近しい平行線
俺には親友がいる。やけに厳しそうに見える顔面と相まって女っ気がないものの、バカ話もエロ話もできる無二の親友だ。
ある日、俺はそいつと共に、グダグダとしゃべり続けるためだけに歩幅を合わせて公園を散歩していた。
「話変わるけどさ、お前って彼女何人かいたことあるんだよな?」
「あるけど……何?」
「わけあってニオイフェチにならなきゃいけなくなったんだけど、股以外で見た目がエロくてニオイが濃い場所ってどこかわかるか?」
俺の親友は、真面目な顔でそう聞いてきた。
ただのバカエロ話の雰囲気ではない様子に、俺は思わず足を止める。
「……おっぱいデカい女ならおっぱいの南半球というか裏側が結構ニオイ強いことあるけど」
「相手の胸が小さい場合は?」
「耳の裏とか頭頂部とかを嗅ぎつつちらっと服の中が見えるのを期待すればいいと思う」
「助かる」
「お前を助けるのはいいけど、どういう理由の何なんだこの話題。普通にいつものようにエロい見た目の臭いところ聞けばいいじゃん」
「……いや、お前から聞いた知識を素知らぬ顔で使うことはできない……けど、理由もちょっと説明しづらい」
そういって、親友は苦肉の表情で視線を逸らす。よほどの何かがあったらしい。
「それってさ、お前にとって嫌な事とか、今後に不都合のある理由だったりする?そうだったら、それから逃げる方法だって一緒に考えるぞ俺は」
「うーん……いや、そこも含めて今は内緒にしときたい。解決したら、きっと報告するからさ」
「そうか。大変な事だったら無理するなよ。――このまま話してても空気変わらなさそうだし、今日はゲーセンにでも行こうぜ」
「ゲーセンか。俺あんま行かないからなあ」
結局何のことか、俺には良くわからなかった。
そんなことがあったのが数か月前。
すっかり忘れたころになって、親友が話の続きを持ってきた。
「前にさ、ニオイフェチにならなきゃいけないって話したこと覚えてるか?」
「ん?あ~~~~~ あ!思い出した。なんか理由があるとか言ってたやつだな」
「あれが解決したから、報告しようと思って。結局細かい事情は話せないんだけど、助かった」
「お前が助かったんなら良かったよ」
数か月前と変わらない場所、変わらない歩幅。変わらない関係性。
唯一変わったことと言えば――
「……けど言うタイミング最悪じゃないか?お前が結婚した直後って」
「まあ、でも籍入れてようやく解決の案件だったし」
「ほんと、どんな問題を抱えてたんだ……まあいいけど」
いくらでも親友の抱えていた問題については妄想できる。妄想できるしそれを口にもできるが、しないことにした。
「改めて式をあげるときには呼んでくれよな」
「もちろん。新郎の親友によるスピーチだって頼むかもしれないぞ」
知らない事や知られたくない事も含めて、俺には親友がいる。