解すR18
ホテルに運び込みベッドの上に寝かせるも、脹相は依然として気持ちここに在らずと言った状況だった。東堂は苦虫を噛み潰したような気持ちになった。
あの時、こいつを置いていかなければ。冷静にちゃんと話し合いができていれば。既に怒りの矛先は自分に向いていた。
「…脹相、分かるか?俺だ。」
「……あ、…葵………」
揺れた瞳が東堂を捉えた。それを見逃すことなく、東堂は唇を寄せて口付ける。舌をねじ込み脹相の冷えた口内を厚い舌で舐ってから離し表情を覗き込む。白い肌がいつもより青白くなっているように思えて、東堂は頭を瞬時に働かせた。
──呪胎九相図は、確か加茂憲倫による受胎と堕胎の繰り返しという残酷な実験の元生まれたもの。あの場所はホテル街の裏路地。…脹相はこう見えても割と冷静に物事を考えられる男だ。こいつが冷静さを失うきっかけがあるとするなら、弟のことか生まれのことのみに限られるはず。…憶測でしかないが、あの場にいた男がもし暴漢の類で、女性に性的な暴行を振るっている場を見てしまったとしたら。この状況にも説明が着く。あの男が、人間ではないという言葉にも…。
「…脹相。俺の目を見てくれ。」
「……、…」
「そうだ。良い子だ。」
脹相の頬を両手で挟み込んで、東堂はまっすぐと視線を合わせた。未だに目の前の瞳は酷く揺れていて、冷静でないことをひしひしと伝えてくる。額同士を合わせて、東堂は口を開いた。
「…悪かった。お前をあの場に置いていったことも。冷たい態度をとったことも。…お前の話も聞かずに、責めてしまったことも。」
「……」
「…置いていかないと約束したのに、破っちまった。すまん。」
脹相の呼吸がゆっくりと落ち着いていくのを間近で感じとり、東堂は目を伏せた。再度、唇を重ねて深く口付けを繰り返す。そうしながら手を脹相の服にかけて捲り生白くも鍛えられた腹を掌で摩る。その手を這わせて、胸の飾りに指で触れた。小さな声が漏れだして目の前の体が強ばった。
「脹相…大丈夫だ。本来、男女の営みも…男同士のそれも、怖いもんじゃない。愛を確認するための行為だ。」
「……葵…、もう、怒ってない、のか」
「…怒ってねえよ、そもそもは俺が悪かった。…お前のことが好きすぎて、どうにも我慢が効かないだけだ。…お前は何も悪くなんかない。」
脇腹や胸に手を這わせて何度も身体の線を確認し、ひとつずつ服をぬがせていく。脹相の表情には未だどこか恐怖が滲んでおり、それが自らの手の届かないほど奥底に刻み込まれたものだと思うと無性に腹が立った。白い肌に何度か吸い付き、淡く色付いた胸の飾りへと唇を寄せる。
びくりと身体を跳ねさせた脹相の手が東堂の頭を掴んだ。
「ぁ、あっ…、くす、ぐ、ったい…」
「は…、擽ったい、だけか?」
「ぅ、あ…ぞわぞわ、する…」
「…そういう時は、気持ちいいって言うもんだ。」
見た目にそぐわず初な反応を見せる脹相が東堂の優越感を満たした。芯を持ち始めた小さな突起を舌先で擽り、強めに吸ったりしてみて反応を見る。実際、東堂自身も経験が豊富な訳では無いために、思いつく限りのことを試して反応を見るしかなかった。しかしどれにしても、脹相は腰を浮かせて反応をする。東堂の中にあった複雑な色をした感情は、既に溶けきっていた。
「あ、あぁっ…!」
「…脹相、舌出せ。」
「は、っ…?」
胸から口を離して、今度は素直に差し出された舌へとしゃぶりついた。同時に相手の履いていたズボンを下着ごと下ろす。汚してしまっては京都に帰る服がないとどこか冷静な頭で判断しての事だった。
「っ、な、なに、」
「…触ってやる、この間は俺が一方的に抜いてもらっちまったからな。」
既に反応を示し始めている脹相の陰茎を握り込み自慰行為と同じ要領で扱いてみれば、脹相の腕が首へと回ってきつく抱きしめてくる。耳元で吐息混じりの低い嬌声が響き、東堂の理性は限界を迎えかけていた。
「…脹相…、一旦、手、離してくれ。」
「…い、やだ…」
「……どこにも行かねえよ。頼む。」
「……」
恐る恐る腕が解かれ、自由になった身体を起こした。ベッドから身を乗り出して一人がけ用のソファに置いていた鞄を漁り、中から個包装のローションと避妊具が詰まった箱を取り出す。ボトル型を買わなかったのは、学生寮ではやらないと決めていたからであった。持ち運びが楽な方が断然にいい。
脹相は取り出されたものを見てもそれが何の用途を担うのかまでは理解していないようだった。性知識がどこまであるのかも分からない相手、その上に性的な暴行という逆鱗があることまで知ってしまった。慎重に進めていかなければならない。足を止めるという選択肢は、既になかった。
「そのまんま仰向けで…腰の下に、枕挟むから。尻上げろ。」
「な、何を、するんだ?」
「…お前を抱く、準備だ。今日は本番まではやらない、…あー…つまりだな、入れはしない。」
「……」
「女と違って、男の身体は準備がいるんだ。それを進めるだけだが、もし嫌だったら、教えてくれ。」
個包装のローションを二袋分掌に開けて、両手に馴染ませた。知識は事前に調べたことで十分なはず、あとは実践のみである。掌に余ったローションを右手の指で掬い脹相の尻の割れ目へと塗り付けた。
慣れない感覚を受けて脹相の身体が跳ねた。困惑と戸惑いを隠しきれない様子で太い眉がいつもより垂れ下がっている。皺をひとつひとつ伸ばすように念入りに塗りつけてから、ゆっくりと中指を押し込んだ。異物感が苦しいのか、脹相の顔が歪んだ。
「っ、ふ…、ぐぅ……っ…」
「…気を紛らわせてやるから…頑張ってくれ。」
濡れたままの反対の手で再度陰茎を握り、粘着質な音を立てながら扱きあげる。段々と苦しそうな呻き声が甘さを含んでいき、力が抜けたタイミングを見計らって指を根元まで捩じ込み手首を捻る。腸壁をぐるりとなぞった後に事前に学んだ腹側の浅い所を触診するように丁寧に押し込み確認していき、そのうちの一点で脹相の反応が変わったのを目敏く見つけた。
「っあ、ッ…?」
「…気持ちいい、か?」
「わか、らない…!そこ、ぁ、変だ…!」
とんとんと持ち上げるように指を曲げて叩いてやれば、脹相が困惑しながらも喘ぐ声が部屋に響きわたり興奮を煽られる。正直指一本では挿入など夢のまた夢なのだが、愚息は布を押し上げきつく反応していた。
「うぁ、あぁっ…!」
「脹相…。」
喘ぐ度にちらちらと見える赤い舌がやけに厭らしく見えて、東堂は身を乗り出して口付けた。ゆっくりと絡めた後に離れて、唇が触れる距離で口を開く。
「…お前の、帰る場所は、此処だ。愛してる…、」
「は、っあ、あぁあっ…!」
手淫の速度を早めて追い立てるように刺激を与えれば、脹相は呆気なく精液を自らの腹の上に飛ばす。しかし、東堂はそれだけでは止まらずに内臓に触れる指をより強く動かし前立腺を刺激した。思いもしない快楽に脹相は背中を仰け反らす。
「あ、あぁ"っ!あお、いっ…!もう、出た、むりだ…っ!」
「…ここで、気持ちよくなることを覚えろ。」
「ひっ、ぅ、きもちいい、覚えたっ、覚えた…!」
「……上手だ、そのまま、受け入れてくれ。」
「あ、あ"ぁ〜〜…ッ…♡」
首をぶんぶんと振りながら涙を滲ませるも、腰から脳天へと波のように伝わる快楽に耐えきれず脹相は全身を強ばらせて震わせたあとに断続的に太い指を締め付けた。びく、びく、という痙攣を指で感じた東堂はその色っぽさを前に深く息を吐いてから、ゆっくりと負担のないように指を引き抜く。
「…脹相…、怖かったか?」
「ぁ、あっ…♡…こわく、なかっ…た…♡」
「…ならいい、気持ちよかったか?」
「…気持ちよか、った…」
何度も頷きながら答えてくれる脹相のぽやんとした表情が愛しくて真っ赤な頬へと口付けた。横に抱き上げて浴室へと運んでやり、ついでに浴槽のサイズを確認してみたが一般的な体格よりも逞しいふたりが一緒に入れる大きさではなかったために一緒に入ることは諦めた。
「一人で入れるか?」
「…、…」
返事がないために、仕方なく服を脱いで髪と体だけ洗ってやることにした。シャワーの温度を確かめてから身体にかけてやるとその刺激にすら大きく反応する脹相は、未だに絶頂の余韻から抜けきっていないようだった。
「…俺と、ああいうこと、今後もしたいと思ってくれるか?」
「…し、たい……」
「怖くないか」
「……怖かった、…が、お前に触れられるのは、安心するから…」
ぽつぽつとシャワーの音にかき消されそうなほど小さく浴室に響く声に耳を澄ませた。シャワーを一度止めて顎を掴み振り向かせて唇を貪った。濡れてしっとりとした唇の感触がたまらなく気持ちよくて、壁に脹相を押し付けてさらに深く口付けた。
「は、ぁ…っ、あお、い…っ」
「…ん、…はぁ……っ、」
限界だった。完全に上を向いた陰茎は腹につくんじゃないかというほど反り上がり、その先からは先走りがだらだらと垂れている。そんな俺の愚息を目の前にした脹相は、小さく息を飲んだあとに眉を下げたままその先走りを舌で掬ってカリまでを口に含んだ。ぬるりとした粘膜に包まれる感覚に思わず腰が抜けそうになる。壁に手を付き、緩々と浅く腰を揺らしてみると脹相はぢゅると音を立てて吸い付いた。大きさに苦労してるようではあるが、あまり抵抗があるようには見えない。
「ッ、は、ぁ……ッ、ちょう、そう…ッ」
「……ッ♡ふ、んぐ……っ、」
ついには自ら頭を振って唇と手を使い扱いてくる脹相の手が腰に周り尾骶骨をなぞってくる。どこで覚えてきた、と思うも、よくよく思い出せば日々くつろいでる時間にたまに骨ばった脹相の尾骶骨をなぞって遊んでいたのは自分だと思い出す。狭い浴槽に聞いたこともない自分自身の吐息混じりの声が響き、複雑な心境になった。それ以上に、えろ過ぎる光景が目の前にある訳だが。
「ぐ、っ…離、せ、出る…ッ…」
「ん、んッ…」
「ばか、離せっ、て…ぐ、ぅッ〜〜…!」
脹相が腰にまわした腕に力を入れてきたために、射精するタイミングで引き抜こうと思っていたのにそれが適わなかった。口内に溜まった白濁色の体液を、脹相は両手で作った皿に舌をのばして落としていく。さすがに飲むという知識はなかったらしいと安心した。
「…たくさん、出たな…、葵のは、俺のよりどろどろしてる気がする、…すっごく大きくて、顎が外れるかと思ったぞ。」
恍惚とした表情で述べられる感想に再度勃起しそうな愚息を理性と気合で押さえ込みつつシャワーで口周りや手を流させた。