辞職します。
私は今とある留置所にいる。もちろん海軍に捕まったわけじゃなくて潜入してるだけ。今は海賊でその前は悪の秘密結社に所属していたことを考えると自ら蜘蛛の巣に突っ込むようなことをしているわけだけど、その理由はーーー
『新聞ちょうだい。』
そう空を飛んでいたニュース・クーに声をかけ新聞を受け取る。特に好きってわけじゃないけど、バロックワークスにいた頃によく情報は武器だから読んでおけと言われていたのが癖になったみたい…と言っても興味あるニュースしか覚えてなかったけど。
そんなことを思い出しながら、今日も今日とて新聞に目を通す。大半の記事は軽く済ますのでそこまで全部を読むのに時間はかからない。
『あ…』
しかし今日の新聞にはとても私の目を引く記事があった。
『ここに行きたいって?…いやでもここ海軍の基地じゃない。』
最終的な進路を決めるのは船長さんなんだけど、彼の場合即座にOKを出しそうなのでとりあえずナミさんに新聞を見せながら相談する。
『なんだってわざわざ…あー、元同僚が捕まってるのね。』
そう、今日の新聞にはバロックワークスの社員たちが逮捕され、とある留置所に収容されたという記事が載っていた。
『理由はわかったけど…何しに行くつもり?まさか一緒に捕まるとか言い出さないわよね?』
『ううん、ただ挨拶しに行くだけ。』
『挨拶って…変なところ律儀ねぇ。』
仮にも数年間身を置いた組織だ。それを抜けるというのなら挨拶くらいはしておきたい。
『まあ気持ちはわかったから、とりあえず船長に話してみるわ。』
『うん、ありがとう。』
正直うちの船長は船員の頼みをほとんど断らない。というか断ったところを見たことがない。なので多分…
『ようマリアンヌ!聞いたぞお前〜なんでワニに会いに行きてえんだ?』
『ワニ…ちょっと挨拶したいだけだよ。』
『ん〜おれが会うわけじゃねェけどなんかいやだぞ。』
あれ、断られた?まあクロコダイルが嫌いだからぶっ飛ばしたんだもん仕方ないか。
『よく聞いて船長さん。私元々バロックワークスだったでしょ?』
『ああ、今はおれの仲間だ!』
『そう、つまり私はバロックワークスを辞めたってことになるの。』
『あんなとこ辞めて正解だろ。』
『それはそうね。でもまだ辞めるって言ってないの。だからそれを言いに行きたいの。』
『そんなの別にしなくてもいいじゃねェか。ビビだって言ってないだろ、多分。』
彼の言うことはあながち間違っていないことが多い。なので彼を説得するのは少々大変だ。
『じゃあ言い方を変えるね。辞めるって言わないと、私はあなたのちゃんとした仲間になれないんだ。』
『なんだと!?それは嫌だ!よしナミ早く行くぞ!!』
少し罪悪感が湧くのは仕方ない。嘘は言っていないし、私の中でもやもやした気持ちがあるのは事実。
『はいはい…ったく。それにしても、だいぶあいつの扱い上手くなってきたわね。』
『それは褒めてるの?』
『そう受け取ってもらって構わないわ。この船で過ごすには必須のテクニックだもの。』
『確かに。』
…こうして海軍基地に乗り込むことになった。ちなみに私1人。あまり近づくと面倒なことになるから基地まではル…船長さんに飛んできてもらった。
とりあえず今は『擬態の灰』で姿をくらましながらみんなが捕まってる牢の鍵を探してるところ。絵の具が落ちさえしなければ問題はないけど、あまり時間をかけている暇はない。
「…この部屋怪しい。」
私は最上階の偉い人がいるような部屋に入る。
「あ、あった。」
壁に何個か鍵がかかっているのを発見。すぐ取りたいところだけど、擬態の灰はあくまで「視認できなくする」だけなので声や発した音は普通に響くし、何か物を動かせば怪奇現象みたいになる。…どうしようかな。
ーあっはっはっはっは!!
ーちょ、どうしたんです大佐!
ーとりあえず笑うのをやめてください!
よし鍵取れた。早く行こう。
ーガチャッ
とりあえず鍵を開ける。何やら牢の中のみんなが困惑している様子。あそっか、灰色つけたままだった。
上着を脱ぎカラーズトラップを解除する。
「みんな久しぶり。」
突然目の前に現れた私に再びみんなが驚く。もう、静かにしないとバレちゃうでしょ。
「あなたゴールデンウィーク!?何しに来たの!?」
まず口を開いたのは黒髪の美人なお姉さん。
「挨拶だよ。私バロックワークス辞めるって言ってなかったでしょ?」
「いや、挨拶も何ももう組織は無くなったのよ?」
「でもちゃんと言ったほうがいいでしょ?」
「それはそうだけど…というかあなた今何してるの?」
「麦わらの一味の一員だよ。」
「「「「!!??」」」」
三度驚愕の声が響く。だからバレちゃうってば。
「確かリトルガーデンで会ったのが最後よね…あの後から?それとももうその時には仲間だった…とか?」
Ms.バレンタインって人だったかな。その人が私の経緯を話す。
「そうだよ。あの後に彼らに見つかって捕まったの。で、色々あって仲間になった。」
「いや、そこが一番知りたいんだけど…。」
「そういや、麦わらと初めに戦ったときお前みたいな声が叫んでるのが聞こえたな。」
かつての私…私たちの社長、クロコダイルがついに口を開いた。
「…聞こえてたのね。」
「確かおれが麦わらを一刺したにしたとき…だったよなぁ?」
そこまで覚えているのはすごいを通り越して怖い。
「その時には既に麦わらの仲間だったってわけか。随分早くから裏切ってくれてたんだなあ…Ms.ゴールデンウィーク?」
海楼石の手錠のせいで能力も使えないはずなのに、異常な威圧感を曝け出している。
「それは、その…ごめんなさい…」
私だって組織に置いてもらっていた恩義は一応感じている。
なので、普通に謝る。
「……クハハハハ!今さらお前をどうこうしようって気はねェよ。お前が麦わらたちとどんな働きをしたかは知らねェが、最終的にお前の判断は正しかったんだ。」
恐らく私たちが勝ったからってことなんだろうけど、自分が負けたとかうちの船長さんが勝ったとかは意地でも言いたくないのかな。
「これで挨拶はおしまいか?しかしこのためだけにわざわざここに来るとは、お前思考が麦わらに似てきてんじゃねェか?」
「あなたもこんなにお喋りな人じゃなかった気がするわ。うちの船長にいっぱい殴られたからかしら?」
「……」
すごい、絵に描いたような苦虫を噛み潰した顔してる。気に障ること言っちゃったかしら。
まあそれはいいんだ、もうこれで挨拶は済んだと言える。
「じゃあ帰るわ、みんな元気でね。」
「ええ!?ちょっと待って、脱獄させに来てくれたんじゃなかったの!?」
そうか、鍵いっぱいあるけどこれは手錠のやつか。
どうしよう……私も本来はここにいるはずの人間だし、いいか。
「また悪さしない?」
「海賊のあなたに言われたくないんだけど…」
「それもそうだね。」
私はみんな…会ったことない人もいるけど、全員の手錠を外していく。
「おれァいい。気分じゃねェんだ。」
「…おれも残る。お前たちだけで行くんだな。」
社長とMr.1…って人だったかな?2人は脱獄しなくていいらしい。なんでだろう。
手錠が解かれ、みんな能力が使えるようになったので壁を壊すのは簡単だ。海兵が来る前に外に出ないと、でもその前にーーー
「社長。」
「なんだ、まだ何か用か。」
「私を組織に置いてくれてありがとう。」
「……くだらねェこと言ってないでさっさと行け。すぐに海兵どもが来るぞ。」
「うん、バイバイ。坊主の人、社長をよろしくね。」
「坊……ああ、任せておけ。」
最後の別れも済んだ、私も行こう。どうやら軍艦を奪って脱出するみたい。みんなにも別れの挨拶…そうだ、あれやろう。ちょうどいいことを思いついたので一緒に軍艦に乗る。
基地を出てからしばらく経ち、そこそこ距離が開いたので、最後にバロックワークスへ感謝?の思いを込めて『夢の虹色』を使う。これでもう悪いことしなくてよくなるはず。
あ、自分の船に戻る方法考えてなかった。どうしよう、この軍艦で近づいてもらうのは出来なさそうだし……
「…アンヌーーーー!!」
戻る方法を考えていたら船長が軍艦に向かって飛んできた。よかった、これで帰れる。
「何やってんだ?いきなり爆発したかと思ったら軍艦乗ってどっか行っちまうしよー。」
「ごめんなさい。脱獄の手伝いしてたら帰る手段なくなっちゃったの。」
「そうなのか?まあいいや!用は済んだんだろ?」
「うん、ありがとう。私のわがままに付き合ってくれて。」
「気にすんな、じゃ帰るぞ!しっかり捕まってろ!」
「うん、よいしょ……じゃあみんな、元気でね〜。」フリフリ
「ゴムゴムの…ロケットーーー!!」
「本当に仲間になったのね…まだ信じられないわ。」
「まあでも、元気そうで何よりよ。それより、これからどうする?」
「そうね…適当な空き家を見つけてカフェでも営業する?」
「いいね!ナイスアイデア!」
…こうしてマリアンヌは無事にバロックワークスを辞職し、名実共々麦わらの一味の一員となったのだった。
「あいつ…余計な土産置いて行きやがって…」
「(この人のことだ、きっと海賊王なんだろうな……)」