茹であがらない相棒と船長
※解釈違いにより閲覧注意
※第3巻レス185よりアイデアを参照してます
最初にその面を拝み、抱いた印象は、「気取ったガキ」だった。
クソジジイ曰く、砲弾をウチのレストランに撃ち込んできた賠償として雇った見習いだった。少し接客をさせてみるとレディ達には模範的な紳士として振る舞ってはいるが、皿は片っ端から割るしサーブする料理をつまみ食いするしやりたい放題で、結局モップを押し付けて厨房から追い出した。ガキのようで、時折まるでマフィア映画のボスに憧れたような態度を見せるこのど阿呆を、心底嫌悪した。
「死ぬことで恩を返したつもりか?こりゃあのコック長も浮かばれねぇな」
この一言を忘れたことはない。おれは皆に助けられてここまで生きて来ることができた。あの時、目の前でおれを一瞥し、そう吐き捨てたこの男がそんな事情を知らねぇのはわかる。それでも嫌味な野郎だと思った。
「おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!!」
麗しのナミさんを助けに向かった矢先、アイツは咆哮した。大胆なヤツだった。冷静ぶってるだけで、本当は激しく大きい感情も持っていたことを知った。背筋伸ばして可愛いヤツ、なんて思った。自分とは似ているようで全く違う、自分よりも一歩先にいることへの嫉妬心も当然あったが。
「言ったよな?死ぬことに意味なんてねェって」
チョッパーの故郷に立ち寄った頃、また同じことを言われた。今度は眉間に皺が寄っている。マリモでもあるまいし。そもそも、あの時優先すべきは病人のナミさんとそれを守るお前だった。お前は憎らしいが、レディへの接し方は一流だ。そして、大切な人を守る力がある。全員雪崩で死ぬよりかはましだろうが、と反論したら1発殴られた。いつも冷静に考える癖にこういう時だけあいつの顔に露わになる、あの表情が忘れられなかった。
「コイツか?悪いヤツじゃねェさ、それに秘書が一人いるだけで威厳も出るだろ」
この頃になるとコイツは年相応であることもわかってきた。言うことやることはまるで極道だがその願望や目的に子供らしさが出る。あの発言だって言い換えれば「もっと船長っぽく見られたい」てことだ。つくづく素直じゃないヤツ・・・
「神だと?堅気をいたずらに傷つけるようなヤツが名乗るんじゃねぇよ」
おとぎ話にありそうな天空の世界で見せた怒り。
「・・・ただの一夜限りの関係さ。それ以上も以下もない・・・ -強いヤツ、あるか?」
弾圧と支配の牢獄の中で、運命に遊ばれた女の亡骸を弔ってきたその日の夜に見せた一抹の悲哀。
「おれからすればお前の方が余っ程ガキっぽく見えるが・・・さしずめハーフボイルドってか?なァ、ゾロ」
揶揄う時に見せるその笑み。
全部見てきた。いけ好かないガキは、いつの間にかおれにとっての超えるべき壁であり、隣に立つ相棒であり、そして何よりも守るべき「船長」になっていた。
砂漠が延々と続く中で大いなる陰謀の謎を探り、何故かアフロへの情熱を共に語り、いつの間にか大きな傷跡をつけては「男らしさ、増しただろ」とはにかむコイツと冗談を言い合った、そんな日々。そんな日々を、こいつらを、守りたかった。
「・・・そうか。カゼ、ひくなよ」
だから、あの人と同じことを言われ、ようやく気がついた。おれが守る、だけじゃなかった。アイツもまた、おれを守りたかったんだ。かけがえのない仲間と、そうおれを見ていた。その事実にようやく気づいたおれは、揺れる馬車と嗤い続ける兄弟達の中で、ただそのこと後悔するしかなかった。
「・・・おれは、おれはお前の作ったメシしか食わない」
「本心を、言えよ!!!」
「大丈夫だ、おれ達がいる・・・
式をブッ壊そう。結婚式なら、もっとキレイな方が良いだろ?」
今日もまた、船は進む。鬱陶しく暑苦しい野郎共と、まるで一夏の向日葵の様に美しさが花びらいたレディ達と、はじめての、おれだけのフィアンセと、そして大恩ある船長を乗せて。
「おい、いつまで待たせるんだ?もうかれこれ5分は経ってるぞ・・・」
「るせェな口挟むんじゃねぇ!こういうのは最初が肝心なんだよ!!!!」
「既に失敗してるようなもんだろ。ファーストキスくらいで・・・一皮剥けたと期待してたが」
「そもそも何勝手に人の部屋覗いてんだア”ァ?!!」
「野次馬」
「ちょっとサンジさん、私の方を向いて」
「アッ、ごめんね・・・・・・あのゴム野郎は後でオロしておくから気にしないで・・・」
「そうじゃないわ・・・もう!」(キス)
(?!?!?!?!?!)
「お、やっぱ半熟よりかは大胆だったようだな」(無粋にならないよう既にその場からは離れている)