視線に灯るは

視線に灯るは


脹相目線



おかしい。おかしい。おかしい。

あの日から、あの時から、自分の身体も頭もおかしくなってしまったようだった。

一瞬。ほんの一瞬ちらと振り向いた彼の目と視線がぶつかっただけ。

それで、それだけで身の裡にじわりと熱が灯る。

ただの一度、其れも已むを得ずにする事になっただけの行為だと言うのに、この身体は浅ましくももう一度、いや、きっとそれ以上、彼の熱を求めている。

どくどくと耳許で鼓動が聴こえる。頬も耳も首も熱を持って見てわかる程に紅くなっているだろう事が察せられる。

治めなければ。

こんなもの、己の術式でどうとでも出来るはずだった。

だのに、何故だか上手くいかない。

こんな姿、悠仁には勿論、彼にだって見せたくは無い。

物陰に隠れて座り込み、両腕で身体を掻き抱く。

誰かの足音が近付いてくるのが聞こえる。

早く。はやくおさまってくれ。

足音が近くで止まる。

間一髪で治める事が出来て安堵の息を吐いたのも束の間、

「……大丈夫か?」

と案ずる声は、熱を持たせた張本人で。

顔を上げた先には、心配そうにこちらを覗き込む彼の姿があった。

ああ、駄目だ。

視線が、絡んでしまった。今度は長く。

治まったはずの熱がぶり返すのを感じて顔を伏せながら、

「だいじょうぶだ」

と消え入るような掠れ声で返した。

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