苦痛に喘ぐ
「ぅ、ァ……ひっ───」
あまりにも堪え難い苦痛。四肢を削がれるよりも、頭蓋を砕かれるよりも、臓腑を別けられるよりも、おそらく他の何よりも重たい苦痛。魂魄、そして脳内に直接流し込まれるそれは正しく生き地獄の体現。身体の神経中が痛みを訴える、などという次元ではない。頭痛である、というわけでもない。身体のどこが痛いのかわからないのに、痛い。
「む、り゛……こんな゛の、無理ぃ゛っ!!」
このままだときっと死ぬ。それも、とっても惨い死に方を。根拠はないし、ユーハバッハにも生かして帰すと宣言されているのに、頭の中にはその言葉しか湧いてこない。
そして、だからこそ、その苦痛から逃れるためにも、このどうしょうもない状況から抜け出したいがために、身体の感覚はまともにないし視認もろくに出来ないが思いっきり舌を噛みちぎろうとして………
「む、ごぉ゛っ゛、う゛っ……!!」
「何をしようとしている。お前の命は陛下の財産だ。勝手に失うことは許されない」
強制的に喉奥まで霊子菅が突っ込まれる。自害出来ないように、最終から手段を断たれている。そしてそのまま、苦痛がさらに流し込まれる。先程まででも限界だと思っていたものが、さらに一本。喉を通じて、脳内に、魂魄に。
「ん゛ぅ゛〜〜っ゛ッ゛!!!!ぅ゛ー!!!」
「おや、失禁か?みっともないな。そのように手足を振り回して……まるで幼児のようだな」
あまりの激痛に身体が反応してしまったようだ。ジョロジョロと音を立てて自分の股座、陰茎から排泄物が出て行く感覚がある。床を伝って、床に面した尻が濡れて行く感覚がする。既に自立した男として今まで生きてきたショコラテにとって、これは堪える仕打ちだったらしい。先程までの苦痛からの解放を乞い願う衝動に、この惨めで羞恥的な晒し刑を逃れたいと思う気持ちが加えられるのもおかしくないだろう。
「さあ、喉のそれを外してやったぞ。流石に三本目はこれ以上は耐えられないだろう。……自殺を試みた時点でまた流し込むのでそのつもりで」
「ごほっ!げぅ゛っ!………はぁっ、うぅっ……おね、お願いです、もうやめてくださ゛いっ」
人間とは、どれほど強固な誓いを立てていたとしても、目の前にある苦難が途轍もないものであるならば一瞬、それが逸れてしまうこともあるのだ。今回で言えば、ショコラテのユーハバッハへの叛意自体は微塵も揺らいではいない。
しかし、度重なる苦痛により外面は完全にユーハバッハへと許しを乞う惨めな有り様を晒してしまうようになった、ならざるを得なかったというべきか。誇り高く苦痛に立ち向かうより、無様に懇願する方を選んでしまった。
「まだ始まったばかりだ。それにこれは陛下の御意志。止めるわけになどいくまいよ」
「も、無理ですぅっ!死ぬ、俺死んじゃいます゛っ!!!だから、だからっ」
「死にはしない。仮に死んだとしても陛下が蘇生してくださる。男のくせにヘタレるな、ショコラテ」
「やだ、も゛う、やめて゛……お願い、ゆるして……ごめんなさい゛、ごめんなさい゛ッ゛!!本当に、もう、ィ゛、あぁ゛あアァ゛ッっ!!!!」
泣き叫びながら許して、ごめんなさい、もう嫌だ、といつもの人を食ったような態度からは真逆の弱った様子で強く縋ったところで下される罰が変わるわけはなく。耳と繋がれた霊子菅から苦痛がまた流し込まれることで、ショコラテの絶叫はさらに激しくなるのであった。