身支度話前日譚
187_3■ここだけ宿儺から小僧への好感度が https://bbs.animanch.com/board/2589332/ で書いていた身支度話の前日譚のようなものです
身支度話に関しては以下のSSになります
https://telegra.ph/五条戦の日に宿儺の身支度を手伝う小僧の話躾済み版-11-21
https://telegra.ph/五条戦の日に宿儺の身支度を手伝う小僧の話一歩手前版-11-24
※該当スレの内容からちょくちょく良いですね……それ……となった箇所の要素をお借りしたりしています
※具体的に表記すると「渋谷以前宿儺が虎杖に対して本性を隠して友好的に振る舞っている」「甲斐甲斐しく虎杖の面倒を見ている宿儺」「宿儺に親しみを感じている虎杖」等の要素があります
※以上の事が大丈夫な方はどうぞ
※問題があれば消します
「宿儺のその服ってさ、昔着てた服、とかそう言うのだったりする?」
「着ていたかもしれないが、少々作りは異なる筈だ、生きていた頃は腕が四本だったからな」
「四本!」
カッコイイ!と言うのと動かすの大変そうと、でも、同時に動かせたら大分便利そうと様々な思いが同時に浮かぶ。
宿儺の指を飲んでから連日のようにこの俺の中にある宿儺の居る場所、生得領域と言うって宿儺に教えて貰った、ここに呼ばれては色々と話していた。
初めはあまりにも、な場所なので少し警戒していたけれど、何度も来たら慣れてくる、いつか牛の頭の骨の個数を数えてみたいけれど宿儺にどう言った物か悩んでいる位である。
宿儺曰く、小僧の無知さに眩暈がしたのである程度の事は教えてやる、との事らしい。
教え方と言う意味では結構上手い、と思う、寝る前のほんの一時に交わす会話のお陰で少しだけ呪術方面の知識は増えてきていた。
伏黒も釘崎も元々呪霊が見えているし、呪術と関わりが昔からあったらしいのでやっぱり基礎的な知識に関しては差が大きい、ので、こうやって教えてもらえるのは純粋に有難かった。
後、五条先生は何と言うか最強な分、ちょっと大雑把と言うべきなのか、説明がふわっとしている事もあった。
先生に懇切丁寧に説明されて分かるかと言うと微妙な所ではあるけれど、そもそも何を知らないのか知らないので先生に教えて貰って、宿儺にフォローをして貰って何とか理解出来てきている。
それを俺が何かしら生かせるかと言うと、またそれは別の話なのだろうけれども。
「宿儺用に服を作らないとって考えると大変そうだけど、腕が四本って便利そう」
「あの時代なら基本的に服は作るものであって今のように既製品がある訳ではないぞ?便利だったのは確かではあるが」
「えっ、あ、そっか、確か宿儺って平安時代の人なんだよな?」
正直、五条先生や伏黒から教わった両面宿儺と今、目の前に居る宿儺を結びつけるのは難しかった。
確かに俺の中に入って直ぐ物騒な事を言っていたのは覚えているけれど、こうやって一緒に過ごしているとそう、面倒見の良い兄みたいな存在なような相手に思えてしまう。
話せば怒られるような事だとは分かっている、だって、そうだろう、食べた人を問答無用で死刑にするような物の元となった人間が俺が見て感じるままの人とは思えない。
それでも、俺から見える宿儺は随分と優しい人、だった。
「あぁ、お前の知って居る歴史の時代の分類でいうならば平安時代と言う事になるな」
「ふーん、腕が減ったってなんか違和感とかあったりすんの?」
「然程ないな、コレは小僧、お前の姿を模した物であって俺の肉体とは異なる、それに、多少減るだけならば気にはならん」
そう言う物、なのだろうか、個人的には対応できる気はしない。
腕の本数が半分になる、俺の感覚すれば片腕になると言う事で、それを気にならないと表現するのはどう言うのが適切か分からないが、あえて言うなら豪快だ。
腕がタコやイカのようにあるなら分かるけど、四本から二本になるのは多少ではないと思う。
でもまぁ、宿儺は凄い奴だったみたいだし、俺とは感覚が違っても可笑しくはないのだろう、多分。
「だが、少々腕が惜しくなる時もあるな」
「へえ!例えば?」
「例えば、昨日羽虫が飛んでいただろう?耳を塞ぎながら仕留める事が出来る」
「羽虫……?あぁ、蚊か!そんなに蚊嫌だったん……?」
好きと言う人は少ないだろうけれど、呪いの王も嫌がらせる事が出来る蚊と言う生き物は実は凄いのではないだろうか。
もしかして、蚊の呪霊が居たらめちゃくちゃ強かったりするのだろうか、五条先生に聞いたら教えてくれるかもしれない。
と言うか、ちょっと四本の腕でぱちぱち蚊を仕留めている宿儺を想像すると、ちょっと面白い、生きてた頃は違う姿らしいので顔は思い浮かべられないけど、むすっとした顔でそんな事をするのだろうと思う程度には一緒に過ごしていた。
「……元の姿ならば、お前に集る虫も倍の速度で仕留められるだろうな、小僧」
「そんなに虫嫌い?」
「あぁ、嫌いだな、だがそんな事よりも、俺の服に興味があるのか?」
その問いかけに少し首を傾げる、興味があるか、と問われるとちょっと違うような気もする。
ただ単に目に付いたから、その姿が俺の肉体を模した物と言う言葉が真実なら、その服はどこから来たのだろうと言う少しの疑問が湧いて来ただけだ。
少なくとも俺は着た事はない、浴衣、なら夏祭りの時に着たような記憶はあるけれど、それとは全く違うので、だったら宿儺が着ていた服かなと思っただけ。
ただ、そんな些細な疑問を簡単に問いかける程度には、良く宿儺と話しているような気がする。
「気になるならば仕立てるか?」
「いやいや、着方も分かんないし、良いよ、と言うか注文するの俺じゃん」
「ケヒッ教えてやるから安心しろ、小僧」
楽しそうな、宿儺が言うのであれば興が乗ったと言うだろう表情に色々諦めた。
こういう表情をした時のコイツは俺が嫌がっても絶対に教え込んでくるのである、そのお陰で呪術の知識は身に付いた物もあるが、付き合うのは滅茶苦茶大変なのである。
多分、俺が五条先生とかに頼んだりしなければ物理的に用意される事はないと思うけど、いやでもあの人なら面白がって用意しても可笑しくないかもしれない。
宿儺がそんな事を言い出しても用意しなくて良いから、と先生には言っておこう。そうしよう。
ここで今宿儺が着てるのを使ってと言うのなら、仕方ない諦める事にしよう、あまりにも俺の覚えが悪ければ諦められる筈だ。
ただまぁ、そのまま流されるのは良くないので、抗議だけはしておかなければ。
「着る事なんてないのに……」
「何が起きるかなど分からんだろう、何、上手くできるようになれば褒美をやろう」
「褒美?」
「あぁ、俺の支度を手伝わせてやる」
「それは……ご褒美じゃないんじゃない……?」
ぼそりと呟いた俺は宿儺に届いた様子もなく、ただ宿儺はけたけたと楽しそうに笑っていた。
楽しそうに、笑っていた。