【見回り】編 ② -軽業師-

【見回り】編 ② -軽業師-




[百花繚乱紛争調停委員会 廊下]


 そうして廊下に出たのはいいのだが。

ミク「……そういえば、なんですけど。」

レンゲ「ん、どうした?」

ミク「彼女たちを捕らえたのってレンゲ様でしたよね?それ、警戒されません?」

レンゲ「……確かに!」

アリス「そういえばそうだね!」

うーん。急ぎの用でもないし、戻って誰か呼ぶか…?


 

 マワリ「そう言うと思って来てやったのだわ、レンゲ!」

レンゲ「おお、マワリ!?」

待っていたかのように、マワリ様が正面の角から飛び出してきた。

ミク「すごい察知能力ですね!?」

マワリ「まあ実のところは、キキョウに連絡を寄越されたのだわ……

『付き添いをレンゲだけにしたのはミスだったかもしれないから、一緒に行って欲しい』って。」

レンゲ「それならキキョウが来れば───いや、あいつは無理か……」

ということで、三人で乗り込むことにした。


 レンゲ「確か、もうみんな目覚めてるんだよな?」

ミク「はい。破損箇所も全て修理しました。」

アリス「エンジニア部の経験が生きたよね!」

マワリ「じゃあ問題なかった、ってことでいいわね?」

ミク「はい…ただ、1つ気になることが」

そう言って私たちは『あるもの』を取り出した。

レンゲ「……それは?」

アリス「『爆弾』だね。首の裏らへんに埋め込まれてた。あ、もちろん爆発しないように中身は抜いてるよ。」

レンゲ・マワリ「「……!?」」


 ミク「全員にもれなく埋め込まれていました。ただ構造的には難しいものじゃなかったので、修理の際に取り外しましたが……」

アリス「ほら、前に助けを求めてた子、緊急停止したでしょ?あの子の首に軽く抉ったような跡があったの。ちょうど爆弾も無かった。

たぶん素人の…あの子本人がやったもの。軽傷だったのが奇跡なぐらい。」

ミク「まだ詳しい話は聞けていませんが、爆弾のことを尋ねると「埋め込められた」と言っていました。」

レンゲ「───本格的に怪しくなってきたな。」

マワリ「気を引き締める必要がありそうなのだわ!」

色々と分かることがあればいいのだが───そんな期待を持ちつつ、件の部屋の前にたどり着いた。



[百花繚乱紛争調停委員会 空き部屋]


 ガラッ、と襖を開けると、中にはたくさんのアリスたち───海賊版アリスたちが、多種多様に時間を潰していた。

会話を楽しんでいる者、静かに座っている者、なぜかジャブを打っている者……本当に多種多様である。

襖を開けたことに気づき、一斉に注目を向けられる。

<あっ、あのアリスさん……!

<いや、でも36型たちをボコボコにしたお姉さんもいます!

<27型を追い詰めたお姉さんもいますよ!

<うわーん、おっかないです!まだ死にたくありません!

<もうだめです…おしまいです…ゲームオーバーなんですね……

……まずい、混乱を与えてしまったか?

レンゲ「そういやマワリも捕縛に参加してたっけか……どうする?」


 マワリ「ふふん、そこはご心配なく!なのだわ!」

そう言うと、マワリ様は手を叩いて高らかに叫んだ。

マワリ「さぁさぁ、皆様ご注目!これよりお見せするのは百鬼夜行一の軽業師、十条(じゅうじょう)マワリの特別公演なのだわ!」

そう言うとマワリ様は───数多くの動物を、体のどこからか持ち出した!

ヘビ「シャー!!」

海賊版アリス「ひええっ、ヘビですっ!」

マワリ「ちょっと待つのだわ。怖がらずに、そっと手を出してみて?」

海賊版アリス「……?は、はい……」

そう言って怖がるアリスの1人が手を伸ばすと……ゆっくりとヘビが這って乗り移り、頭や体を使ってアリスの首や腕を撫で始めた。

海賊版アリス「あっ、ヘビが……あははっ、くすぐったいです!」

ヘビ「シャー!」

<ええっ、すごいです!

<42型にもお願いします!

マワリ「ええ!タコやニワトリ、ウシにイヌ!まだまだいるのだわー!」

ワーワー!キャーキャー!

その場はたちまち、愉快な見世物舞台に生まれ変わった。


 レンゲ「そういえばマワリは十条の家系だったか。実際に見るのは久しぶりだな!」

ミク「百花繚乱の活動でも度々道具や動物を取り出してるので、私たちは割と見慣れてきましたね」

アリス「相変わらず、あの小柄な体のどこから取り出してるんだろ……?」

マワリ様は十条家───軽業師の家系で育ち、曲芸や動物の扱いを心得ている。どうやら改革だとかいざこざがあって、今はマワリ様が主体となって舞台を経営しているとか。

同じ百鬼夜行で暮らす者として自らの能力を活かして貢献したい、と、百花繚乱に加わったらしい。百花繚乱の内外を問わず、人事や相手との接待、連絡など、人間関係に対する様々なことを抜群にこなす。

近頃行われる合縁祭でもどこかの日に開演すると言っていた。普通に楽しみ。

ワーワー!ガヤガヤ!

マワリ「いつもより多めに回しているのだわー!」

<うわぁ!すごーい!

<お姉さん!さっきやってた火を吹くやつ、もう一度見たいです!

マワリ「お安い御用だわ!」

キキョウ様がマワリ様を呼んだのは、アリスたちの相手にはマワリ様が最適だから、ということだったのだろう。


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 少し経って、みんな大分落ち着いたようだ。

マワリ「ふー……完璧なのだわ!」

ミク「お疲れ様です、お茶をどうぞ。」

マワリ「ありがとうなのだわ───え、どこからお茶を……?」

ミク「従者として当然のことです。」

アリス「お茶の子さいさい、ってやつだよ!」

レンゲ「……どういうことだ……?」

一息ついていると、1人のアリスが話しかけてきた。

???「あ、あの。みんなを落ち着かせていただいて、ありがとうございました!」

ミク「……!貴女は、私たちに助けを呼んでいた───」

 

12型「はい!この中では一番少ないナンバーなので一応、リーダーを務めています───アリス・モデルナンバー12。12型とお呼びください!」


 12型……そういえば、さっきも彼女たちは◯◯型という番号でお互いを区別しているように見えた。

ミク「えっと、同じ場所で大量に製造された内の1体、ということですか?」

12型「その通りです!ここにいるみんなは同じ場所で製造されました。製造順に番号を振られています。」

───それは、つまり。

レンゲ「ってことは、『海賊版アリスの製造工場』みたいなのが存在するってことじゃないか!」

12型「ええっと…は、はい、そうです……」

つまり、量産型アリスの製造方法が完全に露呈していて、それを再現できる技術を持つ者が知っていることになる。

アリス「待って、それってめちゃくちゃまずいんじゃない?」

マワリ「……まずいどころの騒ぎじゃないわ。資源が尽きない限り、人とほぼ同じ存在が延々と生まれ続けることになるのだわ!」

ミク「う、うーん…とりあえずミレニアムと警察に連絡を…」

レンゲ「陰陽部にも要相談だな。話をつけたら動いてくれるはずだ。」


 12型「え、ええと!!!」

その話し合いをかき消すように、12型は叫んだ。

12型「色々考えさせてしまい申し訳ないのですが…皆さんが考えているようなことは起こらないと思います。」

アリス「…と、いうと?」

12型「実はある日を境にして、素体を作っても起動しなくなったんです。製造方法も素材も一切変えていないのに、です。

その影響で、工場で作られたのは全部で86体です。」

『起動しなくなった』…?本来のAIシステムすら動かなかったということか?

レンゲ「それでも86体生まれたのか…何か少し違えば、もっと大変なことになってたかもな…」


 12型「それで原因も分からずじまいの中倒産したんですけれど、私たちは存在そのものが違法、とかで…住む場所もなく追い出されたんです。」

アリス「………」

ミク(……?アリスちゃん?)

アリス(あ、いや…やっぱりどこも同じようなものなんだなって…海賊版は初めてだけど、違法の子が追放されるのを見たことあるから。)

ミク(……そうですか。)

いくら不都合な存在だと言っても、自らの都合で捨てるなんて───いや、『自らの都合で捨てていいモノ』だと思ってるのか。これだから犯罪者は……


 レンゲ「ん?でも、ここにはそんな大勢いないだろ?他のアリスはどうしたんだ?」

そう言われて辺りを眺めてみると───確かにたくさんのアリスはいるが、彼女が言う86人には程遠い。せいぜい30人程度だろう。12型は目の色を変えて答えた。

12型「……!はい、そうなんです!みんなを助けてほしいんです!」

どうやら、話が繋がってきたようだ。


 12型「ええっと、百鬼夜行のアリスたちの現状は……」

ミク「……確認できた個体の保護はしているようですが、現状の問題はあまり把握できていないと聞いています。」

レンゲ「百花繚乱として面目ないな……」

マワリ「ま、まあ、ミクとアリスも来たしこれからなのだわ!」

12型「なら説明したほうが良さそうですね!

現在百鬼夜行は謂わば『避難所』。住処を失った野良アリスたちが集っています。」

アリス「あー、確かに主人が近くにいないアリスをよく見かけるかも!」

ミク「理由は───まあ、今までアリスたちに対してあまり対応がとれていなかったからでしょうか。」

良くも悪くもフリーだった、ということだろう。支援されることはないが、一方的に迫害されることもない。


 12型「そのため、ここに住む野良アリスたちも考え方が違いまして…

今では『機械やアリスとしてのしがらみを考えずに平穏に暮らしたいアリス』、『人への復讐を誓うアリス』、『量産型アリスと同じように生きたいアリス』の3つに分かれて混沌を極めています。」

ミク「ほんとに混沌ですね!?」

それ数か月で終わるようなしがらみじゃなさそうだな?痛まないはずの胃が既に痛む……

12型「そしてそれに対する不審者さんも色々です。

『アリスを無料で手に入れたい人』、『犯罪に利用しようとしている人』、『別に野良じゃなくてもいいから攫いたい人』……そういった人たちが無差別にアリスたちを捕まえようとしています。」

アリス「わーお…ウラの組織とそう変わらないね。」

おそらくアリスちゃんの言ってるウラではアリスではなく人なんだろうけど…要するにそれぐらい酷いことをアリスたちにやる奴らがいる。

既に犯罪者をとっ捕まえることも割とあるのだが、その中にはそういった人もいたのだろう。


 12型「私たちは穏便派だったんですけど…ある日運悪く、犯罪組織に見つかってしまって。恐らく正規品と勘違いされてしまったんだと思います。そこで散り散りになって逃げたんです。」

ミク「───それで捕まってしまった、と?」

12型「はい。でも、正規品でないと分かるや否や、急にぞんざいに扱われて。適当に処分させようと……」

レンゲ「お祭りを騒がせろって命令されたのか?」

12型「はい…逆らったら首元の爆弾を起爆させる、と…脅しに、目の前で実際に爆弾を起爆されました。」

なんて惨いことを……

アリス「……なるほど。その組織の人はこの子たちに犯罪をさせるんじゃなくて、私たちにこの子を捕まえさせるのが目的だったっぽいね。」

レンゲ「『百花繚乱ならどうせ、よく考えもせずに引き渡すだろ。その間に雲隠れでもなんでもすればいい。』ってか。……舐められてるな。」

マワリ「むぅ、癪に障るのだわ!」


 12型「それで私たちは皆さんに助けてもらったんですが…他の仲間たち─── 55人のアリスたちが、今もどこかで隠れています。逃げられたか捕まってしまったかは分かりませんが……」

レンゲ「なるほど、アタシたちに頼みたいのはそいつらの救助ってことだね。」

12型「まさにその通りです!……その。」

彼女は改まって、覚悟を決めたように言う。

12型「……私たちは正規品ではありません。勝手に生まれて、勝手に問題を起こしてしまった。それは分かっています。それでも、私に───私たちにとっては、家族みたいなものなんです。助けたいんです!

本当に身勝手なお願いで申し訳ありませんが───お願いします!」

深々と頭を下げられる。続けて他のアリスたちからもお願いされた。

───答えはもう、決まっていた。


 39号「「もちろんです / だよ!」

12型「……!いいんですか!?」

彼女は驚いたように目を丸くする。

ミク「生まれは違っても、同じアリスですから。家族を見捨てられない気持ちは貴女と同じです。」

アリス「それで言うなら私も『アリス』じゃなかったからねー?そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ!」

12型「……!はい!」

マワリ「……話はまとまったようね。じゃあ、現状をもう少し詳しく教えて欲しいのだわ!それを基に今後の作戦を練るから!」

12型「分かりました!」


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 ミク「それでは、また後程。」

アリス「またねー!」

<また会いましょう!

<さっきのやつ、また見せてくださいね!

マワリ「もちろん!今度はもっとすごいのを持ってくるのだわー!」

<わー!!!

<そっちのお姉さんも、またお話しましょうね!

レンゲ「ああ、またな!」

ガラッ、ぱたん。


 12型「皆さん、本当にありがとうございます。




 ─────本当に、ごめんなさい。」




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[百花繚乱紛争調停委員会 廊下]


 ミク「………?」

ナグサ様たちの元に戻る間、不意に『違和感』のある感覚を受け取った。

アリス「───ん……?」

ミク(───アリスちゃんも、ですか?)

アリス(うん。なんかこう、パチパチってするような感じ。)

なんだろうか。強いて可能性を考えるなら、電波…?


 アリス(そういえばこれ、海賊版の子たちを保護したあの日もあったよね。)

ミク(……え、そうなんですか?)

アリス(うん、記録もちゃんとしてる。)

───だが、レンゲ様やマワリ様がそのような感覚を訴えたことはない。もしかしなくても、私たちだけが……?

アリス(───気を付けようね、ミクちゃん。もしかしたら、単なる人探しじゃなくなってるのかも。)

ミク(はい、頑張りましょう。)


 マワリ「それにしても、作戦は練るには練れそうだけれど…結局、今すぐできることはなさそうなのだわ。」

レンゲ「そうか?むしろ明確になったと思ってるけど。」

ミク「───と、言いますと?」


 

レンゲ「ん、そりゃあもちろん───『見回り』だ。」




To be continued…



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