虎杖♀の話

虎杖♀の話


!何でも許せる人向け!


140の「生得領域の宿儺を姉のように慕う虎杖♀」概念が素敵だったためお借りしてます

伏黒受肉をきっかけに宿儺が邪悪な呪いかつ男であることを思い知らされ、今まで流してきた「婚儀」「妻」とかの言葉に今さら震える虎杖♀の話


■注意

・虎杖のみ女体化時空

・CP要素あり(宿儺が虎杖♀を娶る気でいる)

・虎杖♀のメンタルがかなりガタついてる

・独自設定↓

 虎杖♀の一人称は「あたし」

 生得領域での宿儺は「虎杖♀の姿にcv諏訪部」






 姉ちゃんみたいだって、ずっと思ってた。


 骨だらけの空間で会う宿儺は、あたしよりずっと大人に見えた。

 顔も体も同じはずなのに、宿儺はしなやかで落ち着いてて、そんでめちゃくちゃ強かった。


 祓い方は容赦ないけど、ピンチになったらいつも助けてくれた。ボロクソ言いながら体捌きを教えてくれた。無茶して怒られて、頭悪くて呆れられて、何気ない話をたくさんした。

 任務の土産に古風な化粧品買って「宿儺たちもこれ使ってた?」「俺の時代よりは後だな」なんてだらだら喋ったりした。肉切ってる手に宿儺の口が出てきて、一緒に晩メシ食べたりした。でかい骨に座った宿儺の腰にまとわりついて、簡単に髪結んでもらったりもした。

 うっかり「姉ちゃんと婆ちゃんが同時にできたみてえ」つって小突かれながら、あたしが目指す強さはこれなんかなって思ってた。宿儺とか真希先輩とかの、フィジカル強くて使えるものは何でも使う戦い方。

 宿儺と真希先輩に同時に教われたら最強かも?と思ったけど、宿儺は誰に話しかけられても全然口開かんから諦めた。


 婚儀とか、妻、とか。

 そういう言葉は全然本気にしてなかった。


 ほら、宿儺の男要素って声だけで、顔も体もあたしだからさ。イマイチ繋がりづらかったんよね、そういう話。

 それに宿儺はずっとあたしの中にいて、指が揃ったらあたしごと死ぬ。あたしも宿儺も、誰かと結ばれるなんてありえない。だから、気に入ってくれてんだなぁくらいに流してた。


 一緒に死ぬのが決まってんなら、嫌いな奴より好きな奴のがずっといい。あたしは、自分のことを幸運だと思ってた。

 いつか来る命の期限まで、宿儺といろんなこと話して、戦って、そうやって生きてけたらいいなって思ってた。




 呪いはどこまでいっても呪い。

 そう気付いた時には、もう何もかも遅かった。




 仲間の声はとっくに聞こえなくなった。

 あたしは今、どこかに飛んでく鵺の背中にいる。胡座をかいた宿儺の上で抱えられて、自分の膝を見つめた姿勢から動けない。

 顔をあげて、伏黒の顔で笑う宿儺を見たくなかった。


 あたしは何を見てきたんだろう。

 重くて苦しい、真っ黒な呪いの気配。

 それから、おとこのひとだ、ということ。


 肩を引き寄せる手が大きくて、ずしりと重たい。頬を預けさせられた胸板はごつごつと硬くて広い。伏黒のワックスと知らない何かが混ざった、ひどく不安になる香りがする。

 膝上に乗せられるのだって、抱き寄せられるのだって初めてじゃない。姉ちゃんみたいに慕ってたころは、あたしの方から飛びつくことも多かった。

 そのときは何でもなかったのに、今は、こんなにも。


「おい」

「っ!」

「怯えが過ぎるぞ。婚儀どころか、俺はまだお前のもとに通ってすらいない。それで不躾に触れるほど獣ではないわ」


 する、と頬を撫でられる。体がガチガチに固まって、ただ縮こまって震えることしかできなかった。

 怖い。気持ち悪い。怖い。

 そんなあたしをじいっと見つめる気配がして、ああ! とわざとらしい声が響いた。ずっと聞いてきた、最初からわかっていたはずの、おとこのひとの声。


「何だ、ようやく理解したか? お前を愛で、求める俺は『姉』などではない。ひとりの『男』だということをなァ」

「……!!」


 は、と呼吸が浅くなる。まだ何も考えられていないのに、じわりと視界に涙が滲んだ。ゆらゆら揺れる世界の中で、あのときと同じだと思った。

 伏黒の前で一度死ぬ前。あたしは口では正しい死なんて言ってたけど、死ぬのがどんなことかわかっちゃいなかった。わからないくせに知った気になって、本当に死んだ。

 今だってそう。女のあたしに入っただけの宿儺を「姉ちゃん」なんて考えて、「愛い」とか「娶る」とかの意味をわかっちゃいなかった。わからないくせに知った気になって、伏黒の体を取られて、どこかに連れてかれて。

 あのとき、死ぬことを軽く考えたツケで死んだなら。今、婚儀とか何とかを軽く考えたツケが回ってきてるなら。


 あたし、これから、ほんとうに?


 いつか聞いた「とびきりの白を着せてやる」なんて言葉を思い出して、ぐわんぐわんと頭が痛む。

 少し離れたとこから品の良い笑い声が届いた。いつの間にか宿儺のそばにいた、白い髪の誰か。


「どうした裏梅」

「いえ。僭越ながら、宿儺様の完全な受肉を待ち遠しく思っていたのですが。いくら女性の姿に親しんでいたとはいえ、餓鬼の肉体に移っただけでこれとは……。すぐに受肉しては、奥方は倒れてしまわれたかもしれませんね」

「フッ、ははは! ああ、受肉を待つ理由は他にあるが……確かに、鈍い小娘にはこれくらい段階を踏んでもよかろうて」

「ふふ、微笑ましゅうございます」


 ゲラゲラゲラゲラ。

 ウフフフフフフフ。


 笑い声が響く。

 怖い。気持ち悪い。怖い。


 おぞましい何かが体を撫でてる気がして、耳をふさぐことすらできそうにない。体が凍りついたみたいに固まって、宿儺に飛びかかることも、せめて手を振りほどくこともできない。


 ばさばさ飛んでく鵺の上。

 あたしはどこからか出された羽織にくるまれて、ただ黙って震えることしかできない馬鹿だった。

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