色気より食い気な彼奴のコイビトは

色気より食い気な彼奴のコイビトは


俺はとある町の消防署勤務の消防員。新人育成を担当している。先日ある新人が起こした出来事がなかなか衝撃的だったので、文字として残しておくことにした。

その新人は高卒で数年前から入ってきた奴で、名前は「モンキー・D・ルフィ」。いつも明るく元気で笑顔を欠かさない、しかもコミュニケーションに長けてるのもあり彼奴がいる所はいつも賑やかだ。でも少し抜けているところもある、どこか可愛らしい自慢の後輩の1人だ。

そんなルフィは小柄な体付きに対してめちゃくちゃ食う。消防員は体力が要なのでどいつもよく食うのだが、ルフィは同期や先輩と比べても食う量が輪をかけて多い。毎日重箱を何段も重ねた弁当を持って来ては1人でペロリと平らげる。初めて見た時はあの小柄な体のどこに食べ物が消えていっているのか疑問に思ったほどだ。

ある日のことだ。いつもと変わらず弁当の中身を次々と平らげていくルフィに俺が思わず


「お前の母ちゃんも大変だなぁ…この量を毎日作ってるんだからよ」


と言葉を零した。すると俺の言葉を聞いたルフィが、口の中に含んだものを飲み込むとこう返した。


「母ちゃんじゃねェぞ?ケムリンに作ってもらった」


ケムリン。恐らく人物名、または渾名だろうか?あまり自身のことを話さないルフィの口から出た他人を想起させる言葉。毎日ルフィの腹を満足させる量の弁当を作るケムリンが一体何者なのか気になった俺は、そのまま追求してみることにした。


「なぁルフィ、ケムリンって?」

「ん、コイビトだぞ」

「コイビト、コイビトねぇ………え、恋人!?お前恋人いたのか!」

「おう、ケムリンがコイビトだぞ」


ここでまさかの爆弾発言。普段から色気より食い気、性欲より食欲。色恋沙汰には疎そうな印象を持っていた後輩にまさかの恋人。偶然俺らの会話を聞いていた同僚たちからも「え」「マジか」と驚きの声を漏らしているのが耳に入る。後輩の初めて聞く色恋沙汰に興味を持った俺は、そのまま追求をしていった。

聞いたところ、そのケムリンは中学の頃の担任だったらしく、ルフィが成人してから恋人になったとのこと。そして今年の春から同棲を始めており、同棲してからの弁当はケムリンが毎朝作ってくれてるとのこと。中学の担任と恋人関係になるなんて、漫画の中でしかない非現実的な出来事だと思っていた。その非現実な恋路を叶え、同棲にまで進んでいる後輩に、俺はリア充に対する嫉妬よりも一種の感動を感じていた。そんなルフィの恋人がどんな見た目なのか、一目見たくなっていた。


「お前中々凄いな…折角だし、そのケムリンの写真でも見せてくれよ!」


恋人の写真の一枚や二枚持っているだろうと思った俺は、会話の流れに乗って見せてもらおうと頼んでみた。だが俺の頼みに対して、ルフィは少し気まずそうな顔を浮かべた。


「あー…それは無理だ」

「何だよ〜恋人を他人に見せたくないってか〜?」

「そうじゃなくてよ、ケムリンが写真嫌がるから持ってねェんだ」


ルフィに独占欲でもあるのかと思ったら、恋人からの撮影拒否。どうやら恥ずかしがり屋の恋人のようだ。


「じゃあ言葉で良いから教えてくれよ。お前の恋人がどんな感じなのかさ」

「いいぞ!ケムリンはな、ベビースモーカー?で…「ヘビースモーカーか?」それだ。あとちょっと不器用で、でもおれの頭撫でる手はあったかくて気持ちいいんだ。よく怒られるけど優しくて、普段はカッコいいし笑うと可愛くなって、そんで…「よーしわかった、もう大丈夫だ」もういいのか?」

「あぁ、お前がケムリンのことが大好きなのは充分にわかった」

「おう!」


予想以上に糖度満載の惚気で、これ以上聞くと砂を吐きそうになったので途中で止めた。それにケムリンを語ってる時の顔を見れば、ルフィがどれだけ大切に想っているかは充分に伝わった。普段の笑顔とは違う、大切な存在を想う春風のように暖かく柔らかい笑顔。写真こそは見れなかったものの、此奴にこんな顔をさせるケムリンがどんな女なのか何れは見てみたいと、その時の俺は思っていた。

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