

「あのクズならそうしたんだろうがな。残念、ただの煙幕だ」


視界が奪われるが、ドーベルマンは“見聞色の覇気”によってレムナントの位置を捉えようとする。だがその焦りが、彼の背後から迫る影に気付かせなかった。


「なんだ!?」


突如、複数の鎧を着た者たちがドーベルマンに飛びついてきた。人間と比べてあまりにも気配の薄いその存在に、ドーベルマンの反応が遅れる。

振り払おうと力を込めるが、見た目以上に力があるためかすぐに振り払うことができない。そしてその隙を、レムナントは見逃さない。


「吹き飛びなァ!!」


直後、巨人の兜が開いた。そこにあったのは顔ではなく、巨大な砲門を持つ大砲だ。

そして、砲撃。


「ドーベルマン中将!」

「中将殿!?」


連続して砲撃がドーベルマンへと叩き込まれた。彼を抑え込んでいる鎧を着た者たち──『フランケン』も巻き込む攻撃だ。

吹き飛ぶ鎧とフランケンたち。その中心にいたドーベルマンがどうなったかなど、想像に難くない。


「卑怯とは言うなよォ!?」


レムナントの笑い声が響く。

シキの居城、その正門前。その戦場の状況がまた変化する。



◇◇◇



状況の変化に、背中合わせで戦う海兵二人も意識を向ける。


「なんだあの鎧兵は!?」

「フランケン部隊っていうらしいぜ、アラバスタの英雄様?」


ドリーマーが笑う。彼の蹴りを、スモーカーは自身の体を煙にすることで避けた。


「あのもやし野郎が作ったサイボーグ兵器だそうだ。あいつと親分の指示を忠実に聞く死体兵士なんだと。所詮死体だからな。そりゃ捨て駒にくらいする」

「死体兵士だと? テメェらの倫理観はどうなってやがる!」

「おいおい英雄様、その言葉はそのままお前らに降り掛かるだろ」


地面から突き出してきた土の槍を見て、二人が互いに距離を取る。そちらに槍を出した男であるラウンドは横手から放たれたヒナの拳を槍で受け止めた。


「同感だ。世界政府の犬に倫理を説かれたくはない」

「海賊に説教される謂れはないわ」


槍を掴み、体ごと捻るようにして投げようとするヒナ。だがラウンドは槍を手放すと、その腹の部分から複数の槍を出現させてヒナを狙った。

転がるようにして横に飛び、それを避けるヒナ。その彼女に対し、新たな槍を手に持ったラウンドが容赦なく突きを入れる。

だが、その槍はスモーカーが展開した白煙が彼女を掬い上げるようにして彼の側に引き寄せたため空を切り、地面を突き刺した。


「つまりはお互い様ってことだろ、世界政府?」


並び立つ二人に対し、肩を竦めるドリーマー。ほざけ、とスモーカーがそんな彼に対して十手を突き出す。


「私利私欲で好き放題してるテメェらが何を語る!」

「理由があれば何をしても許されるってか!? 随分立派な“正義”だな英雄様よォ!?」

「掲げる信念さえない男に何かを言う権利はないわ」


突き出された十手をドリーマーは避けた。だが、十手が突き出されたと同時にヒナが動き出している。十手の下を滑り込むようにして走り込む彼女は、そのまま突き上げるような拳を放った。

鈍い音と共に、その腹部へと右拳が叩き込まれた。更に身を捻り、ヒナが左足でドリーマーの顎を狙った蹴りを放つ。

だが、それは後方へと身を逸らしてドリーマーは紙一重で避けた。小さく笑みを浮かべる彼はしかし、次の瞬間には表情を変える。


「“ホワイト・ブロー”!」


スモーカーが放った渾身の一撃で顔面を殴られ、後方へと吹き飛ぶドリーマー。その彼を、ラウンドが土で作ったネットで受け止める。


「……無事か?」


呟くように問うラウンド。それに対し、口元の血を拭いながらドリーマーが応じる。


「チッ、今のは効いたぜ。だがテメェ、何を傍観してやがる?」

「すまないな。私が手を出せばお前を巻き込むと思った」


特に感情も乗せずにラウンドは言う。チッ、とドリーマーは舌打ちを零した。


「おれがテメェの一撃を避けられねぇとでも? 軟弱なテメェの部下と一緒にするんじゃねぇよ」

「生憎だが私に部下がいたことはない」

「あァ? どこぞの国の王だったんだろ?」


ドリーマーが眉を顰める。昔の話だ、とラウンドは目を伏せた。


「私は常に個人で戦ってきた。友人はいたが部下はいない」

「……過去について詮索する気はねぇが、テメェの役目は果たしな。言った通りだ。テメェの横槍程度、いくらでも捌いてやる。あいつらを潰すのが先だ」

「承知した」


頷くラウンド。彼が足で地面を叩くと、噴き出すようにして複数の槍が出現した。

まるで彼とドリーマー、そして相対する海兵二人を取り囲むようにして出現するそれらを見て、スモーカーが鼻を鳴らす。


「どういうつもりだ?」

「私なりの敬意だ。──お前たち二人はここで殺す。生きて出られると思うな」


ラウンドが宣告する。上等だ、とスモーカーが吠えた。


「お前ら海賊は全員この場で逮捕する!」


そして、彼の同期でもある女将校ヒナも静かに応じた。


「覚悟をするのはあなたたちよ」


その二人の言葉を聞き、“新世界”の海賊も笑う。


「いいねぇ! そうじゃねぇと張り合いがねぇよ!」


シキの居城、正門前。

億超えの“新世界”の海賊と、二人の海軍将校が激突する。



◇◇◇



至近距離からの連続した砲撃を受けてなお、ドーベルマンの意識は途絶えていなかった。


(状況を……!)


視界が歪み、意識が揺れる中で彼はそれでも己自身を叱咤する。彼の後輩でもあるスモーカーとヒナがあの怪物と相対しているのだ。ならばこの場で先に自分が倒れるわけにはいかない。

彼はかつて、幾度となく“大地の王”とまで呼ばれた海賊と戦った経験がある。その最後の戦いだと思っていたあの場にもいた。

故に知っているのだ。あの怪物がどれほどの力を持っているのかを。


(屈してなるものか……!)


油断した、不覚をとった──そんな後悔だけが何度も脳裏に浮かぶ。

甘く見ていたわけではない。海賊との戦闘において卑怯も汚いもない。奴らはなんだってやってくる。ましてや相手はその崩壊した倫理観故に世界政府を追われた男なのだ。


『流石だな! フランケン共は吹き飛んだってのによ!』

「おのれ、貴様……!」


刀を杖代わりにし、立ち上がる。直後、横なぎに振るわれた巨大な剣がドーベルマンを襲った。

咄嗟に刀でガードできたのは訓練の賜物だろう。だが堪えきれず、弾かれるようにして吹き飛ばされる。


「ドーベルマン中将!」


声が聞こえるが、応じる余裕はない。こちらへと歩み寄る巨人を見据えるしかない。


『まあ、とりあえずあれだ。──お疲れさんだな、中将殿』


嘲笑うようなレムナントの言葉。それを迎え撃つために立ち上がろうとしたところで、ドーベルマンの“見聞色の覇気”がそれを捉えた。



「一斉掃射だらァ!!」



聞き覚えのある同僚の声と共に、無数の銃声と砲撃音が響き渡った。ほぼ同時に、巨人の体に無数の弾丸と砲弾が着弾する。巨人は身に纏う鋼鉄の鎧はしかし、傷こそつくがダメージはほとんどないようだ。しかし、衝撃によって少し後退する。

ドーベルマンが振り返る。すると、スカーフで口を隠したぶかぶかの帽子を被った海兵が走り寄ってきた。


「到着が遅れて申し訳ありません。第二陣到着しました」


そう言った彼の背後では、先ほどの一斉掃射を指示した人物──バスティーユ中将を筆頭とした海兵たちが続々と現れていた。見れば自走式の大砲などといった兵器についても持ち込んでいるらしい。


「これより、我々も戦闘に加わります」


その言葉を聞いて、ドーベルマンは小さく笑った。体に気合いを入れ、立ち上がる。

中将殿、と制止の意図が込められた言葉で呼びかけられるが、ここで立たずしていつ立てばいいというのか。


「総員、奮起せよ!!」


絞り出すような声だった。数で劣り、待ち構えられている状況での戦闘。更にフランケン部隊などという正体不明の鎧兵たちの出現。どうしても海兵たちの士気は下がりつつあった。

だがそれも、援軍の到着によって潮目が変わった。ならばここで流れを掴まなければ。


「海賊という“悪”の進撃はここで止めるのだ! 我らの“正義”は決して負けん!」


おお、と彼と共にこの場に送り込まれた第一陣の海兵たちからも声が上がる。

援軍と、自分達の指揮官の健在。それを示すことができれば、この場の海兵たちの心は折れない。折れるような者はいない。

指揮官の最大の役目は兵の士気を保つこと。故に彼は倒れてはならない。

──彼が憧れた“先生”は、いつだってそうだったから。


『やってみろよ偽善者共が!』


対し、かつて世界政府の側にいた男が吠える。

銃声と砲撃音が重なり、戦闘が激化する。


『ぶっ殺せ! 数ではこっちが上だ!』

「海賊という“悪”を許すな!」


決して相入れない二つの勢力の激突。

この戦争の状況を左右する戦いは、より加熱していく。




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