“血”の魔人パワー

“血”の魔人パワー


*

*

*

*

*

*

*


現世 深夜 どこかの深い森


 それは月もない新月の暗い夜だった。音もなく夜空に現れたのは巨大な手のひら───もしここにまともな光源があれば6本指のうち1本に何か黒い液体がごく僅かに付着していたことが見えたはずだ───その指先が真下に転がっているぽかんと口を開けたまま死んだ女の口に黒い液体を含ませ、手のひらは消え去った。

 黒い液体を飲まされた女の死体、いや違う、頭にツノの生えた魔人がむくりと起き上がり満面の笑みを浮かべた。

******

 超越者たる闇の悪魔には素朴な好奇心があった。一体、光の下では何が起こっているのだろうか。闇の叡智を湛えた天才的な頭脳をもってしてもそれは知ることが叶わなかった。いや、伝え聞くことはできても実際に見て体験することはできなかった。なぜなら根源的恐怖から生まれた闇の悪魔は強すぎて、自分の周りが勝手に闇で満ちてしまうから。闇の悪魔のいるところに光の居場所はないのだ。

 やがて素朴な好奇心は願いになった。どうにかして光の下へ行ってみたい。

 ある時超天才な頭脳は閃いた。闇が満ちない程度に弱くなればいいのだ。

 つまり血などの体の一部を用いて魔人を作り、その弱い魔人を光の中で行動させればよい。魔人も本体の超越者も結局は同一の闇の悪魔だから、頭脳は同期される可能性があるはずだ。試してみないことにはわからないが試す価値はあるだろう。


 実験は成功した。闇の悪魔の意識は現世の森の中にいながら、同時に地獄で最も深い闇の中にいる。

 魔人と超越者の四つの顔は全く同じタイミングで破顔した。


******


 光の中は想像よりずっといいものだった。何せニャーコがいた。

 しかしそのニャーコはコウモリに拐われてしまい、挙げ句の果てに下手を打ちマキマに捕まって飼われることになってしまった。魔人を弱く作りすぎたかも知れない。死体に与えた血が少なすぎたのだろうか?だが多すぎたら周りに闇が満ちてしまう。塩梅が難しい。

「魔人ちゃん、名前と魔人の種類は何かな。教えてくれる?」

「ワシの名はパワー!種類?は…(地獄にいるワシの血で作ったから)“血”の魔人じゃ!」


 ひれ伏せ、頭が高いと言おうとしたのに口から出たのは自己紹介だった。あれ。言いなりになっとる。ということは。

(こいつ支配の悪魔じゃ!魔人のワシを格下認定しおった〜〜!支配なんて雑魚なのに!超越者たるワシの足元にも及ばんのに!いつか地獄にきたら地獄のワシが血祭りにしてくれるわ)


******

支配の悪魔マキマさんの物事を掌握する能力はどこいったって?真相は闇の中







 


 




Report Page