躊躇い
流石に人前で食べさせられるのは恥ずかしくて、今回はちゃんと自分で食べるとルフィを説得し、改めて用意された食事に手をつけ始めてから数分と経ち、何となく顔を上げたウタは少しの間固まっていた。
ルフィもだが、いろんな人が賑やかに食事をとる光景…10数年…見ることがなかった景色だった。
チラリと視線を移せばゴードンも少し手を止めていた。彼もまた、思うところはあるのだろう。
「お口に合うかい?ウタちゃん」
「え、あ…」
急に声をかけられてパッとそちらを向くと金髪の男性が微笑んでいた。急に食事に手をつけなくなった自分を不審に思ったのかも知れないとウタは慌てて頷く。
「は、はい…美味しい、です…とても…あの、貴方は…」
「おっと、レディに自己紹介よりも先に味の感想を要求して失礼だったな。おれはサンジ。ルフィの船のコックだ」
「貴方が…あ、お粥、美味しかったです」
「そりゃ何よりだ!!ウタちゃんが元気になる様、美味いメシ作るから是非期待してくれ…あ、でも」
そこまで話して彼は小さな声で内緒話でもする様にウタに伝えた。
「ゴードンさんも手伝ってるからあの人にも、美味かったって伝えてくれ」
「!…はい、ありがとうございます」
そう言えば、サンジはヒラヒラと手を振ってロビンやナミのいる所へと向かった。見送ってから、ウタはゴードンの方を見る。もう止まっていた手は改めて動いており、食事を進めているが、その様子はどこか居心地も良さそうだ。
ウタもまた、ゴードン以外ととる食事が、楽しくてあたたかいなと思っている。そして、今自分が食べているものが、彼も手伝ってくれたものであるという事を聞いて、先程の出来事を含めて…少し、救われた気になる。
夢や白昼夢と同じ様に、ゴードンは自分を恨んでいると思っていた。本当は自分なんか殺したくて死んで欲しくて仕方ないと思ってると考えていた。
優しく音楽を教えてくれた彼の声が、真実を知った日から恐ろしくなった。信じられなくなった。だけど、もしかしたら違うのだとしたら?
否、恨みの感情が無い訳では無いにしても国が滅んだ日から、した事もない料理を自分の為に覚えて振る舞ってくれた彼の優しさだけは…信じて、いいのかも知れない。
『…そうして、都合のいい事ばかりに逃げるんだな』
「ッ…」
ぴしり…と身体が固まる。スプーンは落とさなかったが…嫌な汗が流れ始める。
『お前のせいで、未だに陛下は自由になれないんだ』
『お前みたいな化け物の管理を押し付けられて可哀想に…』
『被害者面するな、醜い魔女が』
「ふ、ぅ……っ…」
普段なら、この時点で既に叫び出して逃げ惑っているだろう。
だが、今は、今だけは…ルフィやサンジ達がせっかく用意してくれたのだから…せっかくゴードンと久しぶりに会話出来たのだから…変な空気にしたくない。
我慢しなきゃ…耐えなきゃ、耳を塞ぐ権利は私にはない。分かってる…知ってる…でも、怖い…!!逃げたい!!
グルグルと思考がまとまらなくなってきて…ぐちゃぐちゃしてきて……暗くなって
〜♪
「!……?」
ふ、と…耳に覚えのあるメロディが聞こえて、そっちを見ると…骨?え?骨??が、バイオリン弾いてる???
少し思考が止まったけど、少し冷静になって思い出せばそういえばルフィの仲間の…ブルックさんだ。一瞬、遂に幻覚がいくところまでいったかと思った…すごい失礼だな、私……
そう思いながら、ぼんやりとブルックさんの演奏をきいている。なんだっけ…えっとああ、そうだ。ビンクスの酒…だっけ…?懐かしいな。シャンクス達が、宴の度によく歌っていたな。
いつの間にか、演奏の方に意識が向いていたからか、もう幻聴は聞こえない。
よかった…また叫んだりしたら、迷惑かけちゃうところだった。
「シシシッ、やっぱり海賊は歌うもんだよな!!な、ウタ!!」
「ん?…ああ、そうだ、ね……」
船から下され、このエレジアに置いていかれて、10年と経った私は…もう海賊とは言えない気もして…ルフィの言葉を肯定するのに少し時間がかかる。
「お前は?」
「?」
「歌わねえのか?」
「………」
歌は…好きだ。でも……
「…わ、たし…は……」
最近は歌おうとすれば、まるで口の中の水分が全てなくなってしまった様に乾いて…喉に蓋でもされたみたいになって……
「……ごめん」
首を振る私に、首を傾げるルフィ。
「ん〜〜、よく分かんねえけどよォ…多分お前悪くないと思うからそんな謝んなよ」
「うん…ごめ……ありがと」
…悪いよ……全部、私が…
その言葉を言っても、きっと彼は退かなくて平行線になるのが目に見えていたから…私はまたスプーンを握って…野菜が柔らかくなるまで煮込まれたスープと共にその言葉を飲み込んだ。
ちょっと冷めていたスープに、一人気まずくなった。