逃亡海兵ストロングワールド⑫─2

逃亡海兵ストロングワールド⑫─2



第十三話 とある海兵の想い 前編






あの二人との縁の始まりについては、奇妙というか、唐突な形によるものだった。

海兵としてのキャリアもそれなりに長くなってきたと感じ始めた頃、突然元帥であるセンゴクから呼び出されたのだ。

ただ、今は“大海賊時代”である。緊急事態など常のことであり、相応の立場を得た自分が呼び出されるのも当然のことだった。


“入ります”

“ああ、楽にしてくれ。……先に祝いの言葉を述べておこう。少将への昇格おめでとう”

“ありがとうございます”


海軍本部元帥センゴクのその言葉に、海軍式の礼で応じる。彼に促されて席に座ると、早速という風に彼は言葉を紡いだ。


“実は頼みがあってな。とある新兵二人を部隊に入れて欲しい”

“新兵を、ですか”


その言葉には正直困惑した。先日少将に昇格した自分の部隊はその肩書きに応じて危険な役目を担うことになる。それこそ強力な力を持つ海賊の捕縛というのは常だ。

そこに新兵を入れるというのはあまりにも危険な話である。右も左もわからぬ新人では命を落としかねない。

だが、センゴクは大丈夫だ、と言葉を紡ぐ。


“新兵ではあるが、既に二人とも伍長に昇格している。将校になるのもすぐだろう。戦闘能力という点では間違いはない”

“伍長に、ですか。それはまた随分と早い。スカウト組ですか?”


新兵の入隊から数ヶ月と経っていないはずだ。それでその地位を与えられるというのは、尋常じゃない出世スピードである。

ただ、海軍には通常とは違いスカウトで入る者もいる。元賞金稼ぎや国家の軍隊、傭兵などが多いのだが彼らはその実力を買われて海軍に入るため出世スピードも早いのだ。


“いや、正規の手続きを経た新兵だ。出身は東の海”

“東の海ですか”


かつて“海賊王”が生まれ、そのライバルたる“英雄”が生まれた海だ。しかし、この大航海時代においてその海は別の名で呼ばれている。

曰く、“最弱の海”。

名を上げる海賊の多くが小粒であり、他の海と比べると平和な海だ。そんなところからそこまで突出した人間が出て来るのか。


“男女の二人で幼馴染だそうだ。フーシャ村という東の海の辺境で育っている”


言いながら、センゴクは一枚の写真を取り出した。新兵たちの集合写真だ。数十人といる中で、中心にいる二人を示す。

一人は、満面の笑みを浮かべた少年だ。麦わら帽子を背中に回し、海軍帽を被って少し不恰好な敬礼をしている。その隣にいるのは、鮮やかな紅白の髪をした少女。こちらは緊張した面持ちで、しかし、少年と比べるときっちりとした敬礼をしている。


“少女の方はともかく、こちらの麦わら帽子を持っている方が問題でな”

“問題とは?”

“名をモンキー・D・ルフィ。……ガープの孫だ”


その言葉に衝撃を受けた。ガープといえば世界中の海賊が恐れる“海軍の英雄”だ。その孫ともなればどうしても期待がかかる。


“私が懸念することと、お前たちの抱く『期待』の本質は同じだ”


こちらを見つめながら、センゴクは言う。


“ガープの孫であり、既にこの短期間で伍長に昇進するほどの才覚を示していると言う事実はあまりにも大きい。……誰も彼もが、この少年を『ガープの孫』としか見なくなってしまうほどに”


その言葉を受け、思わずハッとなった。自分がまさしくそうだったのだ。

改めて写真を見る。笑顔の彼はあまりにも若い。十五になっているかどうかというぐらいに見える。

彼の“海賊王”が引き起こした“大海賊時代”において、海軍は変革を迫られた。平時であれば後進の育成にも余裕があったが、今の時代においてそんな余裕は少ない。実力があればすぐにでも昇格し、危険な任務につく。

才能ある若い海兵が、その才能が開花する前に命を落とす姿を何度も見てきた。それでもこの少年の見た目からする年齢を考えれば猶予はある。……彼の出自が、通常のものであるならば。


“才能ある若者、ガープの孫。この二つが揃えば不幸な未来はいくらでも想像できてしまう。……だからこそ、任せたい”

“何故、私なのでしょうか”

“人格と実績に対する信頼だ”


こうまで言い切られてしまうと何も言えない。

まあ、元より断る権利もないのだ。了承を返すと、海軍の総指揮官は露骨にホッとした表情をした。


“そうか。まあ、苦労するだろうがよろしく頼むよ”


そう言って、彼はこちらの肩を叩いた。まるで重い荷物を下ろしたかのような、清々しい笑顔だ。

……その表情の意味を理解するのに、長い時間は必要なかった。



◇◇◇



無数の銃口が向けられている。数はおよそ三十。

どれほど肉体を鍛えようとも、銃弾によって人は死ぬ。銃という武器は生物を殺すために生まれた道具であることを考えれば当たり前だ。

そしてそれは、銃口の先にいる海兵──モモンガも例外ではない。


「卑怯だなんて言うなよ〜? テメェらが普段からやってることなんだからよ〜?」


こちらを煽るような声。視線を向けると、そこにいたのは巨漢の道化だ。

黒い仮面に白い道化服。その海賊の名は、“返り血のブルチネラ”。かつてシキの右腕として恐怖と共に伝説となった“殺人鬼”を除けば、シキの今の配下では一番の大物だ。


「それにしても、まさかこんな機会を手に入れられるなんてなァ」


笑いながら言う彼の周囲、モモンガを囲むようにして立っているのはブルチネラの率いる海賊団の者たちだ。全員が彼と同じ黒い仮面を着けている。その全員が口元に笑みを浮かべていた。

ガープの大暴れから退避したモモンガはブルチネラを逃すべきではないと判断し、追うことにしたのだ。そして辿り着いた広間で向かい合う二人を囲むようにこの道化の部下たちが姿を見せ、今に至る。


「モモンガといやァあの小僧と小娘を育てた海兵だ。あの小僧に殴られた恨み、テメェで晴らしてやるぜ」


笑みと共に言う道化。その言葉に、ふっ、とモモンガは小さく笑った。


「何がおかしいんだテメェ?」

「いや……育てた、というのは誇張だ。私はただ新兵だったあの二人を預かり、当たり前のことを教えたに過ぎない」

「あァ?」

「むしろ……私の方が教えられてばかりだ」


モモンガは腰の刀の柄に手をかける。それを見て、構えろ、とブルチネラが怒鳴るように叫んだ。


「妙なことをする前に撃ち殺せ!」

「遅い」


超高速の移動術、“剃”。まるで姿が消えたかのように錯覚するほどの移動術。相応の実力者でなければ目で追うことは不可能だ。

しかし、ここにいる“返り血のブルチネラ”──懸賞金が五億に迫るほどの“新世界”の海賊たちに弱卒などいない。


「遅いのはテメェだ!」


ブルチネラの言葉の通り、彼の部下たちはモモンガの動きを捉えていた。空中へ飛んだ彼に、銃口が向けられる。

なるほど、と呟いたモモンガは空中を蹴った。空を駆ける技術、“月歩”だ。

銃弾が空を駆けるのと、彼がその場から離れたのは文字通り紙一重の差である。いくつもの銃声が轟いた。


「上手く逃げたな!」

「撃て撃て!」

「蜂の巣にしちまえ!」


海賊たちが床に着地したモモンガへと照準を合わせる。一度引き金を引いてしまえば後はもう躊躇はない。元より海賊と海兵。あるはずもないが。

故に彼らは何の疑いもなく引き金を引いた。ただ、一人だけ。


「待て!」


この場を仕切る男だけがそれに気付いたが……遅い。

──鮮血が舞い。


「うあ……!」

「ぐっ!」

「ぎゃあああっ!」


いくつもの悲鳴が響き渡った。放たれた銃弾は標的には当たらず、海賊たちを貫いたのだ。

考えてみれば当たり前だ。取り囲むような状態で銃弾を放ち、それが標的に当たらなければ向かい合う者同士で撃ち合う形になる。


「馬鹿どもが!」


ブルチネラが怒鳴ると共に、海賊たちが複数人倒れる。残った者たちが慌ててモモンガに照準を合わせようとするが、大人しく止まっている彼ではない。

鼻が床につくのではないかというくらいにギリギリまで身を屈めた彼は、そのまま滑り込むようにして自身を囲む一団のうち、ブルチネラのいる方とは反対側へと斬り込んだ。

鮮血と悲鳴。銃声が遅れて響くが、目標の海兵のものではない。


「テメェ!!」


怒鳴るような声と共に、ブルチネラが踏み込んだ。モモンガはそんな彼から距離を取るために後方へと飛ぶと、倒れた海兵の銃を手に取る。

銃声が響く。ブルチネラの部下の一人が、モモンガによって撃ち抜かれたのだ。


「銃は海兵の嗜みだ。……物騒な上に、約一名どうしてもできなかった者がいるが」


自分のパンチは銃より強いと言っていた青年を思い出す。事実、その肉体で戦い続けているのだから大したものだ。


「チッ、テメェら武器を変えろ!」


ブルチネラが怒鳴るように指示を出す。その指示を受けて海賊たちが武器を変えようとするが、その前にモモンガが動いた。

彼が懐から取り出したのは、いくつもの爆弾。栓を抜けば数秒後に起爆するそれを彼は部屋へとばら撒く。


「敵の本拠地に少数で乗り込むというのに、“こういった方法”を考えなかったとでも?」


呆れたものだという、彼の呟きは。

閃光と爆音に掻き消された。


「…………」


煙が晴れ、爆発前の一瞬で部屋の天井近くへと退避していたモモンガが着地する。彼は眉間に皺を寄せた表情で前方を見つめていた。


「……部下を盾にするのか」

「あァ? 海兵一人殺せねぇ役立たず共だ。このぐらいは役に立ってもらわねぇとなァ」


応じたブルチネラは、その両手で自身の部下の頭を掴んで盾にしていた。虫の息の彼らを、投げ捨てるようにして放り出す。


「所詮は海賊か。仲間意識がない」

「利益のために集まってんだ。切り捨てられるのも想定内だろ」

「醜いな」

「この世界で最も醜い連中の御用聞きがほざくんじゃねぇよ」


笑うブルチネラと、睨むモモンガ。既に彼ら以外、立っている者はいない。


「まあいい。こいつらはおれの強さに寄ってきた蝿みたいなもんだ。いなくなろうが知ったことじゃねぇ」


言うと、ブルチネラは近くに倒れている自身の部下を蹴り飛ばした。二人が向かい合う、小さな空間が出来上がる。


「お前らがおれの首に懸けた金は五億近く。お前を殺せばまた上がるだろうなァ」

「できるものならな」

「できるからこうしてんだよ海軍本部!」


巨漢の道化が、その剛腕を振るった。刀でそれを受け止めたモモンガの腕が、衝撃によって痺れる。

そのふざけた衣装や言動、立ち振る舞いで誤認しやすいが五億近い懸賞金を懸けられた海賊が弱いわけではない。それほどの大金がその首に懸けられているということは、世界政府がそれだけの危険をこの海賊に感じているということでもある。


「テメェら海軍が何度おれを捕らえようと向かってきた!? その悉くが失敗に終ってんだよ! いい加減理解したらどうだ!?」

「ならば今日が最後の日だな」


弾くように刀を振るい、その脳天に対して返す刀で振り下ろす。だが、その一撃はクロスした腕でガードされた。

拮抗する力。その中で、二つの意志がぶつかり合う。


「貴様の悪行もここで終わる」

「ほざいたな海軍本部!」


戦闘、開始。



◇◆◇



センゴクのあの表情の意味を理解するのに必要な時間は、三日だった。

配属の決まった二人、ルフィとウタという新兵をモモンガの部下は喜んで受け入れた。共にまだ十代の若さで、隊員たち全員にとって弟や妹のような年齢だ。どうしても庇護の感情は出てくる。

海兵になる者には故郷に家族のいる者も多い。いやむしろ、そういった者が大半だ。この時代において人を守るために戦いの道を選ぶのだから、その背景に家族を始めとする大切な誰かがいる場合は多い。

そんな彼らにとって、故郷にいる家族の姿と重なる部分もあるのだろう。二人はすぐに馴染んだ。特にルフィについてはその天性の明るさから初日には仲良く宴会をしているくらいだ。

これなら大丈夫だろうか、とモモンガは思った。“英雄”ガープの孫ということで、複雑な何かを抱えている可能性を懸念したがその辺りは気にしていないらしい。

ウタの方は当初少し人見知りをしていたが、それもルフィに引っ張られるようにすぐ馴染むようになる。女性海兵たちからは妹のように可愛がられていた。

大きな問題はないと、そう思っていたのだ。……最初の騒動が起きるまでは。


“言い訳はあるか?”


ずぶ濡れの状態でモモンガの正面に正座するのは、ルフィとウタの二人だ。ついでに言うとその後ろにも大量の海兵たちが正座しており、そのうちの数名はずぶ濡れである。

ことの起こりはこうだ。本部と連絡を取り、受けた任務についてモモンガを筆頭としたこの艦の指揮官たちで話し合っていたところ一人の海兵が飛び込んできたのだ。

──二人が海に落ちました! 艦の停止を!

モモンガはすぐに停止の指示を出し、甲板に出た。そこでは海から引き揚げられ、倒れている姿があったのだ。共に悪魔の実の能力者である。海に落ちれば何もできず、死は免れない。

何があったのかを聞いたモモンガは、躊躇いがちにされた報告に彼としては怒る前に頭を抱えるという初めての経験をする。


“報告によれば、海で樽レースなるものをして海王類と遭遇。戦闘になり、その余波で海に落ちたと聞いたが?”


凄まじい威圧感を纏いながら放たれるその台詞に、この幼馴染たちは揃って顔を逸らした。ついでに言うと彼らを助けたり様子を見ていた海兵たちも気まずそうにしている。

ことの発端は単純だ。休憩の時間、この二人が『勝負』を始めたらしい。どうも幼い頃からの習慣らしく、聞けばこの三日でも幾度となく行われていたのだとか。その際に行われた勝負では互いに納得する決着とならず、新たな勝負を始めたらしい。それが樽を船に見立てての競争、樽レースということだ。


“休憩の時間内だ。何をしようがこちらから干渉する気はないが、節度というものがある”

“……すみません……”


怒鳴らないのが余計に怖い。二人が頭を下げるが、その動きがやたらと流暢というか慣れた動きであったため、初めてでないなとモモンガ察する。

これは思ったよりも大変なのを任されたかもしれん、と彼は内心でため息を吐いた。


“ま、まあまあ二人とも初の長期航海で少し緩んだんでしょう”


そんな彼に、一人の海兵がそうフォローを入れた。その彼をジロリとモモンガは睨むようにして見据えると、改めて二人の方を見る。


“先に言ったように、休憩時間に何をしようが干渉する気はない。しかし、その結果周囲に迷惑をかけたのであれば罰を与えねばならん。それは風紀と節度を乱す行為だ。──よって二名は一週間の甲板掃除を命じる。併せて二人で懲罰室に入れ。交代の時間まで謹慎だ”


言い渡された罰に対し、二人が頭を下げる。全く、とモモンガは息を吐いた。


“コミュニケーションは大事だ。だが、やり方を考えるように”


先が思いやられる。

それが、この二人に対するモモンガの最初の感情だった。



◇◇◇



懸賞金とは危険度である。戦闘能力とイコールで紐付けされるわけではなく、例えば絶大な強さを誇っていようが他者に対して危害を及ぼさない人物であればそもそも懸賞金がかかることはない。

逆に民間人や世界政府に対して積極的に危害を加える者は懸賞金も高く設定される。億を超えるような者は基本的に近寄ることさえ危険な存在だ。

そんな中、五億に迫る懸賞金が懸けられた道化──“返り血のブルチネラ”は掛け値なしの危険人物である。白い道化服が血で染まるような暴れ方をするその男が犯した罪の数は最早数えきれないほどで、とある王国の国軍が半開に追い込まれたこともあるほどだ。

これほどの危険人物だ。海軍も何度も捕まえようとはした。しかし、その悉くを彼は逃げ切っている。平気で人質をとり、味方さえも切り捨てる残虐性と狡猾さでこの海を渡ってきたのだ。

彼の海賊団は入れ替わりが激しく、船長であるブルチネラ以外に名のある海賊はいない。はっきり言って木端の海賊たちだ。しかし、それを凶悪な一団としているのがブルチネラの存在である。

故に、油断はできない。モモンガは刀を握る手に力を込める。


「──ふっ」


一息と共に、モモンガは刀を大きく振り上げた。そのまま身を捻り、突きへと動きを変える。だが、ブルチネラはそれを大きく後方へと飛び退くことで避けた。

その巨漢からは想像できないほどの俊敏さだ。その仮面の下の目が怪しく光る。


「道化ってのはサーカスにおいて最も重要な存在だ。何でもできなきゃならねぇ」


言いつつ、ブルチネラはどこからか複数の棍棒を取り出した。取り出した数は十一本。それらで器用にジャグリングを始める。


「何が道化だ。貴様はただの海賊だ」

「あァそうだ。テメェの言う通りだよモモンガ。おれはただの海賊だ」


ただジャグリングをするだけでなく、途中で様々な動きを加えている。ここがサーカスのテントの中であれば、モモンガも拍手の一つでも送っていたかもしれない。


「だが人間、過去は消せねぇのさ。そして消せねぇなら利用する。──それがおれのやり方だ! “ジャグリング・ボム”!」


直後、ブルチネラが棍棒をこちらへと投げつけた。モモンガはそれを刀で弾こうとし、何か嫌な気配を感じてその場を飛び退く。


「い〜い判断だ!」


その飛び退いた先に、すでにブルチネラが先回りしていた。その手には指に挟んだ左右三本ずつのナイフがある。


「“ナイフ・コンタクト”!」


ナイフを握った拳による振り下ろすような攻撃。それをモモンガは受け流すようにして捌く。

単純な体格差が大きいのだ。力でも負けるつもりはないが、わざわざ正面から受ける意味はない。

そうして一撃目を受け流した瞬間、床に落ちた棍棒が爆発を起こした。床に倒れていた海賊たちがその爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされる。


「どこまでも外道だな」

「だから海賊なんだろうがよぉ!」


数度の金属音。モモンガが踏み込もうとした瞬間、それを察知したようにブルチネラが身を横へ逃した。

その際、牽制のためかナイフを全て投げつけてくる。それをモモンガが弾いたところで、ブルチネラは次の小道具を手にしていた。


「“バルーン・クラフト”!」


いくつもの風船を取り出すブルチネラ。それらは様々な動物の形をしており、色鮮やかなそれらが投げつけられ、モモンガの元へと殺到する。

だが所詮は風船。切り拓いて突き進むとモモンガは判断。


「おっと、言い忘れてたがおれの風船は特製でな」


モモンガが刀を振り、風船を斬る。その瞬間。


「釘入りだ」


弾けた風船から、無数の釘が飛び散った。モモンガの体に鉄釘がいくつも突き刺さり、或いは傷が入る。

その痛みにより、一瞬ブルチネラから目を離してしまった。それが致命の隙となる。


「“グランド・フィナーレ”!!」


一瞬で距離を詰めた巨漢がその渾身の拳を振り抜いた。側面からまともにその一撃を受けたモモンガは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


「あァ、言い忘れてたな海軍。道化ってのは体が資本だ。おれの拳は人ぐらい簡単に壊せるぜぇ?」


嘲笑うように言うブルチネラ。だが、直後。


「一刀居合」


その笑みが、消えた。


「“断割”!!」


一瞬でブルチネラの眼前へと移動したモモンガによる居合の一撃。その刃が、ブルチネラの左肩から袈裟斬りに叩き込まれた。

たたらを踏むブルチネラ。その白い道化服が自身の血で赤く染まった。


「生憎だが」


ブルチネラの眼前、英雄を育てた男は告げる。


「貴様の芸は見飽きた」


それに対し、道化が笑う。


「そう言うなよ! 本番はここからだ!」





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