裏垢4スレ その2
「や、ぁっ」
ぐじゅり。熟れきった果実が潰れるようなそんな音がして、目の奥で火花が散る。明滅する視界に、見慣れた薄緑の髪が覗いた。ゆるゆるとそちらに視線を向ける。
筋張った男の人の手が、太ももを持ち上げている。開かされた脚の間からは、絶えず水音が響いていた。
「ふ、ぁ……っや、も、それっ……」
吸いつかれた花芯から快楽が弾ける。その刺激すら逃しきれないうちに、収縮するそこに舌が滑り込んできた。
「んく、ぅ……っ」
彼の手で何度も何度も開かれた体は、容易に快感を拾う。いつも長い指で掻き回される蜜洞は、舌からのゆるやかな刺激では満足できなかったらしい。浅い所ばかりを擦るそれでは、もどかしさが増すばかり。
「ひぐ、っあ!? あ、──っ」
放置されていた花芯を強く吸われ、不意打ちで絶頂に飛ばされた。抱えられていた脚ががくがくと痙攣し、淫猥に揺れる。なぜだか泣きたくなって顔を覆った。
「ぁ……っん、ふぅ」
しかし、すぐに手を剥がされる。がっちりと後頭部に添えられた手が、逃がさないと言いたげに力を増した。噛み付くようなキスの合間、頬をなぞる吐息にすら感じてしまう。
「……ちゃんと見ていて」
君を抱いているのが誰なのか。言い捨てるや否や、彼はようやく上の服を脱ぎ捨てる。煩わしげに袖を払う姿に、こんな時なのに見惚れてしまった。──こんなに荒々しいエランさん、初めて見た。
私の知る彼は、どこまでも穏やかな人だった。涼やかで物静かで、私の憧れで。こんな風に、激情を剥き出しにぶつけてくる姿なんて、今まで想像もできなかった。
「ふぁっ……や、あ、あぁぁぁ!」
「は、……っ」
遠慮も加減もなく、一息に貫かれた。衝撃、そして圧迫感。次第にそれも、快楽に置き換わっていく。
「ひく、ぅ、あ! あ……ん、っあ!」
引いて、押し込む。たったそれだけのはずなのに、どうしようもない悦楽が弾けて視界がぶれる。とんとんと一定のリズムで奥をノックされ、喉奥から嬌声が絞り出された。
「あ、ぁっ、あ!」
「こんなに悦んでるのに、さらに他の男も知ろうとしたの? ……悪いけど、諦めて」
ぐりぐりと抉るような動きに、息が詰まる。つま先がシーツを引き寄せ、綺麗にメイキングされたベッドを乱していった。
「ひぐっ、ぅ」
「ほら締まった。……こんなに喰いしめて離さないのに、今さら僕以外で満足できるとおもってたの。ねぇ」
口の中に押し込まれた指が、ぐちゅぐちゅと口内を蹂躙する。上顎を引っ掻くように嬲られ、背が弓なりにはねた。弱い快楽が全身を駆け抜ける。
「ふぁ、あ……」
「君をこんなにしたのは誰? 教えてよ」
「あぅっ、あ、ぇら……っあ! えらんっ……さん……っ」
「……うん、僕だよ」
入っちゃいけないところをこじ開けるように、ぐいぐいと何度も最奥を突き上げられた。増した内臓への圧迫感も快楽へと書き換えられ、思考回路が蕩けていく。
「いやだよ。……誰にもわたさない」
私を自分のモノだと宣言するかのようなそれに、流されかかっていた理性がすんでのところで留まった。──好き合っている恋人同士ならいざ知らず、ただのセフレ、性欲処理として使われている相手にどうしてそこまで制限されなければいけないのか。
私だって。
「自由、に……っさせて、ください……っ!」
「っ」
ぴたり、一瞬動きが止まった。しかしそれは本当に一瞬で、すぐ再開された律動に再び心身は翻弄される。
「あぅ、あ、ひゅ……っ」
いっそ暴力的なまでのそれに、呼吸すらままならない。燻っていた火に油を注いだかのように、体の奥で熱が燃え上がる。媚びるように全身が揺れ、無意識に彼の与える淫悦に酔いしれた。
苦しいほどの彼の熱が、息を吸い込んだ瞬間ぴったりと入り込んでくる。
「んく、うぁ、あ──」
体のいちばん深いところで熱が弾け、二度三度と跳ねる。痛いほど抱きしめられながら、薄い膜越しに注がれたその熱さに息を吐いた。全力疾走した後のように、ぐらぐらと視界が揺れる。
「…………、そう」
今まで聞いたことがないほど、低い声が響いた。全身を襲った快楽に呆気なく押し流された私の体から、熱を引かせるには十分すぎるほどに。
「あぁ、そう。……、そう」
噛み締めるように繰り返し、私に覆い被さっていた彼がゆっくりと体を起こす。濁った緑色の目が、どろりと私を捉えた。
「ひ……っ」
ずるり、体の中央から熱が抜ける。直後、うつ伏せに転がされ、のしかかってくるその体温に恐怖した。──男の人の、体。たとえ背が高くとも、女である自分では絶対に敵わないという本能的な恐れに絡め取られる。
「愚かだね、スレッタ・マーキュリー」
出会ったばかりの時のような呼び方に、びくりと肩がはねる。
「考えが浅はかすぎる。君と会う予定だった相手が、平気で約束を破るような男だったらどうするつもりだったの」
「や……く、そく……?」
「……世の中の全ての男が、快楽目的のセックスでも避妊するものだと思ってるなら、大間違いだよ」
「え……?」
淡々とした声が、何やら怖いことを言う。深いため息が背に落ちた。
「ど、どうして……だって、性欲処理、なら、避妊しないと……」
「……だから愚かだって言ったんだ。女性と違って、男は妊娠する心配がないから認識も甘いんだろうね。それに、付けない方が気持ちいいらしいよ。僕は知らないけど」
つうっと、長い指が背筋をなぞる。くすぐったさだけでない何かで体が震え、呼吸が浅くなる。
「初対面の何も知らない男と、こんな密室に二人きり。扉は料金を支払うまで開かなくて、壁だって一応防音加工だ。……君がどれだけ怖い目にあって叫んでも、誰も助けになんて来てくれない」
首筋に手が触れて、少しだけベッドに押さえつけられる。それだけで本能的な恐怖を感じて、ひゅっと喉奥で息が詰まった。
知っている相手、大好きなエランさんですらこうなのだ。もしこれが、見ず知らずの相手だったら──考えたくもない。
「ご、ごめ……っなさ、」
「謝ってほしいわけじゃないよ。……でも、理解はしてもらわないと困る」
理解した、十分すぎるほどに。そう訴えようとした時、中途半端に上がったままだった腰を掴まれる。
「最初は優しいふりをして、後で酷いことをする男だっているんだ。……こんな風、にっ」
「っ!? ぇ、あ……?」
ずぷりと再び貫かれ、不意打ちの刺激に目の前がちかちかする。腰だけを上げた不格好な姿勢のまま、助けを求めるように握りしめた手がシーツを乱す。
「えら……っひぅ!」
「あは、……本当だね、さっきよりずっと気持ちいい」
── 付けない方が気持ちいいらしいよ。僕は知らないけど。
── 優しいふりをして、後で酷いことをする男だっているんだ。……こんな風に。
──理解はしてもらわないと困る。
さっき彼自身が吐いた言葉が、再び頭を回る。それが意味するところに気づき、さあっと血の気が引いた。
「え、エランさんっ、ゴム……っあ、やぁっ」
「知らないよ、遊んでるならこれぐらい普通だろ」
「わ、わたし遊んでなんか、ぁっ……っく、やだ……っ」
生々しい昂りが胎内でふくらみ、遠慮も加減もなく内壁を突き荒らした。その奥の小さな部屋すら叩き壊しかねないほどの容赦ない蹂躙に、心と体が乖離していく。
「やだ……っやだ、やだ! お願いエランさんっ、抜いて、ぬい……っひぐ、ぁ……あかちゃ……っでき、」
嗚咽が込み上げてきて、上手く言葉にならない。抵抗しようとした身体は抱き込まれるようにして自由を奪われ、両手もまとめて固定される。突き上げられるたび、耳元で落とされる吐息が知らない人のように思えて、感じたことのない恐怖で呼吸すらままならない。
「あかちゃ……っう、ぉねがい、も、やめ」
「は、……ぁ……」
「いやぁ……っ」
全身から力が抜けていく。何をしても無駄だと悟った身体は強者に順応し、抵抗する気力すら連れていった。
涙があふれる。がくがくと小刻みに揺れる視界に映るのは、ぐしゃぐしゃになったシーツのみ。それに頬を擦りつけ、腰だけを高く上げ、嫌だと泣き叫びながら抱き潰される私は一体どれだけ愚かで惨めなのだろう。
「ぁ……っく、ぅ」
びくり、と埋められていたそれが、ようやく白い欲を吐く。腹の奥に注がれたその熱を感じていると、塗り込むように数度腰を打ち付けられた。
「……ひど、い、です」
ひどい、ひどい。あんまりだ。本当に、最後までしてしまった。心身ともに健康でも、妊娠の確率は決して高くはない。でも、一度きりでだって、当然孕むことはあるのだ。
もしこれで子どもが出来ていたら、どうするつもりなのだろう。私の未来や心身だけじゃない、新しく生まれるかもしれない命に関わることなのだ。それを、こんな。
「……ひどいのはどっち」
欲を吐いたからか、幾分か冷静さを取り戻した声がそう呟く。
「君がそれを言うの。……先に僕を裏切ったのは君だよ」
ゆっくり、背に密着していた熱が離れていく。拘束されていた手も解放されるが、無力感や絶望でもう動きたくない。
「裏切った、……って……」
裏切りも何も、私たちはそんな風に相手を縛れる関係でもないだろうに。しかしそれを聞いた瞬間、背後の空気がすっと冷えた。
「……浮気は、立派な裏切りだと思うけど」
その、言葉に。
今までギリギリで保っていた何かが、ぷつりと切れた。
「──っ、そんな恋人同士みたいなことっ、言わないでください!!」
「……え?」
上半身をひねり、彼の方を振り返る。
ようやくこの目に映したエランさんは、心底意味がわからないと言いたげな顔で固まっていた。