蒼玉日和/休息≠?

蒼玉日和/休息≠?


『ん……これなら食卓に並べても良さそうですね』


小皿を口につけながら独り言を呟く。調理というのは私のマスターである美遊様が得意とする分野でありよく隣で見せてもらったものだが、実際に自分でやるとなるとかなり手間のかかるものであると気づいた。けれどそんな苦労を味わってまで挑戦したのには理由がある。


『……ロックなら解除してるのでどうぞ』

「……エスパー?」

『いえ、ただの熱感知機能ですが』

「それはそれですごいよ…」


そう、私ことサファイアが手作りの料理を振る舞いたかった相手。それは私だけではなく美遊様たちにとっても大切な人で…


『やはり、約束よりも早く来ましたね』

「待たせたら悪いと思って…迷惑だった?」

『いえ、そんなことは全然ありません。むしろそこら辺も織り込み済みです』

「流石ルビーができる妹って言うだけあるな…」

『お褒めの言葉、ありがたく頂戴します…と、話が逸れました。とりあえずマスター様はこの席にどうぞ』


椅子を引きながら座るように促す。平静を装ってはいるが、実際のところ先ほどから色々と考えすぎて処理機能がパンクしそうになっている。私という超高性能な魔術礼装がここまで揺らぐことがあるなんて、過去の私に言ったら絶対に信じてもらえないだろう…


「それにしても驚いたよ。まさかサファイアから食事の招待を受けるなんて」

『私も同感です。ですが、貴方様の1番になりたいという目下の目標を達成するにはこれが必要不可欠なのです』


素直に本心を打ち明けてちらりと向こうへ目を向けると、少し照れたような笑みを浮かべるマスターの姿があった……クロエ様がよく彼のことを可愛らしいと言っている意味が分かった気がする。


『というわけで早速…』

「…本当に初心者?見た目の時点ですっごい美味しそうなんだけど」

『調理、というものは手順に則って進めれば誰でも美味しく作れるものなので……今回は私なりのアレンジも加えさせていただきましたが』


直球の褒め言葉に少しドキドキしつつも、平静を装う。とはいえ、このまま会話を続けているとボロが出そうなので速やかに当初の目的へと歩を進める。


『マスター様、そろそろ食してもらっても良いでしょうか』

「もちろん!ありがたくいただくよ」

『それは何よりです……では……あ、あーん…』

「サファイア…?」

『…言い忘れていましたが、一口目は私が食べさせてあげます』

「えっと、それは良いんだけど…本当に大丈夫?顔がすごくあk…」

『そこはスルーしてもらえるとすごくありがたいのですが』

「そういうことなら」

『ありがとうございます。そういうわけなので仕切り直して……あーん…』

「ん」


これをするとさらに仲が深まると聞いてやってみたはいいものの、本当に効果があったのかはよく分からない。ひとつ言えるのは私が思っていた以上に照れやすい気質だった…ということだ。


「…サファイア」

『はい』

「これ超美味しい!」

『!……良かった、です』


私にしては珍しく思わず言葉に詰まってしまう。完璧にできた、とは自負していたが実際のところは不安でたまらなかったらしい。その言葉を聞いたせいか私の口からも自然に笑みが溢れていた。


「ありがとう、サファイア」

『………はい』


そんな言葉と共に優しく撫でられる。幸福な時間、というものはまさに今この時のことを指すのだろう…


「ほら、サファイアも隣に座って。ご飯なら一緒の方がいいよ」

『喜んでご相伴させていただきます』

「いやまぁ作ってくれたのも招待してくれたのもサファイアなんだけどね」

『細かいことは気にしない…ですよ、主様』


あぁ、今だけ時の進みが遅くなれば良いのに…そんな夢見る少女のようなことを考える私なのであった。



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「というわけでわたしはマスターを甘やかすわ」

「え、急に何?」


部屋に入ってから間髪入れずにその文言を叩きつけたわたし。まぁ、彼の方は言ってる意味がわからなくて困惑してるみたいだけど。


「今更気づいちゃったのよ。わたし達、普段からあなたに甘えてばかりだって」

「そうかなぁ…むしろ俺は助けてもらってばかりだとおm」

「ストップ。そう言うと思った」


あまりにも予想通りすぎる返事だったため食い気味に遮ってしまった。


「とりあえずまずはこっちに来なさい」

「はいはい」


意外と素直に言うことを聞いてくれて拍子抜けしたが、それならそれで話は早い。ならば存分にマスターを癒すだけだ。


「それじゃあ手始めにー…良い子良い子…」

「…ものすごく恥ずかしいんだけど」

「あら、わたし達はこんな風にいつも撫でられてるのよ?」

「こんな感じで正面から抱きしめてするのは滅多にないよね!?」

「もう、そんなに照れなくても良いのに」


心なしかいつもよりちょっぴり体温が高めな気がするマスター。そんなわかりやすい彼にときめく心を抑えつつ、いつもしてもらってるように優しく撫でる。


「ん……食べちゃいたいぐらい可愛いわね♡」

「もう好きにしてー…」

「もちろん、最初からそのつもりよ。でもあなたはあなたでわたしから離れるそぶりが見えないんだけど?」

「………一応、こういうスキンシップ的な癒しは求めてたので」

「ふーん…」


ならもはや遠慮する必要はあるまい。こうなったら何が何でもマスターにはリフレッシュしてもらおう。そう堅く決意していると、急にこちらへと重心が移ってきた。


「っと……あらら、寝ちゃったみたいね」

「………」

「やっぱり色々と頑張りすぎなのよ。全く…」


とはいえ、こうして睡眠をとれば少しは疲労も回復するだろう。それに愛し合う人と抱き合って寝るといつもよりリラックスできるって聞くし。


「…ゆっくり休んでね、お兄ちゃん♪」


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