赤い実
実家から大量のリンゴが送られて来た。大ぶりで真っ赤な丸い実に、子供達はキラキラと目を輝かせている。
「ママー!リンゴのおやつ食べたーい!」
「それじゃあ焼きリンゴ作ろうか」
「やったー!」
形のいい物を2つ選び、表面を水で洗ったらスプーンでリンゴの芯をくり抜く。
くり抜いた場所に砂糖小さじ1、ハチミツ小さじ1/2、シナモン少々、冷蔵庫から出して柔らかくしたバター5gを入れる。
今回はオーブンではなく電子レンジを使うから、リンゴの上にラップをかけ、600W5分温める。
5分後、温まったリンゴにバニラアイスを乗せてシナモンをひとつまみかけたら出来上がり!
「リンゴは熱いから気を付けろよ」
「「いただきまーす!」」
子供達はスプーンにアイスとリンゴを乗せて、口を大きく開いて頬張る。
「「〜〜〜〜〜〜!!」」
よほど美味しかったのだろう、娘はほっぺたに手を置いて、息子は身震いして喜びを体で現している。
「美味しいか?」
「うん!アイス冷たくて、リンゴはホカホカで、どっちもあまあまでおいしー!」
「そっか、じいちゃんに言ったらきっと喜ぶぞ」
「かーちゃんは食べないの?」
「わたしの食べるー?」
「……あたしはパパが帰って来たら食べるから、それ全部お前らが食っていいからな」
「「ふーん?」」
〜〜〜⏰〜〜〜
夜、子供達を寝かしつけて旦那の晩酌に付き合う。
「ほい、今日のおつまみはリンゴのカナッペ」
「初めて見た、カプレーゼみたいだね」
一口サイズにスライスしたリンゴの上に小さく切ったチーズと生ハムを乗せて、上からハチミツと黒胡椒をかけただけの簡単なおつまみ。
旦那はフォークで1つ刺し、口に入れて数回噛むと、昼間の子供達のように目を輝かせた。
「美味い!しかもビールに合う!」
「へぇ、ネットでたまたま見つけたんだけど、気に入ったならまた作ってやるな」
「エースは食べないの?」
「………いや……あたしはいい……」
「……そう言えば、昔からリンゴは食べないでいたけど、もしかして苦手だったりする?」
「……………苦手、って言うより、口に入れたくないんだよ……」
ガキの頃からどうしてもリンゴは口に入れたくなくて、だから正直言って送って欲しくないんだが、子供達がリンゴが大好きなせいで、断れないでいる。
「味と舌触りが駄目でさ、子供達には食べ物の好き嫌いはすんなって言ってるのに、自分は食べたくないのは食べないってだいぶ情けないよな……」
「まぁ確かに…でも大人になった今なら味覚が変わって美味しく感じるかもしれないし、このカナッペ、リンゴの甘さよりハチミツと生ハムとチーズの甘じょっぱさが勝ってるから食べられるかもよ?」
「いやぁ…そう言われても……」
旦那にカナッペが乗せられた皿を差し出されるが、あたしは体を後ろに引いて距離を空ける。
それを見た旦那は何かを考え、先ほどと同じようにフォークでカナッペを一つ刺し、それをあたしに近づけてきた。
「エース、あーん」
「!?」
「君の義父さん達が作ってくれたリンゴなんだからさ、一口だけでも食べてみなよ、ほら、あーーーん」
ハチミツがテーブルに落ちないように手を添えて、まるで子供に与えるように食べさせようとしてくる旦那。
あたしは目の前に出されたカナッペと、旦那の顔を交互に見る。
「エース」
「ぅ……ぐ……」
旦那の眉が徐々に下がっていき、落ち込んだ犬のような表情になっていく。
ここで逃げたら旦那の好意を無下にする気がしたから、あたしは意を決して口を開き、カナッペを食べた。
「…………」
「どう?美味しい?」
「……やっぱ駄目だ」
「そっかぁ」
確かにリンゴの味はあまりしないけど、リンゴの感触と舌触りはそのまま。
2回噛むのが限界で、そのまま飲み込んだ。
「苦手なのに吐き出さなくて偉いね」
そう言って旦那はあたしの頭を撫でる。
もう子供じゃねーんだからこう言うことすんなよって思うけど、後頭部から感じる旦那の手のひらの硬さと温度がすごく心地よくて、されるがままになってしまう。
「苦手じゃなくて食べたくないってだけなんだけど…」
「それでも飲み込むのも辛かっただろうに、無理にリンゴを食べさせちゃってごめんな」
「アンタじゃなかったら、絶対に口開いてなかったよ」
「そっか……お詫びに、明日仕事帰りにエースの好きなケーキ買ってくるよ、もちろん、子供達には内緒でね」
「別に気にしなくていいのに、でも楽しみにしてるn……」
ふと旦那の背後に気配を感じて見てみると、通路に続く扉から子供達がジト目でこちらを睨んでいた。
こりゃあ、早速バレちまったな。
自分達にもケーキ買って来いと、子供達が旦那に突進してくるまで、あと数秒……。
終わり