触れ合い」R15
「……東堂」
名前を呼ばれ、東堂は顔を上げた。本音を晒したことで脹相から拒絶を受けることを恐れはしたものの、ここで顔を合わせないのは脹相に対して無礼に当たると思ったからだった。
脹相は言葉に迷った様子を見せてから、ため息を吐いた。東堂の大きな身体が揺れ、慌てて口を開く。
「……俺は、確かにお前に触れられることを恐れている。」
「……ああ。」
「だが、それは…お前が怖いからじゃない。」
訝しげに眉を寄せ意味を理解しきれていないと言わんばかりの表情をうかべる東堂に、脹相は言葉を続けた。
「……お前が、前の俺と今の俺は違うと言葉にする度に、愛されていたのは前の俺であって…俺ではないと感じていた。」
「……どちらも、お前だろ。」
「お前から見れば、そうかもしれない。でも、俺にはお前の話す俺が…俺だとは思えなかった。」
「…」
「深く触れ合い、関わり合うことで、余計にその差が大きく現れてお前に幻滅されるかもしれないと…そう、思った。」
ぽつぽつと語られる内容に、東堂は自分の浅はかさを痛感した。ひとつでも多く、少しでも早く思い出して欲しいがために、記憶を失う前の脹相を押し付けてしまう形になってしまった。ぐっと拳を固めると、その甲に脹相の白い指が重ねられる。
「……幻滅なんかしない。」
「どうだか。」
「証明してやったっていいんだぞ。」
白い指を絡めとって握ると、脹相の身体が強ばった。それでも東堂は既に止まれる気がしなかった。男に触られるのが嫌なんだろうと思って踏みとどまっていたが、それが間違いだと分かってしまい踏み止まるための理由が無くなってしまっていた。
汗ばんだ手のひらを親指でなぞると、脹相が瞳を揺らす。そのまま引き寄せて指先や指の背に唇を落としていき、薬指の付け根に柔く歯を立てた。見上げると、脹相が顔を真っ赤にさせている。鼻筋を横切る痣がどろどろと溶けているのを見て、いよいよ東堂は喉を鳴らして堪えるのをやめた。
***
「ふっ……、ッぅ……、あ……っ」
「……。」
背中から抱き込んで腹に腕を回し、直接的なところには一切触らずに割れた腹筋だけをなぞってかれこれ三十分は経とうとしている。脇腹から腰の出っ張りまでなぞってから臍へと滑らせ、普段内側から責め立てる箇所を腹筋の上からとんとんと叩いてやると、それだけでも快楽を覚えきった身体はそれを思い出したかのようにビクビクと震えている。それがどこか、深く眠っている二人の記憶に触れているような感覚すら覚えさせて東堂は胸がいっぱいになった。
「……脹相」
「っあ、耳元で、しゃべるな…っ」
「何でだ?」
「お前っ…、こえ、甘くてっ…溶ける……」
脹相は以前よりも反抗的だったが、無意識に人を煽るところは変わっていない様子だった。きつく眉を寄せながらだらだらと顔の痣から血を垂れ流している。お陰で口にキスをすることは出来ないが、珍しい姿に東堂は好奇心を煽られていた。
耳朶へと舌を這わせて舐め上げた後に小さな耳孔へと舌先を捩じ込みぐちゅぐちゅと音を鳴らすと、脹相の腰が浮きがくがくと揺れる。きゅうっと拳が東堂の服を引っ張ったかと思えば、途端に弛緩し崩れ落ちた。はくはくと呼吸を荒らげ何が起きたのか理解出来ていない様子を見て、東堂は目を丸めて問いかけた。
「……お前、イったのか?」
「イ、っ……?」
「……。」
東堂は状況を受け入れる為に思考を必死に回し、一つの解へと辿り着き息を飲んだ。性的なことをしたのは初めてだと言っていた脹相は、知識などはあれど実体験は全て東堂から得たものだった。その上、器となった人間の“記憶”が得られるという訳ではなくあくまで常識などの“知識”を得られるという話で、つまりは、セックスや射精などの言葉の意味は理解出来てもどんな流れで何をするかなどの知識は曖昧だったのだ。それも、東堂と付き合い始めてから映画やドラマ、時にはインターネットを使って勉強していた脹相は、それらも全て忘れてしまってるのではないか。
つまり、それは。身体は開発されているのに、意識は何も知らないまっさらな処女という話であって──……。
0.03秒で叩き出された結論に、東堂は思わず口元を手で抑えて悶えそうになるのを堪えた。年相応の十八の自分と、記憶を失っている相手を気遣う大人な自分が脳内で殴り合いをしている。
「はっ……、…や、やっぱり、違う、のか」
「チガクネエケド……チガウノガ、イイッツウカ……」
「なんでカタコトなんだ…?」
困惑する脹相を安心させるように抱き締めた。脹相もまた、控えめではあるが擦り寄ってくる。未だに余韻に小さく震える体を全身で感じてしまい、東堂はひとつ決意した。珍しくも東堂の確固たる理性が完全に敗北した瞬間だった。
──記憶をなくしてる間に、一回は抱こう。