覚えているとも

覚えているとも


空座町


「……またか」


 この一年ほどの間に何度も感じたことのある“髑髏面の女”の霊圧を感じとった石田が、ある事に気付いて顔を強ばらせた。

 ——こっちに……近づいて来ている!?

 今までと行動を変えた破面を警戒して、滅却十字を握りしめる石田に頭上から声が掛けられた。


『良いところに通りかかったね。君に少し手伝って欲しいことがあるんだ』

「カワキさん! 君も気付いたんだね」


 ひらりと舞い降りて来た友人——カワキの姿に石田が顔を上げる。

 滅却師である石田は、霊圧知覚に長けた種類の人間だ。

 かつて、その石田と同じ教室で過ごし、クラスメイトとして身近に関わりながら、カワキは自らも滅却師であることを、石田に微塵も悟らせなかった。

 極めて高度な霊圧制御能力を持つカワキは、近づいては逃げられる石田と違って、何度か件の破面に接触していると聞く。

 恐らく今回も例の“髑髏面の女”の霊圧と異変に気付いてこちらに来たのだろう——そう推測した石田はカワキに駆け寄った。


「例の破面が人間を追いかけている可能性がある。手伝いとはこの事態に関することだろう?」

『……「そうだ」とも「そうでない」とも言えるな』


 人間が走るよりも遥かに速い速度で移動を続ける破面の側に、普通の人間とは違う霊圧を感じる。

 喫緊の対処を求められる状況にあって、はぐらかすように答えるカワキに、石田は眉を寄せて早口で問い掛けた。


「どういうことだい? 今はふざけている場合じゃ……」

『ふざけてなんかいないよ。疑問は不要だ——私の目的は、この町での騒動を避けること』


 今日になって突然いつもとは違う行動をとった“髑髏面の女”に加え、昨日は今まで見かけたことがない破面が出没するなど、異変が続いている。

 もしかしたら、一連の異変は何か大きな騒動に繋がるものなのかもしれない。

 カワキが問い掛けに明確な答えを避けた理由はそこにあるのではないか——石田はそう思い至り、静かにカワキの言葉の続きを待った。

 小さく微笑んだカワキは石田を見上げて手を差し出す。


『一緒に来てくれるかな、石田くん。これはきっと君の望みにも沿うものだ』

「……! ……覚えていたのか……」

『覚えているとも』


 石田は今から一年以上前、町を巻き込む大騒動を引き起こしたことがある。

 ————「僕はこの町の人間を、誰一人死なせるつもりは無い!」

 ————「たとえ黒崎一護が力尽きようと、僕が命にかえてもこの町の人間を守り抜く!!」

 あの時の石田が言った言葉を、カワキは覚えていたのだろう。

 愚かな真似をした石田を、カワキは同じ滅却師として叱責し、後始末のために手を貸してくれた。

 今度は最初から、共に空座町を守ろうと差し出された手に、石田は込み上げる感情を抑えて頷いた。


「ああ。僕は何をすれば良い?」


***

※カワキが覚えているキーワード

「僕は死神を憎む」


後に来る千年血戦篇のオマージュ+石田にとっては死神代行篇のリベンジも含む会話


千年血戦篇の該当シーン

「カワキさん……何か……何か事情があるんだろう? 君が尸魂界や虚圏を襲った奴等の仲間だなんて……」

『……事情があるのか……か。「そうだ」とも「そうでない」とも言えるね』

「ふざけていないで答えてくれ!! 君は知っていたのか!? 今回のことを……」

『「今回のこと」というのが尸魂界や虚圏への侵攻を指しているなら、あらかた話は聞いていたよ。そして、その時に下された命令が一つ……君の勧誘だ』


『一緒においでよ、石田くん。そうすればきっと、石田くんのやりたい事が叶うよ』

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