草原の夢
爽やかな風にのって、草の匂いが鼻をつく。
うっすらと目を開けると、担当ウマ娘のカツラギエースの姿があった。
エースの後ろには彼女の瞳のように澄んだ青空、そして後頭部に感じる柔らかくも少し弾力のある感触で、俺は目の前にいる彼女に膝枕をされているのだと気付くのに時間は掛からなかった。
周囲に目をやると、青々と茂った何処までも続く草原に俺とエースはいて、他に誰もいない。
エースに視線を戻すと、彼女はよく見る制服姿でも、私服のスカジャン姿でもなく、真っ白なワンピースを身に纏っていて、いつも後ろで一つに纏められていた黒曜石のように艶やかな黒髪は下ろされていて風に靡いている。
彼女らしからぬ姿に俺は、違和感よりも先に美しいという感想が出て、ただただ見惚れてしまった。
惚けていると、慈愛に満ちた微笑みでこちらを見下ろすエースは、俺の顔にかかる髪を指先で払い、頬を撫でる。
思わず俺は手を伸ばし、エースの顔に触れた。
彼女は気持ちよさそうに目を細め、俺の手をとって顔に押し付け、頬擦りする。
まるで恋人同士のやりとりのようだと考えていると、だんだんと彼女の顔が近付いてきた。
その先何が起こるのか容易に予想ができ、立場上やめさせなければならないのだが、何を思ってかエースの全てを受け入れようと、俺は目を閉じた。
……しかし、俺に与えられたのは唇への柔らかな感触ではなく、額への強い衝撃だった。
「………」
額を摩りながら辺りを見回す。
そこはトレーナー室で、俺は机の上でうたた寝をしていたようだ。
腕時計で時刻を確認すると、ちょうど昼休みになる頃だった。
今日はエースが弁当を作ってきてくれるから、いつもの学園敷地内にあるエースの畑で一緒に食べようと約束しているのだ。
俺はトレーナー室を出て、近くのトイレの水場で顔を洗い、畑へ向かうことにした。
「今朝、草原で走る夢を見たのよ、とても気持ちが良くて楽しくて、ずっと走っていたの、そしたら寝坊してしまって……珍しくスペちゃんに起こされてしまったわ」
「夢の中でも走るとか…スズカさんは相変わらずですねぇ…」
途中、2人の栗毛のウマ娘とすれ違った。
俺は先程の夢の内容を思い出し、そして思いっきり自分の頬をつねり上げた。
(教え子相手になんて夢見てんだ俺!)
けれど決して嫌な気持ちにはなっていない自分自身を少しだけ軽蔑し、全て忘れようとエースが作ってきてくれた弁当のおかずを考えながら足を進めた。
「ですが良い夢を見たのですね!草原で走る夢は運気が上昇していることを表しているのだとか!」
「そうなの?」
「はい!草原の夢はシチュエーションによって意味が異なり、寝転んでいたら夢を見ている人が心身ともに疲れ切っている事を暗示していたり、誰かと一緒にいる夢ならば、その相手との関係がより親密になることのサインと言われていて、相手が異性だった場合は恋愛運が上昇している事を意味しているのだとか!!」
「うーん、走るのに夢中で誰かと一緒だったかは覚えていないわね」
「あ、はい」
終わり