芸術家と拾われたAIは芸術を談義し、実技をする
最初は複製と変わらないと思っていた。最近、無名の司祭達の遺産であるAIが量産されていると黒服から聞いてもさほど興味が湧いてくるものではなかった。しかし、ある問いが生まれた。『そのAIに芸術を教えたら談義出来るようになるのか』という事だった。正直馬鹿馬鹿しいが、AIが神を証明するこの世界。ならば、今、世に出回っている絵描きのAIを超えてやろうと思い、野良のソレを保護することに決めた。
見つけるのに苦労はしなかったが、自分でも醜悪だと思うこの見た目。警戒をしない方がおかしいというもの。そこで、生活を保障する旨を話したところ、渋々ではあるが、了承してくれ、付いてきてくれた。
一日目。睡眠と食料の安全が確保されたためか、すっかり懐いてくれた。これは好都合だと思い、早速、芸術について談義してみることにした。……結果はまぁ、分かっている通りで、一日だけで理解してはくれなかったが、興味を持ち始めただけ御の字だろう。
四日目。私の芸術の良き理解者となってくれるまでに成長。正直に言うと早い。このまま談義を続行する。
七日目。自分の芸術性について話せるようになった。私の芸術性とは異なるが、これはこれで面白いと思うようになった。
十日目。今日からは実技ということで、まずは、絵を描かせることにした。まぁ、しょうがないが、正直にいうと下手だ。本人も納得しておらず、技術を教え、磨くことにした。
十三日目。良くなってきた。当初とはうってかわって、立体感が生まれるようになった。このまま続行してみる。
十六日目。ああ、どうか喝采を……すまない、取り乱した。素晴らしいと思い、胸が高ぶってしまった。明日からは彫刻もやってみようか。
二十日目。何故、約三日でミロのヴィーナスが彫れるんだ?そして、段々とこの子に愛着を持つようになった。そのため、予定を変更し、私の本命、音楽を学ばせることにした。
二十五日目。大体、音楽について分かってきたようだ。だが、実践は違う。其のことについては重々承知していたようだった。
三十一日目。……完敗だ。たった一週間足らずでピアノ、オルガンをこなし、グレゴリオのあの音楽が弾けるとは……しかも、自ら作曲をし始めた。これからこの子はどうなるのだろうか?
さらに一ヶ月後。あ……ありのまま今、起こっていることを説明するぞ。ピアノ、オルガンに加えて、打楽器、管楽器、弦楽器をマスターした挙げ句、シンセサイザー等の機械をもこの子はマスターした。何を言っているのか分からないと思うが自分でも何を言っているのか分からない。とりあえず、この子に喝采を。どうか今まで以上に高らかで激しい喝采を!
さらに一ヶ月後。この子の個展を開くことに決めた。こんな素晴らしい芸術を世に広めないなど自分の芸術家としてのプライドが許さない。だが、ある問題に直面した。この子の芸名だ。確かに本名のままで良いのでは?と思うかもしれないが、そのままでは少々、ややこしくなってしまう。……待てよ。自分の中にあるアイデアが浮かんだ。
「すまない。改めて、君のコードと何号機かを教えてくれ」
「?……はい!本機はコード1015429101の917号機です!」
……今思えば偶然か?と思ってしまう数字の羅列だ。私の敬愛する博士達。それに関する数字なのだから。……917号機……
「……『ヒルデガルト』……少々長いがコレにするか。どうだろうか?917号機?」
「……!はい!気に入りました!本機は『ヒルデガルト』のペンネームを貰いました!」
「……そうか……これからもよろしく、ヒルデガルト?」
「はい!マエストロ先生!」
私も負けないようにするべきだなとその時思ったのだった。
Q.拾われたAIと芸術を談義できるか?
A.それどころか実践すら他顔負けの出来だった。
QEDー証明終了
※ヒント
1015 テレサ
429 カタリナ
101 テレーズ
917 ヒルデガルト
※ここから裏話
他のペンネームとして考えたのは
アビラ
シエナ
リジュー
テレサ
カタリナ
テレーズ
でした。ですが、独創性として選ばれたのが、ヒルデガルトでした。少々、覚えにくいでしょうが、この名前でお願いします。それでは。