聖者はいない

聖者はいない


ルフィ×スモーカーです

仄暗いです

突然始まって突然終わります

昨晩、棚にしまっておいた箱を突き出す。箱を渡された男は、呆気に取られた顔をしていた。自分でもらしくないことをしたとは思う。「いらないのか」と聞けば、大声で「いる!」と叫びながら箱を勢いよく取られた。

三日前に立ち寄った島で、チョコレートが大々的に売り出されていたのだ。赤やピンクの貼り紙には二月十四日と書かれていて、世間で言うバレンタインがもうすぐだと気づいた。どうにも海上生活が長いと、こう言った行事ごとには鈍くなる。ショーウィンドウにはサンプルの一口サイズのチョコレートが並べられ、すぐ横には様々なサイズの箱が積み上げられていた。店のさらに奥ではもっとターゲット層を絞った、それこそ女性向けのコーナーが多数あった。目を凝らせば手前の品より煌びやかなチョコレートが並んでいる。しかし、どうにもそこに足を踏み入れるのが難しくて入るのは諦めた。そして手前にあったチョコレートを一箱手に取り、レジへ向かった。これはただの気まぐれである。

海軍にだってバレンタイン文化はあった。それこそ同期や部下から義理でもらったこともあるし、かつての上官に至っては紙袋をぶら下げていつも気を良くしていた。異動した今は肌寒い時期も相まってドジな部下はホットチョコレートを振る舞い男どもは大喜びしていた。


「バレンタインといえば、最初は死者を悼む行事だったらしい」

そう言うと、チョコを摘んでいた相手の手が止まる。高級感のあった包装はビリビリと無惨に破かれ、光の加減で見えた包装の模様もぐちゃぐちゃだ。なぜ自分でもその話題が出たのかわからないが、我ながら酷いチョイスだ。それでも再びチョコを摘むと、そいつは聞き返してきた。

「誰が死んだんだ?」

「どっかの聖職者だったな」

「へェ」

興味もなさげに、アーモンドの乗ったそれを口の中へ転がす。きっと何が乗ったチョコとはしっかり見ていないだろう。焼いただけの肉が好物の男だ。いくら職人が飾り立てても、遠くで肉が焼かれてると聞いたらそっちへまっすぐ走って行くだろう。きっと相槌を打っただけだろうに、なぜか話の続きは口から滑るように出てきた。

「そいつの居た国では、士気を下げないために兵士の結婚は禁止されてた」

「ふぅん」

「悲しんだ兵士に聖職者は、こっそりそいつらの結婚式を行った」

「うん」

「でも結局、国のお偉いさんにバレてその聖職者は死んだ」

「……」

「数々の恋人を祝福した聖職者の命日はバレンタンとして、多くの人間に悼まれたってわけだ」

「そっか」

まだ幼い後もの頃に聞いたから、どこの国の話かも覚えていない。今は名前が変わってるかもしれないし、そもそも国自体が無くなってるかもしれない。それくらいどうでも良い記憶だったはずなのだ。そんな朧げなものを、チョコを食べながらコイツは静かに聞いていた。

「ケムリン」

「なんだ、」

言い切る前に唇が触れる。ありったけチョコを食べた口は甘ったるい。そのまま侵入してきた舌を受け入れれば、固形物を押し込まれた。奥の方で齧れば、中からトロリと甘酸っぱいジャムがこぼれる。粘性を持ったそれが喉の奥を突き刺す。おれがチョコを噛んだのを確認すると、そいつは唇を離した。

「……甘ェ」

「だろ?」

食べなれない甘みを非難したつもりだったのに、嬉しそうに返事を返される。こういう顔をされると、何も言い返せなくなるから嫌だ。

「ケムリンはさ、おれらのこと祝福されたい?」

海賊と海兵、男同士、歳の差、それ以外の問題を挙げればキリがない。いつからとか、どうしてかとかは覚えてはいないがいつの間には夜を共に過ごす関係になっていた。それだけでなく、二人揃って恐らく相応の感情を抱いている。しかし伝えたわけではない。伝えるにはどちらも背負うものが多すぎて、第三者にバレないようにするだけでも必死だ。言葉を考えながら砕けたチョコを飲み込む。

「……祝われたいってよりは、認められてェのかもな」

別に式をあげたいとか、指輪が欲しいとか言うわけではない。ただ堂々と隣を歩いたり、手を繋ぎたいと思ったことはある。それだけだ。

「?おい」

カーテンの閉まる音が聞こえた。差し込んでいた日差しは消え、部屋に薄暗さが戻る。戻ってきたそいつは、シーツで覆っていた体を撫でる。

「なーケムリン、まだ朝じゃねェしもっかいシようぜ」

こちらを見つめる目は、朝焼けのように熱を滲ませていた。



昨日も咥えていたそこは、まだ柔らかさが覚えていた。お陰で入れるまでには時間が掛からなかった。ずっぷりと、埋め込まれたそれは腹の中の満たす。

「はっ……あ、ぁ」

「息して、ケムリン」

チョコを摘んでいた指が背中をなぞる。その感触すら心地よくて、背が弓のようにしなった。後ろから穿かれたせいで縋るようにベッドのシーツを掴む手は、もはや引きちぎりそうなくらい力が込められている。そもそも昨日の感触が残っているのが悪い。泣いても押されたそこを、またぎゅーっと力を込められている。腹の内側から、緩く快楽を叩きつけられて前からこぷりと白いものが溢れた。きっと品のない奴はこれをホワイトチョコだと嘲笑うのだと、妙に冷静な頭が囁いた。

「なに、考えてんだよ」

「ッヒ」

のしかかられて、中のものがさらに押し込まれる。とてもゴムの体の一部とは思えないくらい硬くて、微かな悲鳴が上がった。体を抉るように硬いのに、なぜかそれは快楽を与える。

「ケームリン」

「ぉ、ゔあぁ」

ビクリと体が震え、中の肉がウネウネと締め付けるような動きをした。くそったれ、たったこれだけでヨくなれる。なんでおればっかりこうなんだ。

「はー、気持ちいい」

「ん゛ぅ、おあ゛」

「あーあ、泣いてら」

生理現象でポロポロと流れ落ちるそれを、背後から掬い取る。その指先からはチョコの香りがふわりと漂った。思考の定まらないまま、甘い匂いをさせた指を舐めれば当然自分の涙の味がした。

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