「虹は何色」

「虹は何色」



・おまけです。カイザーは出ません

・カイザーとネスは私の中でセットなので

・捏造と妄想。何でも許せる人向け

 


 

「世一は絵が得意なんですか?」

「うーん。まあ得意っちゃ得意。絵を描くの好きだし」

会話の中で出た時々絵を描いているという潔世一の言葉に、ネスが問うた。サッカー馬鹿な潔世一が数学とかが得意という認識はないので、納得と言えば納得だったし、サッカー以外にも得意だと認識しているものがあることに驚きと言えば驚きだ。

「絵を描くのが好きなんですね」

「うん。自分を表現できるって言うの?高校の先生も褒めてくれたし」

「自分を表現ですか」

「そうそう。自分の感性だと適当な言葉が当てはまらないこととかあってさ。絵を描くことでしっくりする輪郭ができるときがあるんだよね」

「お前のそのレスバ力で?」

潔世一といえば、その頭の回転の速さや相手が理解できる表現を使っていることも武器だとネスは認識している。試合中のレスバなどその最たるものだろう。

「レスバ力いうなよ。語彙ってあれじゃん。多人数の感受性が重なった部分のみを出力した奴じゃん。相互理解には便利だけど、不便でもあるんだよな。その単語だと自分の感性で重視している部分が表現しきれない時があるし」

「不便って」

流石エゴイストだとネスは呆れる。便利と宣った口で不便とも評価するとは。だが、潔世一にもそういった人との感性の違いを認識する機会があったのは驚きでもあった。

「何かあったんですか?」

「中学の時の美術の先生が何というか、虹と言えば7色って言う先生だったんだよ」

「ああ、日本では7色なんですね。ドイツでは5色ですよ」

「でも、俺にはいろんな数の色に見えたわけ」

「そうなんですね」

「その時は素直にそうしたんだけど、高校の美術の先生が中学の美術の先生の知り合いでさ。中学の美術の先生、中学の時に引っ越してきて、虹を4色で書いたらクラスメイトから笑われてハブられたらしいんだ。高校の先生はだからと言ってお前の感性を制限することは許されないし許さなくてもいいって言ってんたんだけどな」

「そうですか」

他人から否定されることは怖いことだ。特に子供は異端を見つけると排除しようとする傾向にある。

「何というか、一般論とか科学とか使って人を攻撃する奴って可哀そうだよな」

「はい?」

どうしてそこで可哀そうという単語が出るのかがネスは理解できなかった。何が可哀そう判定されるのか。

「危険なことをする相手を制止や説得するならまだしも、相手を攻撃することに使うって、自分の感性や意見がないって言ってるようなもんじゃん。一般論や科学を使用しているように見えるだけで、一般論や科学に使用されているだけ」

「科学に、使用」

「まあ、俺の考えだけどな。意思疎通には便利だし、科学の発展で助かった命や便利になった事象も多い。でも、科学でどれだけ解明されようがコントロールできないこともたくさんあるし、未知のことに挑戦しようとしたり解明しようとする人は沢山いる。昔の常識を現代の理論で評価することは良いが、それは昔の常識に沿った行動を蔑むこととイコールにはならない。俺からしたら科学と魔法に境界なんてないし」

心臓を掴まれたと思った。一瞬、息が止まった。潔世一は自分の過去を知らないはずだと早鐘を撃つ鼓動に言い聞かせる。それに、この再現性を重視する男が、魔法という科学から最も遠い魔法に境界がないといったのか。

「何故?普通は対極にあるものでしょう?」

「俺にとってはどっちも今の自分では理解できない現象を受け入れて生きるための便利なツールという意味では一緒だからなあ。科学でも魔法でも、人の肉体は救えても、人の心は変えられないし」

(それ、お前が言います?)

ネスはツッコミを入れたかったが、ぐっとこらえた。ネスの脳裏に潔世一に執着を向ける者達の姿が思い浮かんでは代わる代わる走り去っていく。

「自分は自分で変わるしかない」

「お前は強いから簡単に言えるんですよ」

「そうか?誰かに依存しすぎるのは良くないかもしれないけど、誰かに期待して動くことだって変化だろ?いつだって、人類は新たなモノを求めて生きてきて、群れを維持するために保守的になって、そしてそこで十分に休んで力を付けて、また新しいものを求めて行く。動くための理由付けなんて利己的で良いんだよ」

「このエゴイストめ。全ては自分のために、ですか」

ネスは呆れたように息を吐く。潔世一は賢い人間だ。独りで生きていけないことも、自分が知らない世界が多くあることも、淡々と見つめ、拒絶しない。潔世一は強い人間だ。知らないことについて見栄を張らない。そして、潔世一は冷徹な人間だ。他人が当たり前に持つ自分を良く見せようとする行動があるという事は承知の上で、それについて何も言わず、赦しを与え、許容し、切り捨てる。

ネスのため息に、不服そうに潔世一は口を開いた。

 

「何だよネス。お前だってフィールドで周囲に魔法をかけてるだろ」

 

はっと、今度こそネスの息が止まった。頭が真っ白になる。今、潔世一は何といったのかが理解できなかった。

 

「お前のパスでフィールドが変わるんだぜ?お前だけじゃなくて、周囲だってお前が動かすことやお前に動かされることを素直に受け入れている。あのカイザーもだぜ?。お前のサッカーの腕と積み上げた信頼が、周囲に納得させてるんだろ」

 

ネスの魔法が、プライド高いエゴイストたちを動かしていると、潔世一はいう。ネスはそれがミッドフィルダーの役割だと言おうとして、止めた。

(僕の魔法)

ずっと自分は誰かの魔法を見つめているだけだと思っていた。誰かの魔法を尊んで、憧憬して、見つめるだけだと思っていた。だが、どうやら目の前の一級エゴイストによると自分は魔法使いらしい。はは、と声が漏れる。笑い出したいくらい、高揚している。

「世一、お前にも魔法をかけてあげましょうか?」

「はは。俺に魔法を掛けられるんじゃなくてか?」

「ふふ。僕だって強いんですよ?」

「知ってるよ。やってみろ。楽しみにしてる」

エゴイストはサッカーの事では譲らない。簡単に魔法にかかってくれるような相手ではないことをネスも理解している。生半可な認識や発想でいけば、逆に喰い切られて使われるのがオチだ。

(流石、悪魔と言われるだけはある)

ネスはネットで見かけた評価を思い出す。キリスト教圏にとってとんでもない評価だが、不思議と違和感は覚えなかった。そして今は、そう表現した人間に拍手したくなった。悪魔は人を誘惑するというが、成程、惹かれる理由も分かるというもの。

(悪魔がいるんですから、魔法使いぐらいいても可笑しくない)

「ねえ、世一。今度、虹を描いてくださいよ。僕も描きますから」

「虹?別にいいぜ?」

何色の虹が彼の手によってこの世界に姿を写し取られるのか。ネスは俄然、興味がわいた。そして、自分も太陽の光の散乱だとか反射だとか考えずに、ただただ自分の感性を素直に表現しようと決めた。虹は、人によって色が違うのだから、何色でもいいのだ。

 



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