逃亡海兵ストロングワールド⑧
第七話“信じてる”
シキの居城、その大広間。畳が敷き詰められ、金色の襖で仕切られた部屋にその者たちは集まっていた。
一番奥にいるのは、今回の発起人である伝説の海賊、“金獅子のシキ”。彼は一人玉座とも呼ぶべき椅子に座っており、その眼前には、数多くの席が用意されている。盃が置かれた台のあるその場所に、続々と船長たちが現れては着席していく。
配置としては、シキの前に道があり、それを挟むようにして座る形だ。そして席に着いた海賊たちの盃へ、順にイルが酒を注いでいく。
「ええっとぉ〜」
「おい、ブルチネラ。お前はこっちだ。何を新人どもの末席に座ろうとしてやがる」
黒い仮面に白い道化服の大男。“返り血のブルチネラ”が室内の端の席に座ろうとするのを見咎めて、シキが言う。
シキの側には、七人分の席が別に用意してあった。彼が“七武海”を模して作った高額の賞金首で構成される“七宝剣”のための席だ。彼らは既に盃を交わしているため、その席に盃は置かれていない。
「おめェが遅いせいで端だがな。さっさと座れ」
「いやもう、シキ親分の旗下に入れただけで十分でございますれば! いやー、申し訳ない遅れてしまって!」
そう言うと、彼はコミカルな動きで前へと歩いていく。他の海賊たちから小さな笑いが溢れた。
彼がシキの側の席に座ることで、“七宝剣”がこれで六人揃うことになる。
“毒蛇のカガシャ”
“墓荒らしのレムナント”
“返り血のブルチネラ”
"大地の王"ラウンド
“蹴撃のドリーマー”
"海災"アルキディクス
皆一様に、この場でシキが新入りと呼ぶ海賊たちより遥か格上の海賊だ。その光景を前に、海賊たちは自分たちがとてつもない男の下につこうとしているのだと改めて理解する。
ただ、七つ用意された席のうち一つが空いていた。それを一瞥すると、シキは酒を注いで回っているイルへと声をかける。
「イル。あいつはどうした?」
「はい。お伝えはしたのですが、その後は応じて頂けず」
「相変わらず、こういう場が嫌いか」
はあ、とため息を零すシキ。まあいい、と彼は頷いた。
「長ェ付き合いだ。今更でもある。──おい、イル。ゲストを呼びに行け」
「はい。しかし、お酒は」
「私が代わりましょう!」
勢いよく立ち上がったのはブルチネラだ。イルが困惑した表情でシキを見るが、彼は構わん、と頷いた。
ブルチネラはイルから酒を受け取ると、室内に現れる海賊たちに順に酒を注いでいく。五億に迫る懸賞金を懸けられた道化のその振る舞いに、海賊たちは皆一様に驚愕している。
そして、予定通りの人間が集まったのを確認すると、シキは全体をゆっくりと見回した。その覇気を受け、海賊たちが姿勢を正す。
「さて、よく集まってくれた。先に告げた通り、おれはこの世界を、海を支配する」
海賊たちは、黙してシキの告げる言葉を聞いている。
「ルールは一つだ。“裏切り者は殺す”。これからおれの配下に収まってもらうための契りの盃を交わしてもらうが……その前に一つ、お前らに謝らなければならねェことがある」
ざわりと、海賊たちに動揺が走った。何事かと思う彼らの前で、シキは腕を組み、悩ましげに頭を振る。
「おれは非常に寛大かつ、慈悲深い親分でありたいと考えている。当たり前だが、これから盃を交わすおめェたちは大事な、それはもう大事な仲間だ」
シキの言いたいことがわからず、困惑する海賊たち。それに構わず、シキは言葉を続ける。
「だから仲間の願いってもんは出来うる限り聞いてやりてェ。無論、できねェことはあるが、おれが聞いてやれる願いについては耳を傾けようと思っている」
「──お連れしました」
そこで、イルがとある女性を連れて入ってきた。海楼石の錠を付けられた、紅白の髪を持つ女。
胸で麦わら帽子を抱える黒いドレスの女性の登場に、海賊たちがざわめく。
「グッドタイミングだぜ、ベイビーちゃん」
小さく呟くシキ。彼は手を叩くと、騒ぐな騒ぐな、と彼としては気さくな雰囲気で言葉を紡ぐ。
「お前らもよく知ってるだろうこの“歌姫”は、おれの配下に加わった」
どよめきが広がる。“歌姫”の海賊嫌いは非常に有名なことだ。彼女の相棒である麦わらの男はともかく、“歌姫”は海賊に容赦をしないことで有名である。
そんな女が、海賊に?
「お前らが疑うのも無理はねェ。だが、おれが“歌姫”の願いを聞く代わりにおれの配下になることになったんだ」
「願いとは?」
ずっと黙し、状況を見守っていたアルキディクスが言葉を紡ぐ。
(演技が上手ェじゃねェか)
シキは内心の笑みを押し隠し、彼の問いに応じる。
「ああ、一つはこの“歌姫”の仲間を……まあ、元仲間だな。そいつらを見逃すこと。そしてもう一つは、東の海を狙うというおれの目的を止めることだ」
再びざわめきが広がる。しょうがねェだろう、とシキは肩を竦めた。
「おれは寛大で慈悲深い親分を目指してる。東の海の壊滅はおれの悲願だが、どうしてもと願われちゃしょうがねェ」
「おいおいおい。おいおいおいおい親分! 話が違う!」
勢いよく立ち上がるブルチネラ。この茶番劇に、シキは笑いを堪えなければならなかった。
「おれはあんたに憧れてた! 今も憧れは変わらねェ! だが何だその結論は! “金獅子のシキ”ってのは、女一人の懇願で自分の信念を曲げんのか!?」
巨漢の道化が、大仰な身振り手振りで語るその様に、その場の全員が黙して状況の推移を身守るしかない。
流石だ、とシキは思った。道化とはこうでなくてはならない。観客の視線を一手に惹きつけ、そして最後にそれを全てひっくり返すのだ。
「嬉しいねェ、ブルチネラ。おれに憧れてくれんのか」
「当たり前だ! だが今は失望しそうだ!」
よくもまあ、抜け抜けと。
シキと“七宝剣”の者たち、そしてイルというこの脚本の筋書きを知る者たちは内心で思う。
この男の目的は、ただただ“血”だけであるくせに。
「ブルチネラの言い分は大袈裟だが、おれも同意見だな」
「……右に同じく」
両手を頭の後ろで組み、そんなことを口にするのはレムナントだ。その隣に座るラウンドも、小さく頷いている。
状況を飲み込めていない“歌姫”、ウタは眉を寄せて成り行きを見守っていた。その姿が可笑しく、笑いそうになるのを堪える。
「ああ、おめェらの言い分も尤もだ。だから標的を変えることにした」
「標的だぁ?」
眉を顰めるのはドリーマーである。こいつは演技が下手だな、とシキは思った。棒読み過ぎる。
「ああ、そうだ。おれは」
そして、その大海賊は宣言した。
彼の、本当の目的を。
「──マリンフォードを滅ぼす!!」
◇◇◇
その言葉を聞いたウタは、思わず叫びそうになった。しかし、気付く。声が出ない。否、正確には音が空気を震わせない。
(“毒蛇のカガシャ”……!)
これを味わうのは二度目だ。その元凶である氷のような女を睨むと、彼女は人差し指を自身の唇に当て、小声で告げる。
「口を慎め。親分の言葉であるぞ」
ぎり、と歯を食い縛るウタ。そんな彼女のことなど歯牙にも掛けず、シキは言葉を続ける。
「どちらにせよ、海軍との激突は避けられねェんだ。だったらこっちから攻め込むのも悪くねェ」
今度こそ、海賊たちに大きな動揺が広がった。マリンフォードは海軍の本拠地だ。
ここにいる者たちは、幾度となく海軍との戦闘を経験している。だがそれはあくまでも戦闘だ。その本拠地に攻め込むなど、正気の沙汰ではない。
「親分。勝算は?」
「あるさ、カガシャ。──イル!」
呼ばれた彼の孫娘が前に出る。彼女はスカートの裾を摘んでいつもの一礼をすると、そのまま言葉を紡いだ。
「先日、一つの事件が起こりました。“百獣のカイドウ”が、本拠地を出港しマリンフォードに向かっていると」
「何!?」
「どういうことだ!?」
世界最強の生物と名高き、“四皇”が一角“百獣のカイドウ”。それほどの海賊が何故、わざわざ海軍の本拠地を攻めるのだ。
そんな海賊たちの疑問に、イルが頷きと共に回答する。
「全て、シキ様の謀です」
「あの小僧とは昔馴染みでなァ。東の海を滅ぼすから手を組まねェかと声をかけたら、手は組まねェがこれを機にマリンフォードに攻め込むと言い出した」
笑いながら言うシキに、海賊たちは言葉を失う。
「そしてカイドウを迎え撃つため、三大将が精鋭を率いて出撃したとの情報もあります」
「世界政府の最高戦力が、これで消えたわけだ」
「そして“七武海”についても、普段彼らはそれぞれの拠点にいます。間に合う可能性は限りなく低いでしょう」
「そもそもあいつらは協力なんてできるような連中じゃねェ。考える必要はねェだろうな」
シキとその孫娘から語られる、マリンフォード襲撃における勝算。その言葉を聞いているうちに、海賊たちにももしかして、という気持ちが湧いてくる。
「そして、その全てをひっくり返しかねない鬼札はここにいる! ジハハハハ! この戦はもう、貰ったようなもんだ!」
シキが指し示すのは、ウタだ。おおっ、と海賊たちから声が上がる。
ウタの力について、全員が知っているわけではないだろう。だが、彼女が成し遂げてきたことについては広く知れ渡っている。
海軍の、“新時代の英雄”がこちらにいる。その意味は、ウタ自身が思っているよりも海賊たちにとっては大きな意味を持つ。
「それにおめェらも見ただろう! あの怪物どもを放てばマリンフォードは焦土と化す! それに考えてみろ、このメルヴィユにどうやって海軍が乗り込むってんだ!」
なんてことを。
そんなウタの言葉は、音にならない。
「戦なんてのは、一方的に勝てるならそれが最上に決まっている! ジハハハハ! もうあと数時間でこのメルヴィユはマリンフォードに着く! おれたちはただ高みからマリンフォードが滅ぶ様を見ていればいいだけだ!」
そしてシキは、自身の前に置かれた盃を掲げた。
「さァ、おれと共に世界の支配を望むか!?」
「最高だ、最高だよ親分!」
大仰な身振り手振りで、興奮を表現するブルチネラ。
その道化の口元の笑みが、ウタはただただ悔しかった。
「よう、ブルチネラ。血を望む道化よ。おれは、おめェの親分に相応しいか?」
「当たり前だ! そうだろうお前ら!」
「「「おおっ!!」」」
全てが予定調和であった。しかし、それを知らないウタはただ、怒りに体を震わせるしかない。
嘘だったのだ。東の海の壊滅は。奴の目的は、初めからマリンフォード。
ウタにとって、第二の故郷とも呼べる場所。
「さあ、前祝いだ!」
そして、シキと海賊たちが盃を干す。
彼らの契約は、ここに成ったのだ。
そこで、ウタは自分の声が出るようになっていることに気付く。
「シキ!!」
そして、ウタは弾かれたようにシキに掴みかかった。周囲の者たちが反応するが、シキはそれを手で制する。
「おいおい、どうしたんだベイビーちゃん? 随分怖い顔をしてるじゃねェか」
「黙れ! 私を騙したのね! 初めから」
「おいおい、人聞きが悪ィことを言うんじゃねェよベイビーちゃん」
言葉を最後まで告げることはできなかった。シキに顔を掴まれ、口を塞がれたのだ。
「おれがいつ、約束を破った?」
そのまま、シキによって投げ飛ばされる。ろくに受身すら取れず、床へと叩きつけられた。
衝撃で、呼吸が一瞬止まる。
「なァ、ベイビーちゃん。おめェの願いは二つだった。あいつらを見逃すこと、そして東の海に手を出さないこと。おれはちゃんと願いを聞いたぞ?」
「黙れ! あの村を襲わせたくせに!」
「おれは見逃したが?」
畜生のすることなど知るか──そう言って笑うシキ。他の海賊たちも笑った。
(なんで、なんで、なんでっ……!)
ウタの瞳から、涙が溢れる。
わかっていたはずではないか。海賊とはこういう奴らだ。シャンクスだってそうだったんだ。自分を置き去りにして、振り返りもしなかった。
憎かったのに。
わかっていたのに。
それでも、縋るしかなかった。
そんな己の弱さに、涙が出る。
「親分親分! い〜いことを考えた!」
「おう、どうしたブルチネラ」
はいはい、と手を挙げながらブルチネラがシキに声をかける。シキが新しい葉巻に火を点けながら先を促した。
「おれたち、金獅子海賊団の門出を“歌姫”に歌ってもらおう!」
えっ、とウタの口から声が漏れた。シキが笑う。
「いい案だ! おうベイビーちゃん、一曲頼むぜ! ジハハハハ!」
嘲笑う声。周囲の海賊たちも、囃し立てるように声を上げた。
「ふざ、けないで」
ゆっくりと立ち上がり、シキを睨みつけるウタ。おいおい、とシキが玉座で肩を竦めた。
「そりゃねェぞベイビーちゃん。おれはお前の願いを聞いたんだ。じゃあ逆に、こっちの願いも聞いてもらわねェとな」
「お前たちのために歌うなんて、死んでもゴメンよ」
直後、衝撃と共にウタの体が宙を浮いた。
ブルチネラの拳が、ウタの顔を殴り飛ばしたのだ。
奥の襖の方へ向かって、転がるウタ。悲鳴ではなく、空気が吐き出される音が喉から漏れた。
意識が揺れる。ただでさえ海楼石で弱っている体に、その男の拳はあまりにも重過ぎたのだ。
「さっきから聞いてりゃ、随分我儘が過ぎるなァ“歌姫”」
苛立ちを滲ませた声で、こちらへと歩み寄ってくる道化。だが、ウタの視界にブルチネラの姿は入っていない。あるのは。
(……帽子……)
ルフィの、大切な帽子。
……シャンクスの、帽子。
「躾が必要か、あァ?」
蹴り上げられ、宙に浮いた体が一瞬の浮遊感の後に再び床へ叩きつけられる。
(……帽子…は……)
あった。あんなところに。
あれは、駄目だ。あれだけは、離しちゃいけないのに。
「おいおい、壊すなよ。まだ利用価値があるんだ」
「大丈夫ですよぉ、親分」
定まらない意識の中、そんな声が響いて。
「……う……」
「逃げようとしてんじゃねぇよ」
髪を掴まれ、投げつけられた。
手入れを欠かしていない髪。ルフィが誉めてくれた髪。
(帽子)
だが、ウタの目にはもう、たった一つしか映っていない。
まるで芋虫のように床を這いながら、そこを目指す。幸いだったのは、投げ飛ばされた先の側にそれがあったこと。
「おいおい、なんだその汚ねぇ麦わら帽子は?」
「“歌姫”の恋人の遺品だ」
「そいつはスキャンダルじゃねぇか!」
ブルチネラが笑う。だが、ウタにはもう聞こえていない。
麦わら帽子を手に、抱えるようにして、庇うようにして彼女は蹲る。
これは、大切なものなのだ。
だから、守るのだ。
(ごめんなさい)
あの時、この帽子を手にしたのは。
勇気が、欲しかったから。
たった一人で行くことが怖くて、縋ろうとしたから。
(ルフィ)
彼は、無事だろうか。
……助けて、くれるだろうか?
「……なんか、興醒めなんだが親分。こんな無様なもんなのか?」
「見苦しいなァ、“歌姫”」
シキが嘲笑う。それに対し、悔しいと思うことさえウタはもう、できない。
彼女の心は、抱え込んだ大切なものだけに向けられている。
「まあ、余興としちゃァ十分だ。眠らせて地下牢にでも放り込んでおけ」
シキの言葉を受け、巨漢の道化がウタに迫る。
彼女は、ただ、耐えようと身を固くして。
轟音が、響き渡る。
閉じられた襖。そこが、爆撃でも受けたかのように弾け飛んだのだ。
「なんだァ?」
ブルチネラの訝しむような声。ウタは、ゆっくりと顔を上げた。
涙と血で濡れた視界。襖の向こうから、複数の足跡が響く。
「……ガープ」
呟くのは、シキだ。
最初に現れたのは、ウタもよく知る老人だった。だが、彼女がよく見る笑みを浮かべたいつもの表情ではなく、その表情は憤怒に染まっている。
続いて、複数の人影。
現れるのは、海軍本部中将モモンガ。そしてその後ろからスモーカーとたしぎ、そしてオリンたちウタの部下が現れる。
「おいおい、何の真似だガープ?」
玉座からシキが問いかけるが、彼は応じない。腕を組んで黙しながら、射殺さんばかりの目で周囲を睨みつけている。
そして。
最後に。
「……あ……」
滲む視界の中で。
ウタは、確かに見た。
「…………ルフィ……」
彼女にとって、この世で一番大切な人の姿を。
「何だ小僧、生きて」
「おい」
底冷えのする声だった。
純白のスーツと、血に染まった正義のコートを身に纏い。
「どうして、ウタが泣いてるんだ」
一歩ずつ、彼は歩を進める。
「お前が、やったのか」
そして彼は、ウタに近付こうとしていた道化の前で立ち止まった。
道化は笑う。
「ただの躾だ」
「そうか」
その、瞬間。
絶大なる殺意と憤怒が、周囲へと伝播した。
その気に当てられ、その場にいた全員が動きを止める。中には、気を失う者さえいた。
それは、覇王の資質。
名を、“覇王色の覇気”。
「……やはり、持って生まれたか」
老人の呟きは、宙に消えていく。
道化は動けなかった。不意の覇気を受け、反応が遅れ。
「ヴォゲァアッ!!!???」
振り抜かれたのは、渾身の力を込めた拳。轟音と共にその巨体が吹き飛ぶ。
あまりの威力にその巨漢は数人の海賊を巻き込みながらもなお止まらず、隣室へ突っ込んだところでようやく止まった。
「すまねぇ、ウタ」
隣に立った彼は、言う。
「もう少しだけ、待っててくれ」
泣くなと、彼女は己に言い聞かせた。
泣いていたら、彼の姿が見えない。
「あいつを、ぶっ飛ばしてくるから」
静かな彼の言葉が、その恐ろしいまでの怒りを伝えてくる。
だが、いいのだ。
彼は、来てくれた。抱え込むようにして持った麦わら帽子の感触が、伝えてくれる。
この帽子を被ったあの人の、大きな背中が好きだった。
この帽子を被ったあなたの、笑う顔が好きになった。
だから、持ってきたのだ。
これは、彼女にとって何よりも、誰よりも信じられる人たちの大切な宝物だから。
勇気を。
ほんの少しでも、勇気をもらうために。
「……うん……!」
あの時、彼を救うために離れた時。
彼女は、彼に告げた。
それは今更のことだった。しかし、だからこそ言葉にしたのだ。
あの時、彼にだけ聞こえるように言った、言葉とは。
たったの、一言だ。
“信じてる”