虫蟲毟毮
最初は、虫だった。
みんなが気持ち悪いって、誰か誰かと叫んで、指をさした。アリがいたんだ。俺はそれを捕まえて、逃すフリをして持ち帰った。
ビニールに入れて持って帰った。保健室からパクった氷嚢用の。机の上に出して、小指で抑えつけた。
裁縫道具の中にあった、ピンセットみてえな先の細い道具。それ使って、まず足捥いだ。
鈍い反応だった。苦しんでるように見えねえんだよな。
触角も捥いだ。
少しだけ反応が変わった。人で言うなら、目ェ見えなくなったみたいな。
面白い。
もう、コイツは生きていけないだろうって。だったらさ、殺してやるのも優しさなんじゃねえかなって。
小指を離した。不思議だ。袋に入れてた時は、壁になってるところに足掛けて逆さまになりながら、モゾモゾ這ってたアリ。
今は前も後ろもわからないって感じで、残った3本の足でクルクル回るように這ってた。
ピンセットを腹と胸の間に当てて、思い切り締めた。
腹が、捥げる。
でも生きてた。不思議がいっぱいだ。
次はもっと大きい虫でやろう。蜘蛛とか面白れーかも。
アリは、左手で拳作って潰した。
今思うと汚ねぇな。
「で、色々楽しんでたってワケ。宿儺は?」
「気安く呼ぶなと何度言ったらわかるのだ小僧。貴様と友達になった覚えはない。」
そんな事を言いながらも、両面宿儺の口元は緩んでいた。
悠久の時を経て、受肉した。その肉体の持ち主の身体を奪うことは叶わなかったが、その代わりに異常性をひた隠し、現代社会に溶け込もうと…いや、紛れ込もうとする愉快な狂人と知り合う事が出来た。
「今まで殺した動物の中で、一番面白かったものはなんだ?」
「ん〜…別に面白くねえんだよな、もう。何殺しても似たような反応だし。頭ねえのに生きてたって鶏の話があってさ、それを俺もやってみたくて首飛ばしたんだけど、ちょっと暴れてたけどすぐ死んだんだよな、まあ暴れてたところは面白かったかな。」
宿儺の、下の目二つが目の前の少年に向かって見開く。
それと同時に、口角が不気味なほど吊り上がる。
「小僧!人間を殺せ!女や子供は良いぞ!甲高い耳障りな悲鳴を上げながら逃げ惑うのだ!畜生を狩るだけでは得られぬ圧倒的な快だ!」
「後処理がなぁ…」
「俺が食ってやっても良いのだぞ?」
宿儺が顎に手を当て、片目を瞑りながらそう言い放つ。
「…お前…自分が食いたいだけだろ。」
「フッ」
白い目が宿儺に向けられる。
なんとも言い難い沈黙が、2人の間に流れた。
「……小僧、代わりと言ってはなんだが、肉体を俺に貸せ。」
「ヤダ。」
如何ともし難い沈黙が、2人の間に流れた。