蝶と花

蝶と花



ここはとある屋敷。そこには妖艶な一輪の花が咲いている。その花の姿は見るものを虜にし、その香りは近寄るものを惑わし、誰も近寄る事が出来なかった。

しかしそんな花の姿や香りに惑う事なく1羽の蝶がその花に止まる。そしてその蝶は力強く羽を動かし始めた。その力強さに止まっている花の花弁が1枚また1枚と剥ぎ取られる様に落ちていく。そんな状態にも関わらず、その激しさに呼応する様に茎をくねらせ花はただ揺れているのみであった。

なんて勿体無い事をと思う者もいるだろう。しかしその蝶は知っていた。この花弁は仮初のものであると。

勢いを止めずにその花弁を全て落とし切ったその時、先程のものとは比べ物にならないような情熱的な花が艶やかに咲き誇る。


それを見た蝶は今から行う事を隠すためなのか、それともその花を独り占めするためなのか自らの羽を大きく広げ覆い被さる。

その後自らの触覚を用いその脚で押し除けこじ開け、求める蜜を入念に探し当てる。

そして狙いを定めて口吻を突き入れ蜜を啜る。花の全ての蜜を啜るかの様に何度も口吻を突き入れその都度啜り上げる。風に吹かれたかの様に花は大きくその身を揺らす。

花が蝶に蜜を与える様に蝶も花に花粉を与える。故に蝶は啜りながら自らが持つ花粉を花に擦りつける。入念に、しっかりと、自らの花粉が無くなるまで延々と与え続けたのであった。

どれほどの時が経ったのだろう。次第に空には朝日が登り始める。それを見た蝶は名残惜しそうに飛び去っていく。気づけば花の方も蝶によって咲き誇される前の花弁を咲かせ、何事もない様にぼんやりと風に吹かれていた。

———自らの中の"何か"が成長するのを感じながら


そしてまた、夜になり蝶は花に降り立つ。

花の蜜を啜り花粉を花に与え、"何か"を望む様に———


ここはとある屋敷。そこには様々な花が咲いており、それぞれ一つの花に決まって一羽だけ、その花だけに止まる蝶が降り立つのだという。

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