航海日誌

 航海日誌


 ◯月✕日 晴れ

 ロジャーとおでん、たった二人が居なくなっただけだというのに、船内は嫌になるほど静かだ。普段は騒がしい見習い達もここ最近は大人しく、何処か元気がない。そんな中でもレイリーだけは不気味な位いつも通りだ。レイリーを見ていると、いつかロジャーがひょっこりと現れて、旅の続きが出来るんじゃないかと錯覚しそうになる。

 現実はそんなに甘くなくて、ロジャーは船を降りたし、彼奴の病気が治ることはない。おれはロジャー以外の船長に付いていくなんて考えられないし、他の奴らも同じ考えだろう。おれ達の冒険はとっくに終わっていて、続きなんて存在しない。

 空に浮かぶ黄金都市に、海中にある人魚と魚人の王国、戦獣民族が住むという幻の島。そして、最後の島"ラフテル"。色んな島を巡り、いろんな文化に触れて、誰も到達したことのない島にも行って、それでもロジャーの病気は治せなかった。

 ロジャーの病気は今の医術では治すことの出来無い病気なのだ。何年も前からわかっていたことなのに、未だに信じられない。ロジャーは強くて、滅茶苦茶で、殺しても死にそうに無くて、何より自由な男だった。人間の寿命なんて言うものに囚われているように思えなくて、病気なんかで死ぬ筈がない。千年後も一万年後もずっと元気で、例え空が落ちてきても、海が枯れ果てても、ロジャーだけは永遠に生きているような気がしていた。

 当然、そんな訳が無くてロジャーだって人の子だ。病気になれば死ぬし、寿命だってある。心臓一つの人間一人。それでも"もしかしたら"と考えてしまうのは、この海で不思議な体験を色々としてきたからだろう。『治るはずのない病気が嘘みたいに完治して、また冒険を始められる』なんて馬鹿みたいな夢を、叶うはずがないと切り捨てるには色んな夢を叶えすぎていた。

 そんな夢を見るのも今日で終わりにしよう。明日には次の島に着くらしい。おれは其処で降りようと思う。おれはロジャーと違って死ぬわけじゃないし、おでんと違って行くのが難しい様な島で降りるわけでもない。あいつらとは笑って別れようと思う。男の別れに涙はいらないからな。この日誌を書くのもこれで最後だ。この船で冒険が出来て本当に良かった。

 おれ達の冒険は終わったが、見習い達はいつか自分の船を持って、それぞれの冒険を始めるだろう。

 シャンクスは嫌に前向きで怖いもの知らずだが、それなりに強くて、とても仲間思いだ。危なっかしい彼奴を支えてくれる様な、頼りになる仲間を見つけて、立派な船長になれる筈だ。  

 バギーは臆病で泣き虫な癖に宝にがめつい守銭奴だが、派手好きなのに慎重で悪運が強いし、何より一緒にいて面白い。彼奴の妙なカリスマ性に惹かれて船に乗りたがる奴もいるだろう。

 きっと二人とも世間を賑わせる様な大海賊になるに違いない。何せ、海賊王の冒険を間近で見てたんだ。そんじょそこらの半端な海賊とは訳が違う。おれ達の自慢の見習いだ。

 これからは彼奴等が成長していくのを近くで見ることは出来ないが、彼奴等の冒険を遠くから見守るのもそう悪いもんじゃないだろう。二人がどんな海賊になるのか今から楽しみだ。

 冒険が終わってもおれの人生が終わるわけじゃない。のんびり隠居生活を満喫してやる。元々、ロジャーと出会う前は一人で暮らしてたんだ。また昔みたいになるだけ。何も不安な事なんてない。第二の人生が今から始まる。本当にそれだけなんだ。何ともない。










 さびしい、もっと冒険したかった

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