誠・火・燎・源

誠・火・燎・源

せい・か・りょう・げん

彼に結界術の才能は皆無、それどころか異能関係の才能がまるで無い。

世界を塗り潰し展開する事なんて出来ないし、そもそも結界の形成すらほぼ不可能なのだ。それはもう、そこらの赤ん坊の方が遥かに才能があるほどに。

更に結界に対する知識の欠如と認識の齟齬によりこの結果は必然だっただろう。

雀の涙すら及ばぬ、なけなしの才能を振り絞り、その搾り滓すら燃やして、なお残るナニカ。そこから形成される彼の辿り着いた答えは、単純にして明快だ。

その結界は、

炎が噴き出る事も

風が吹き荒れる事も

水が押し寄せる事も

地が揺れ動く事もない

世界を塗り替える変革は訪れず、毅然としてそこにある。

それが示す答えは世界に対する一切の干渉性が存在しない自己完結した強化だ。

────即ち、自身の表皮を外殻として体内を満たす心領結界。

効果も単純にして明快。異能が純粋強化され「感情とエネルギーの相互変換」が可能になる。たったこれだけの強化だが、これにより感情がエネルギーを生み出して、そのエネルギーを感情へ変換、感情を増幅しそれをエネルギーに、と繰り返す事で時間経過と共に出力が上昇し続ける。更にこの異能の「使用者の感情が強ければ強い程に基本スペックを超えた能力を発揮する」隠れた特性によって変換効率・強化倍率も天井知らずに駆け上がっていく。ただし、結界維持に大幅なエネルギーを割くために継戦能力を優先すると火力は然程上がらず、火力を優先すると継戦能力が著しく下がる。


たとえ、星の光のようにかすかな火でも燃え広がれば原野を焼き尽くすのだ


心領結界や結界武装、簡易結界の偏った知識を得てしまっために全てをごちゃ混ぜにしたような、中途半端で歪な心領結界を形作ってしまった。

心領結界のような「相手に対するデバフ」「異能の必中」「防御中和」能力はなく結界武装のような「イメージした姿になる」ことも無い。

だが、心領結界の「結界の外郭と内郭とを分断する」性質によって簡易結界の用に相手の心領結界の必中効果を中和、結界武装の「通常の心領結界や結界武装と同時に存在する事が出来る」性質と表皮が外郭である以上、結界の押し合いというものが発生しない。また、異能と身体能力の上昇は通常の心領結界の効果と同程度の出力になってしまう他、デメリットは据え置き。才能自体皆無なために今後それぞれの結界の使い分けや細分化なども不可能だろう。

あえて形容するなら対心領結界型簡易心領結界武装、なのだろうか。単純なのかややこしいのか分からない大変面倒な性質。















地に伏した彼/オレは無限に引き伸ばされた思考の海でただ思う。


────多分、オレに才能はないと思う。異能を始めとして、結界の生成もまるでこれっぽっちも出来ないし、そこら辺の普通の人の方が才能があるだろうと。


「けど、だからって諦めるのもオレのキャラじゃない………ッ!!」


────それに


「誓ったんだよ、オレは。あの日、あの時、あの場所でッ!」


────あの日の自分を、裏切りたくはないだけ。たった、たったそれだけの意地で………でも、譲れない。

始まりの否定はそれこそ今までの否定、積み重ねた全てに対する冒涜だ。

それは、それだけは出来ない。

あの日の想いを無視できない。

そんな子供のような癇癪、我儘、自分勝手な願望、だとしても……ッ!


────彼/オレは、知る由もないが。

この想いが、意地が、感情が、限界を突破し異能の基本性能を凌駕する。

ここに、条件は破却された。才能も、技術も、運命すら、彼を阻むに能わず。

頸木は打ち砕かれ、在るのはただ己の意地を貫く男が一人。あらゆる道理を吹き飛ばす焔の快男児がここに立ち上がる。


「────天輪せよ、代火の朱炎」


瞬間、紡がれる言の葉。これ自体に意味は無く、その本質は心に火を灯す光の兆しであり、己を鼓舞する自己暗示に等しい宣誓。誰にも等しくある未来への翼。つまり己の意志で明日を掴む、心の力。


「希望(あした)を想い、涙を照らせ」


明日は笑顔に溢れていると、世界はまだまだ捨てたものじゃないと証明して、誰かの涙を照らし、拭うために。

詠い、唱い、謳うは、希望の歌。



「心領結界──────


【誠・火・燎・源】ッ」





後に、これを聞いた彼の友人はこの時の事を纏めて、こう評した。




「オレの心(ねつ)を、いつまでも縛り付けられると思うなよッ!!」



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