諦念と情愛
少し言動はキツいけど、とても優しい"あなた"。
『死ぬんじゃあ、ねェかなァ。
…ま、そんなに心配しなくていいぜ?
ちょーっと我慢してりゃあ、すぐ終わることだしヨ』
栄光を掴み取り続けた僕と栄光を掴み取れなかった"あなた"。
僕には生きる道があって、でも"あなた"は…?
『たぶんドッグフードとかになるんじゃね?犬のエサ!』
そう言ってケラケラと笑う姿にゾッとする。
僕の母は、僕が幼いころに僕の前で没した。
元々体の弱い方であったから仕方ないと受け入れたけれど、なんで、"あなた"は。
『死』というものを、そんな簡単に受け入れられるのか。
『俺、お前と出逢えてよかったよ』
笑う。
"あなた"が笑う。
優しい笑顔。僕だけにしか見せない、とっときの。
みんなは"あなた"が怖いと言う。
まぁ、言動は多少荒いと思うけれど。
母を亡くしたあと、ずっと"あなた"に世話になって過ごしてきた僕としては、
『……○○?』
心底不思議そうな顔をして、"あなた"が僕を見る。
はじめは何をされるのか分かっていなかったらしいが、
『ひっ!?』
僕が『本気』だと分かれば抵抗しようとして、
『○○ッ!?うそ、やめろォ…っ!』
『……やめて、やめ、ぅ』
『………ぁ、あ、あぅ…』
小柄な"あなた"にのしかかり、事実を作る。
ごめんなさい、なんて言わない。
これは"あなた"を生かすための行為なのだから、逆に感謝して欲しいくらいだ。
『…三冠馬の僕がッ、自分の意思で選んで、種を恵んでるんですよ?感謝してください、ねっ!』
『───────っっ!!』
……ヒトの気配は、まだ感じない。
なら心ゆくまで、行為を続けよう。
『僕の仔を孕んだら、その間は大丈夫でしょうから…』
『ぁ、あ、ぅ゛…』
『そして来年も、そのまた次も…』
『……ん、は、あぅ…』
『…僕と"あなた"はずっと一緒にいるんですよ。ね?』
*
まさか面倒見てたヤツに【ピー】されるとは思わなかった。
だってヒト時代に一回死んでるモンだからさァ、また死ぬってなっても『あぁ、ちょっと我慢してればすぐだな』って思っちまったんだ。
せっかく買ってもらったくせに、一回も勝てなかったし。
『……××』
『あぁ、』
あれから面倒見てたヤツ-○○の仔ができた俺はいろいろと回避した。
初仔を産んだ後も何度かあの話が持ち上がったがそのたびにその話を聞いた○○にサクッと致され、仔ができて、その仔たちが普通に勝ち上がっていくと、
『××、好きです、好きです…』
『へいへい、わかってらァ』
俺は生き残った。
どうにも、ヒトが言うには○○の受胎率が悪いらしく、でも俺が相手なら普通に仔ができるみたいで…。
『あいしてます』
『……ん』
……仕方ない、かなぁ?
*****
俺:
元ヒトミミ♂、現牝馬。
まったく勝てないままアレ行きだな〜と思ってたら幼いころから面倒見てた年下幼なじみ牡馬にアッーされてしまった。
しかし幼なじみ牡馬が自分に懐いており、しかも自分を母親代わりに見ていることも知っていたから「しゃあないか…」と受け入れた。
最終的に年下幼なじみ牡馬の正妻になる。
僕:
俺の年下幼なじみ牡馬。三冠馬。
母が幼いころに亡くなり、それからずっと俺に世話されて生きてきた。
俺に向ける感情が恋情なのか、またはマザコン的感情なのかは分かっていないが好きなのは好き。愛してる。
なお受胎率が悪い理由は仕事だから。
好きでもない牝馬と仕事して興奮するわけないだろォ!?