藤丸立香の嫉妬
初めてイリヤと出会った時、オレは心底感動した。本物の魔法少女と出会えるなんて思ってもみなかったからだ。
そんなイリヤ達と共に戦って、オレはとても助けられた。戦力的にも、心情的にもだ。イリヤ達がいなければオレはどうなっていたか分からない程に。
魔法少女であるイリヤやクロが隣にいると、自分が日曜朝の魔法少女アニメに出演しているような浮かれた気分になる。その思いは美遊が来てくれてからより強くなった。
辛い戦いに巻き込んでしまった負い目もあるが、だからこそ大切にしようと思った。彼女達は、オレなんかのもとに舞い降りてくれた天使か女神のようだった。
───そして、オレはそんなイリヤ達に恋をした。
想いを自覚したばかりの頃は自制心が働いていた。イリヤ達に隠れてオナニーをして、欲望を発散するくらいの理性がちゃんと残っていたのだ。
だが、それも数週間で終わった。深まった絆はオレとイリヤ達に肉体関係を結ぶ道を選ばせた。相手は小学五年生だとか、11歳だとか、そんな理屈は愛の前には無力だった。
イリヤ達はこの腕の中に飛び込んで来てくれた。
こちらの背に腕を回してディープキスを受け入れてくれた。
こちらの腰に脚を絡めて「あなたとの子供がほしい」と全身で叫んでくれた。
それでどうして倫理観を重視しなければならないのか。
かつてティッシュに吐き出していた欲望はイリヤ達の口内・膣内・直腸内をべっとりと穢すようになり、同時にイリヤ達の口から元の世界の“お兄ちゃん”の話題が出ることはほぼなくなった。それを認識した時、イリヤ達が“お兄ちゃん”よりも自分を選んでくれたようで嬉しくなったのを覚えている。
…だがそれでも、ごく稀に思い出話として“お兄ちゃん”の話が出ることはあった。
その度、頭をガツンと殴られたような衝撃が走った。
結局オレは“他の誰か”の身代わりなのか? 通じ合ったと思っていたのはオレの自惚れだったのか?
───あの温もりが、美貌が、可愛らしい唇や乳首が、自分の形を覚え込んだはずの膣内や直腸が。…そして何より、あの優しく強い心が。他の男の……“お兄ちゃん”のものになる?
(───嫌だ)
そんなことは絶対に許せなかった。
イリヤ達を妹としてしか見なかった“お兄ちゃん”よりもオレを選んでほしいと、これ以上ない程に強く思った。
だって、“お兄ちゃん”にはイリヤ達と別にお似合いの相手がいるって話じゃないか。イリヤとクロの“お兄ちゃん”はメイド二人、美遊の“お兄ちゃん”は友人の姉。勝ち目のない虚しい恋を妹に強いるなんて、酷いお兄ちゃんじゃないか。
セックス中のイリヤ達が見せる蕩けた顔は、オレしか知らないオレだけのもの。それを“お兄ちゃん”に奪われてなるものか。
そんな嫉妬心を自覚するようになってから、夜の性活に微妙な変化が加わった。自分でも気づかないくらい微妙な変化だが、どうも押しが強くなったらしい。
イリヤ達をもっと犯したい。“お兄ちゃん”なんてどうでも良くなるくらい自分の色で染め上げたい。そんな邪悪な感情が鎌首をもたげている以上、それは真実なのだろう。
だから、オレは今日もイリヤ達と肌を重ねる。“お兄ちゃん”の痕跡を、イリヤ達の裡から消すために。
───
『…とまあ、サーヴァントとしてマスターさんの記憶を垣間見た訳ですが、どう思います?』
「───ばか、あほ。わたし達サーヴァントだから、元の世界のわたし達とはもう別人みたいなものなのに…」
「うん。わたしもイリヤもクロも、ちゃんと藤丸立香のことが好きなのに伝わってない」
「ええ。ありもしない可能性になんか怯えちゃって……ほんと馬鹿よ、リツカお兄ちゃんったら」
『けれど、私達はそんな立香様を好きになったのでしょう?』
『サファイアちゃんと言う通りですよ。…下らない不安なんて、幸せと快楽で綺麗さっぱり消して差し上げましょうね…』