謹賀新年
幼女、教員、クソガキ、ロリババア
ごそごそと籠の中に手を突っ込み、何かを一枚掴んでひっこ抜く。
手のひらをそろりと開き、握られた上質な和紙をキラキラとした眼差しで見下ろした。
童女の名を、綱彌代 梨子。
五大貴族が筆頭たる綱彌代家がいったい何の策謀か、神聖不可侵の筈の『本家』へと向かい入れた流魂街出身の死神の卵だ。
そんなに童女への無作法を恐れる巫女は籠を抱えながら滔々と祝いの言葉を大袈裟に並べたてた。しかし当の本人は紅潮した頬で『お御籤』をジッと見つめ、巫女さんの話を右から左へと聞き流す。
童女は相手の話が終わるや否や「ありがとう!」と会釈をしたのち走り去った。
とてとてと参道の真ん中を歩き、今頃必死に自分を探しているだろう保護者を探し回る。……わけではなく、鳥居の手前で立ち止まると待ちきれないといった表情でお御籤の開封作業に移った。
不器用な両手でお御籤を開帳する。
そして一拍の後、不思議そうな顔で小首を傾げた。
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ゆくすゑやゆかしき
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たった一言、『未来を知りたいか』と問うてくる文字に「知りたーい!」と満面の笑みで返答する童女。すると墨が飛び散り、虫が這うように蠢きながら再び文字を構成した。今度は複数の行が並んでいる。
しかし童女はまたもや小首を傾げると、ジッとお御籤を眺めた。
頭上をカーカーと鴉が旋回しながら被服を羽織った小さな肩へと不時着する。
「お嬢ちゃん迷子かのう?」
見上げるとそこには、自身より年嵩のある少女が心配そうな顔で立っていた。
「どうした。もしやソレ読めぬのか? どれ、儂が呼んでやろうか」
「いいのー? ありがとー!」
手招きする少女に童女がとてとてと近づく。小さな足に踏まれ、小石がジャリジャリと音を立てた。鴉がカーカーと鳴き叫ぶ。
そして、少女のいる向こう側へと行くべく、童女が鳥居の敷居をまたごうとしたその瞬間。
風を切り、何かが少女の『顔に突き刺さった』。
————斬魄刀。それも見覚えのあるものだった。
「いけませんよ。おイタをしては」
透きとおる声が境内に響く。
すると、頭に斬魄刀の突き刺さった少女が呻き声をあげながら塵となって消え失せる。
「芦原せんせー!」
「こんにちは、梨子さん。あけましておめでとうございます。…此処は流魂街へと続く裏参道。結界の外に出てしまうので、鳥居はくぐっては駄目ですよ?」
「わかったー!」
「お返事が元気でよろしいです」
そう言って芦原は童女の肩に乗る鴉に手を差し出す。すると鴉がチョコチョコと飛び跳ねて芦原の腕へ移動した。
「君も良い子ですね。梨子さん、どうやら稲生さんが貴女を探しているようです。拝殿へ戻りましょう」
「いなせ五席? どうしてー?」
芦原は童女の言葉足らずな質問を、『一緒に神社に来たわけではない稲生がどうして自分を探しているのか』と適切に汲み取り、返答する。
「おうちの方が稲生さんに捜索の応援を要請したんでしょう」
そこでようやく、童女はハッと顔を青くして慌てだした。
芦原は大変そうだなぁと憐れな保護者へ他人事ついでに合掌しておくのだった。
一方拝殿の前では、継家が目を離した隙に居なくなった梨子へ悪態をつきつつ、稲生の協力のもと捜索にあたっていた。
「あの小娘…! 後で覚えておけよ…!」
「梨子〜! どこにおるんじゃ〜! 出てきてくれたら飴ちゃん五種盛合せをぷれぜんとするんじゃぞ〜! 何もせんから出て来るんじゃ〜! まったく・全然・怖くないんじゃぞ〜〜!!」
冷たい雪景色に映える緑のツインテを継家は呆れた顔で凝視する。
「なんだその誘拐犯みたいな台詞は……それで出てこられても逆に困るんだが……?」
すると遠くから小さな足音と共に梨子の呑気な声が届いた。
「継家兄様〜〜!」
「本当に釣られただと…!? 親はいったいどういう教育をしていたんだ!」
「梨子〜! 継家が心配しとったんじゃぞ!」
「してない。せいぜいどうすれば今回の件が本家にバレないか心配するくらいだ」
梨子は二人のもとに辿り着くと、不安気な顔でおずおずと頭を下げた。
「もうしわけありません…継家兄様、いなせ五席……」
「……構わんとも(微塵も思ってないが)。そんな事より無事でよかった。次からは気をつけるんだぞ? 裾でも掴んでおけ」
本家からは一応綱彌代の人間として扱えと言われているため継家は迷子になった理由は後で詰めることにし、嫌々と猫を被って対応してやる。
対する童女は相手の機微など読めぬのでホッとした後、すぐに満面の笑みを浮かべて継家の裾を掴んだ。
「はいっ!」
「はぁ……」
「大変じゃのうおぬし」
「他人事だと思って貴様…!」
継家はこんなじゃじゃ馬を病弱な自分に押し付けてくれやがった時灘の悪意の詰まった冷笑を思い出してゲンナリする。
梨子はそんな様子に気づかず、「そうだ」と言って手に持ったお御籤を広げると、二人が見えるように小さな腕を伸ばして掲げてみせた。
「ねぇこれなあにー?」
どこぞで手に入れたらしいお御籤に、これに釣られたのか?と呆れながらも見下ろし、綴られた文字を読む。
「なんと…!?」
「お、『半凶』じゃないか〜」
継家が笑顔になる。
比較的善良な稲生が「諸説あるがのう」と口を開き、その意味を童女に教える。
「半凶とは……運勢が上から10番目に良く、下から3番目に悪い吉凶のことじゃ。つまり今年の運はザンネン!ってことになる」
「へー」
「じゃが安心するんじゃぞ梨子よ。所詮はおみくじ、ただの願掛けじゃからのう。なんの効力もありはせん。寝て忘れるが吉じゃ!」
当たろうが当たらなかろうが本人が気にさえしなけれ良いだけの話だと、稲生は梨子の肩を雑に叩いて励ます。
するとそこに「おっとぉ! そんな事を言っていいのか?」と継家が口を挟んだ。
「せっかく神から助言を賜ったというのに、半凶ついでに罰まで当たってしまうぞ?」
「む…! むむぅ……あながち無いとも言いきれぬのじゃ……!」
梨子が「かみさま」と呟く。
「そうだぞ〜だから毎夜不幸が起こるやもと怯えながら眠りに着くのが礼儀というもn」
「おや継家さん。何のお話を為されているのですか?」
「げぇ…!!」
調子良く嫌がらせに励んでいたところに、突如後ろから知った声をかけられ飛び退く継家。
「"げぇ"とはどういった意味の言葉でしょうか?」
芦原が首を傾げ、長い白髪が肩を流れる。
「せっ…西洋の"げぇむ"とやらの略称ですよ。せんせい」
「成程、そうでしたかー。私てっきり、ものを知らない子ども相手によからぬ事を吹き込んでいるのだと……どうやら早とちりだったようですね。申し訳ありません……」
「いえいえ〜まったくお気になさらずに。次から気を付けて頂ければ」
継家がにこやかに減らず口を返すと、芦原もまた、にこやかな笑顔で返した。
「ええ、そうですね。次からは分かり切った事で確認は取らないことにしましょう」
「アハハ〜」
要約すると二度目は無いよと言う忠告に継家は冷や汗を浮かべ天を仰ぐ。
「芦原せんせー帰るんじゃなかったのー?」
「お年玉を渡し忘れていましたので、戻ってきました」
そう言って懐から袋を取り出す。梨子はそれを「お年玉だー!」と大興奮で受け取り継家に見せびらかした。
「教員、私にもくれていいんだぞ」
「吾も!われも!」
「いい大人がたかっては駄目でしょう」
「チッ」
「残念なのじゃ…。しかし教員よ! おぬし良いところに来たぞ! 実はこれから"遠隔撮影"の実験をするところだったんじゃ。 どうじゃ、おぬしも一緒に映らんか?」
ウキウキした様子の稲生から初耳の提案が飛び出し顔を顰める継家。
「何だそれは。聞いてないぞ」
「今言ったからのう!」
「それは面白そうですね。是非ご一緒させてください」
「そうと決まれば善は急げじゃな! ほれ、おぬし等も所定の位置につかんか!」
「わわっ」
「やめろ押すな!」
稲生の強引さに二人がたじろいでいる間に芦原が良さげな位置につく。
「こちらで宜しいでしょうか?」
「うむ! バッチリじゃぞ!」
満足気にひとつ頷くと、稲生は変な機械を装着した鴉を上空に飛ばし、自身もまた位置に着く。
「それじゃあ、ポチッとな」

-五番隊隊舎-
もう六ツ半も回ろうという時刻だが、五番隊の宿舎は新年のどんちゃん騒ぎの疲労で寝静まったままであった。
衣服を整え、眼鏡を掛けた藍染が障子を開く。
爽やかな朝日に目を細めると、晴れ間からバサバサと飛んで来る鴉に右手を伸ばした。
軽やかに藍染の腕へと着地する鴉。その脚に巻きついた紙を解いてやると、また元気に空へと飛び立っていった。
パサリと紙を開く。
そこには稲生からの新年の挨拶が書かれた手紙と、一枚の写真が添えられていた。
鴉たちが集まって作った『謹賀新年』の隣に稲生と芦原、そして梨子が写っている。もう一人の男は綱彌代継家だったか。
再び手紙を折り畳むと文机に置き、宿舎の廊下へと出る。
——さて、今年はどんな一年になるだろうか。
遠くから聞こえる女上司の部下達を叩き起す声を聞きながら思案する。
さしあたり、件の疑り深い上司でもからかいに行こう。
少年は浮き立つ足に自覚のないまま、朝日に優しく照らされた廊下を歩むのだった。
【余談】
コラボSS超たのしいんだぞ
〈今回のキャスト陣〉
梨子:問題を起こす係
継家:話を掻き回す係
芦原:上記⤴︎︎︎を一刀両断する係
稲生:話をブレさせない係
〈原作キャラ〉
藍染少年:羨まけしからんハーレム
平子︎︎ ♀:かわいそう
稲生がニャル様並に融通が効くお蔭で遅筆な主でも書き切る事ができたよ!ありがとうロリババア…!
【振ったダイス】
お御籤気になる度91
幼女「お年玉!」73
器用さ16
▼悪いことしたとき
反省できるか61
申し訳なさそうさ68
どれだけ引き摺るか43
▼名前の呼び方(100ほど砕ける)17
漢字で呼べるか①呼べる②呼べない
稲生②/継家①/芦原①
▼分家と幼女の関係性
本家の意見59
ペットみたいなものなので好きに扱ってヨシ←50→巫山戯た扱い許すまじ
(※おそらく本家の人間としては扱わなくていいけど綱彌代の人間としては扱ってやれよぐらい)
▼藍染
手紙が来てどれくらい嬉しかったか2
何故?クソガキが混入してたのが駄目だったのか?14
疎外感52
単純に興味無い78
【報告】
大人しくタッチペンをゲッツして来ようと思うので新スレは二ヶ月ほど待ってくれ
【年始の挨拶】
謹んで新春をお祝い申し上げます。
勝手ながら、皆様の心身の健康を祈らせて頂いております。
もしも今後、何かに苦しまれるようなことがございましたら、どうかここに一人、貴方の不幸で苦む輩がいることを思い出して貰えるとめっちゃ嬉しいです。
ことよろ!