「頼むから死んどけよ人として」
※小僧のテンションが終始低くて辛辣
※伏黒はちょっと巻き込まれる
※お兄ちゃんががっつり巻き込まれる
※まだギリギリ踏ん張ってる
※小僧の語彙がちいかわ
『ケヒッ……オイ、小僧。あのお前の兄を名乗る男だが……』
「脹相はそーいうんじゃねーから!」
……宿儺は最近、伏黒釘崎に見せつけようとする以外に新たなターゲットを見つけたらしい。それが俺の自称兄貴こと脹相だった。友人教師補助監督……もちろん彼らに見られるのも絶対阻止したかったが、脹相に見られる事を考えるとまた別種の嫌さがあった。宿儺が俺の中での脹相の立ち位置の変化を鋭敏に感じ取って口に出してきたのだと考えると、最早「ぶっ殺してやる」以外の言葉が出てこない。
そんなある日、デリカシーの天与呪縛で破格の強さを得ているらしいと密かに噂されている五条先生が、笑い過ぎて最早呼吸困難に陥りながら荷物を運んできた。いつものように宿儺のウキウキ契闊ショッピングで購入しくさりやがった物品だろう。そう思いながら笑い続ける五条先生をその場に放置し、自室のドアを閉め、暗澹たる思いで中身を検分していた時のことだった。「わァ……ァ……」と羞恥に塗れ過ぎて最早ちいかわみたいな声しか出せなくなりながらもなんとか検分を終了させ(これを使われる事がありませんよーに!)と祈りながら(無駄な足掻きである)クローゼットの中に押し込もうとしたところで、ダンボールの底にまだ何やら物品が残っている事に気づいた。
「なんだこれ……?」
それはカラフルな表紙の男同士が乳繰りあっているやたら薄い本(後々それは同人誌というものだと知るがそれはまた別の話)だった。表紙には見覚えがあるようなないようなキャラクターの名前が二人分書かれている。
誰かの荷物が混入してしまったのだろうか。いや、こんな底に他人の荷物が混入することなどあるのだろうか。……もしや、新手の宿儺の嫌がらせか。薄目で恐る恐る中身を開くと、男性キャラクターのアヘ顔ダブルピースとセリフの末尾にハートが乱舞しているのが分かってしまい、速攻で本を閉じた。自分の痴態を客観的に見せつけられているようでいたたまれない。さらに気になって、表紙に書かれているキャラクターの名前をネットで確認してしまったのが運の尽きだった。
「うぉらだらっしゃーい!!!!」
奇声を上げながら薄い本をゴミ箱に全力でダンクシュートする。はからずも、その際奇声に反応した伏黒の壁ドンがブザービートのように聞こえ、気分だけはslam dunkだった。……五条先生バスケがしたいです。
……ちなみに表紙に書かれていたキャラクターの名前は人気漫画の兄弟キャラクターの名前だった。
「近親相姦じゃねーか!!!!!!」
なにやら新たな嫌がらせの扉を開いてしまった宿儺は実に楽しそうにケタケタとけたたましい笑い声をあげてる。己の身のうちに響くその声に俺が抱いたのは研ぎ澄まされた純粋な殺意──その一念だけだった。
宿儺に嫌がらせで近親相姦兄弟BL同人誌を送りつけられた時から、俺は脹相をそれとなく避けていた。宿儺は間違いなく次は脹相の前での強制痴態披露を企んでいる。伏黒や釘崎にそれがバレるのももちろん嫌だが、脹相の前ではもっと嫌だ。そんな理由で避けて回っていたら、それが周囲には兄弟喧嘩をしたとでも捉えられたらしい。皆口々に「兄弟喧嘩か? 仲直りしろよ」と俺に言ってくる。伏黒に至っては本人の体験談かなんなのかやたらシリアスで重々しい口調で「話し合える時にきちんと話し合え。じゃないと後悔する事になるぞ」と忠告してくれるが、俺としては「ああ……。うん、まあ」と曖昧な態度をとるしかなく。……宿儺の企みなど言えるわけがない。言えるかボケ。日々視界の片隅でしわしわのピカチュウみたいになっていく脹相に良心を痛めつつ、それでも心を鬼にしてアイツを避け続けた。……ちなみに宿儺の嫌がらせである近親相姦兄弟BL同人誌の宅配(読まずに捨てていた)は今に至るまでずっと続いていたので、気を緩めるわけにも行かなかったのだ。しかし、特にそれ以外の嫌がらせが行われることもなかったため、俺が脹相を避けていれば無問題と思っていたのが甘かったのかもしれない。
……宿儺が大人しい時点でもっと警戒をしておくべきだったんだ。
「今日の任務はお兄ちゃんとだよ〜! どう? 悠仁、嬉しいでしょ!! もっと尊敬してくれていいんだよ〜GTG五条先生をさ〜。ホラホラ〜」
「あ、ハイ」
いかにも「いや〜いい事しちゃったな〜僕」という笑みを浮かべる五条先生を前に、俺は心底冷め切った表情しか浮かべることが出来なかった。何余計な事しくさりやがったんだこのバカ目隠し。……事情を知らないから純粋に善意で仲直りの場を用意してくれたのかもしれない……。いや、多分この人場を引っ掻き回して面白がってるだけだ。今なら伏黒が五条先生に対して一歩引いて接している理由が痛いほどわかる。
テンションが氷点下にまで下がっている俺とは対照的に、脹相は明らかにテンションが上がっていた。避け続けられていた俺(弟)と一緒の任務はアイツにとっては物凄く嬉しいことなんだと思う……多分。罪悪感がチクチクと刺激され胸が痛い。
(……脹相、ごめん……)
一方いつも空港の滑走路並みにうるさい宿儺はやけに静かだった。
……猛烈に嫌な予感しかしない。
◇ ◇ ◇
任務自体はつつがなく終わった。一時期脹相と二人きりで呪霊を狩っていた時期があったので、その時の動きが体に染み付いていたらしい。連携もかなりスムーズに行ったし、脹相に対しても普段通り振る舞えたと思う……と信じたい。──やっと終わったという開放感、あとは帰るだけという安堵感。その隙を宿儺は見逃さなかった。
ぐぱぁ、と口には出せない場所に開いた宿儺の口、その舌が穴の淵をなぞる。ヒュッ、と喉が鳴り、一瞬体が強張った。
「? どうした悠仁?」
「い、や、なんでも、ない」
「……そうか」
その間も宿儺の舌が焦らすように、穴のごく浅いところを舐め回している。……それだけでゾワゾワとした感覚が走るこの体も大概だが。
(……いくらなんでも捨て身すぎるだろ!)
嫌がらせに命を賭けすぎている。もう呪いの王じゃなくて嫌がらせの王に改名しろ。内心そう毒づきながら、平静を装い、補助監督の新田さんが運転する車に乗り込む。
「ごめんちょっち疲れたから寝るわ」
「そうか。存分に休むといい」
自分でもかなり早口で不自然になっていることを自覚していたが、なんとかこの場を乗り切るために寝たふりをすることにした。表情を隠すためにパーカーのフードを目深に被り、深く俯く。ここに来るまでそんなに時間は掛からなかったはずだ。だから、その間だけでも耐えれば──。
(──などと浅い事を考えているのだろうなァ、小僧は)
そんな声が響いたと思った瞬間、宿儺の尖らせた舌が穴のより奥深くを探る。勝手知ったるとばかりにピンポイントでぐりぐりと例のポイント──すなわち前立腺をこねくり回され、思わず腰が跳ねた。
「……ンっ……ッ……」
自分でもびっくりするくらい鼻に掛かった甘ったるい声が漏れそうになる。口内を強く噛むことでそれを阻止しようとするが、微妙に間に合わなかった。ついでに勢い良く噛みついたせいで、口の中に鉄錆の味が広がる。
(いいぞ! いいぞ! こうでなくてはなァ! ホラ、どうした? 隣に兄が座っているぞ?)
(ふっざけんな……! 変態クソ野郎!)
俺の反応に対してにわかに盛り上がりだした宿儺に、ありとあらゆる罵詈雑言を投げつけるがもう奴が止まる事はない。執拗に前立腺をこねくり回したかと思うと、お次は乳首の近くに移動し、舌でねっとりと時間をかけて乳首を舐る。
(ふざけんなマジで……!! クソっ、こんなのに……!)
宿儺に身体をいじくり回されるたびに、不随意にビクビクと反応する身体と漏れる鼻に掛かった甘ったるい声。それをなんとか抑えようと口元に手のひらを強く押し付けたところで──不意に脹相と目があった。
「悠仁、もしかして具合が悪いのか?」
……そりゃ、車に乗ってて口元抑えてる奴見たらそういう発想になるのは当たり前だよな、と自分の冷静な部分が囁くが、今はそれどころではなかった。脹相が心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。気分が悪いと思われたのか、優しく背中をさすってくれる手にすら敏感に反応して快楽を見出してしまうこの体が恨めしい。宿儺は俺の体を好き勝手弄り回しながらけたたましい笑い声をあげるという器用な真似をしていた。
「い、や……ホント、ダイジョーブ、だから……」
「本当か? ……悠仁、身体も熱いぞ。熱があるんじゃないか? 吐きそうか? ……すまない、悠仁の具合が悪そうなんだが……」
「えっ、どうしたんスか? 虎杖君、大丈夫っスか? 無理しないでいいっスよホント! あ、吐きそうならこの袋使っていいんで!」
手をどけたら出てくるものはゲロではなく聞くに耐えない喘ぎ声です、とは口が裂けても言えなかった。
純粋な善意がこんなにも痛いなんて事、一生知りたくなかった。二人とも俺が体調崩してると思って、本気で心配してくれている。脹相、散々避けたのにお前優しいな。そのせいで今俺めちゃくちゃ心がイテェよ。具体的には宿儺に心臓ぶっこぬかれた時くらい。でも手を握ったり、背中をさすったりするのはマジでやめてほしい。多分本人としては純粋に心配してくれてるんだろうけど、触れられるたびに敏感になった身体がいちいち丁寧に快楽を拾い上げてしまうから。
(……無駄な足掻きだな、小僧? ほうら、我慢などせずに射精(だ)してしまえ。気持ちいいぞ? 小僧は好きだろう? 気持ちがいいことが)
(……ッ誰がテメェなんかにッ!!)
(ほうら、頑張れ♡ 頑張れ♡ せいぜい惨めに足掻け小僧♡ 貴様が頑張らないとどうなるだろうなァ? 兄の前で痴態を晒す羽目になってしまうなァ?)
(……ッッッテッメェ……!)
「悠仁? 我慢しなくていいんだぞ? 出してしまった方が楽になる」
「そうっスよー、体調悪くなるのはしょうがないっスから。気にしないで!」
「……ッ……ィヤ……」
二人の純粋な優しさがグサグサと己の身に突き刺さる。具合が悪い、と勘違いされるのは正直ありがたかったが、やっぱり良心がズキズキと痛む。
真っ白な快楽に塗りつぶされそうな脳内で、なんとか理性を保とうとしている俺の発する言語は「ァ……」と「ゥー……」と「イヤ」しかなく、最早ちいかわに成り果てていた。伏黒が疲れ切った目でボーっとちいかわを見ていた時は内心「大丈夫かこいつ」と思ったものだが、今の自分も似たようなものかも知れない。
「悠仁、大丈夫だからな。もうすぐ着くからな。着いたらゆっくり休もう」
「あともうちょっとなんで頑張って! 報告書とかも後日で全然いいんで! ゆっくり休んでくださいっス!」
「……ゥー……」
必死に漏れでそうな喘ぎ声を抑えながら、コクコクと首肯する。その様子がよっぽど具合悪そうに見えたのだろう。甲斐甲斐しくあちこちさすったり励ましてくれる二人の優しさと、宿儺の嫌らしいいたぶりと言葉の板挟みになりながらどうにかこうにか耐えて高専に着いた。一目散に自室に駆け込み、高まりに高まって決壊寸前の熱を解放したい気持ちを鋼の理性で押し留めながら車から降りる。新田さんと別れ、着いてこようとする脹相を、かき集めた理性でなんとかハチワレレベルまで引き上げた語彙で説得し、自分の部屋に辿り着いた時にはもう決壊寸前だった。幸いにも隣室の伏黒は任務で留守のようだ。使われることがありませんよーに! と仕舞い込んだダンボール箱の中から極太ディルドを取り出すと、それを一気に菊門へと突き刺す。
「お"ッッ♡」
堰き止められていた快楽が一気に決壊し、眼底に白い火花がバチバチと散る。あまりに強い快楽は衝撃めいていて、俺の意識はぶっトんでしまった。
さて、快楽に身を任せた後に来るのは賢者タイムだ。処理も何もせずに意識をトばしたせいで、部屋がイカ臭い。カピカピに乾いた精液を掃除していると、ポタポタと鼻梁に沿って涙が流れ落ちていく。脹相の前で強制アクメをキめられてアヘ顔ダブルピースすることは無かったが、純粋に心配してくれた彼の信頼を裏切ってしまったようでどうしようもなく涙が止まらなかった。