聖歌隊

聖歌隊


「じゃあ"契約"ね」

『血の病が根絶されるその日まで、決して壊れないこと』

今日もまた、何人かの子どもをオモチャに変えた。

これでもう、この子たちのことは世界のだれも覚えてない。お母さんたちも、友だちも、私も。

ここは新医療教会所属聖堂街上層、"聖歌隊"のための孤児院。

天竜人の"元"妻の子どもたち。いろんな理由で地に降ろされた人たちのための場所。

血筋から発症する獣の病は、私たちにもまだ治せない。だから獣に成り果てる前に、私がオモチャに変えてあげるの。

子どもたちについてきた母親たちは、自分の子がオモチャになった時からこの孤児院の職員になる。孤児院ができて10年のうちに、オモチャは沢山増えた。職員の女の人たちも、それなりに増えた。

「ありがとう、先生。ぼく…ぼくがんばって、みんなとまた仲良くなるよ!」

「…好きにしたら」

「うん!うん…!!ありがとうシュガー先生!!!」

男の子だったらしいオモチャは声を震わせながらそう言うと、周りのオモチャたちに声をかけて庭の方へと走っていった。

別にお礼を言われることなんて何もない。

天竜人の子どもを集めるのは治験のためだし、私たちが間に合わなかった子たちは、みんな教会の狩人に狩られて死んでる。馬鹿みたい。自分たちの蒔いた種を刈り取ることもしない世界政府も、広い海を駆けまわって尻拭いをするしかない狩人たちも。

世界政府の"協力"機関なんて称号も、政府の施設を好きに使える狩人証も、この子たちを救いはしない。

知らない名前ばかりの拙い字で書かれた手紙を集めて、いつもの場所にそっとしまいこんだ。鼻の奥がツンとするのはきっと、目の下に隈をはり付けて孤児院をうろつくローの辛気臭さがうつったせいよ。

「シュガー…」

「なによ!あんたなんか…!!絶対絶対治せるようになってよ!命令よ!」

「……ああ。その為のこの命と、力だ」

馬鹿みたい。ほんとに馬鹿みたいだ。

なんで誰もあの子たちを覚えてないの。なんで私も思い出せないの。この悪魔を宿しているのは私なのに。

しょっぱい水がぼろぼろ床に落ちていく。ローの大きな手が、なんのためらいもなく私に触れた。残酷な悪魔を宿す私に。

なんて顔してるのよ。あんたは大勢治してきたくせに。治せるくせに。

悔しくて悔しくて肩が震える。

私信じてるから。

あんたが全部全部終わらせてくれるって、その為に全部懸けられる馬鹿なんだって。

「痛っ…!やめろシュガー!脚を蹴るな!!」

「乙女の涙を見た罰よ」

子どもたちの歌う獣除けの子守歌を背に立ち上がって、向う脛を蹴っ飛ばした。

あんたもちょっとは泣けばいい。

言葉の割にはあんまり痛くなさそうな様子に頬を膨らませて、焦った顔にちょっとだけ笑った。


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