習作:ヘイローックス
ヘイローは人間の脳と同じかそれ以上のブラックボックスと言われている。
わかっているのは『生徒』全員にあること、意識の状態とリンクして明滅したり消えたりすること、「死」を迎える時、壊れること。一般的に知られているのはこんなところだろうか。
探究心旺盛な生徒の多いミレニアムでも「直径が何センチが多い」とか「平均で頭上何センチに漂っている」とかそんな細かいことぐらいしか調べることができていないんだとか。
ただ──みんな大っぴらに言ってはいないけれど、共通認識となっているものが、もうひとつあって。
「ユウカちゃん……」
「ん……」
名前を呼ばれるのを合図に、こつ、とそっと額を合わせる。そんな風にほとんど密着するほど頭を近づければ、当然、互いのヘイローが触れ合うわけで。
実体の無い光の輪ようなそれらが、音もなく交差した。
「んっ────♡」
「の、ぁ────♡」
瞬間、脳髄から首筋、そして背中にかけて、ぞくぞくぞく、と甘い痺れが走っていった。
ヘイロー交差。俗な、というかあけすけな言い方では『ヘイローセックス』なんて呼ばれている現象、または行為。そんなはしたない名前が付けられているのは、その字面が示す通りこれが性行為たり得るから。とはいえ、子供ができたりはしないけれども。
「は、ぁっ……ゆうか、ちゃん……♡」
「ぁっ……♡」
ヘイローを交差させると気持ち良い。
どうしてそうなるのかは未だに解明されていない。加えていくつか条件があって、単にヘイローを触れ合わせても同じようにはならないし、不注意でぶつかったはずみにヘイローが交わったところで、別に心地良さに襲われたりはしない。
互いの相性説とかエッチなことを考えてるか否か説とかいろんなのが囁かれているけど、1番主流なのが、「強く好き合ってる二人でやると"そう"なる」というもの。
それはつまり。今の、私と、ノアのことだ。
「ゆぅ、かちゃんっ……♡」
「のぁ……♡」
互いに指を絡めて繋いだ手に、きつく力を込めて握り合いながら、ヘイローを交わらせたままじっとする。それだけなのに、私たちの身体はぶるりと震え、あるいはひくひくと跳ねる。
「ふ、ぅぅぅっ……♡」
身体は微かにしか動かないけれど、心の中はもうめちゃくちゃになっている。だって、私たちは今、なんの比喩でもなく心が繋がっているから。
ヘイローが触れ合っていると、感情が伝わる。互いの心──愛情や恋心が、ダイレクトに叩きつけられる。不思議なことに、本当にそんな感覚がする。
それがあんまりにも多幸感に満ちていて、心が高まりに高まって、それで、それで────
『────〜〜〜〜っっ♡♡』
心で感じる快楽の極まりに、身体の方が適応してイってる……言葉で表すならそんな風になるのかもしれない。これがヘイロー交差。心で行う、まぐわい。
全身が粟立って、下腹の奥がきゅうっと強く深く疼く感覚に耐えきれなかった私たちは、声にならない声をあげながら身体をのけぞらせてしまう。当然、繋がっていたヘイローも離れる。
『はっ、はっ、はっ、はぁっ……♡』
荒く息をするそのリズムまでシンクロさせながら、なんとか息を整える。蕩然としながら覗き込んだノアの顔は頬を赤ながらうっとりとしていて、涙が薄く膜を張り潤んだ瞳に映りこんでいる私の顔も、似たり寄ったりな表情をしていた。
……………もう一回。
『──────っ』
お互いに吸い寄せられるように身を寄せたのは同時だった。私がノアの首に絡みつくように手を回して、ノアは私の背にしがみつくみたいにきゅっと抱きしめてくる。
『はっ、ぁ、ぁ……!♡』
交わったヘイローが、またじりじりと快楽神経を灼いて来る。限界はあっという間に訪れて、二人揃って、また身体がイき始める。
『ぁっ、はっ、──────ッ♡♡』
びくんっ、と強く身体が痙攣して、反射的にまた身体を離しそうになるのを、相手を抱きしめる手に力を込める事で耐える。
長く長く交わらせていると、快感もそれだけ強く、深くなって行く。お互いの心と感情と快楽に溺れそうになる。
『はっ、ぅっ、はっ、あーーっ♡♡』
脳の奥から背筋までにかけてがぞわぞわと震える。それでまたイかされる。下腹部の奥……子宮のあたりが狂ったようにばくばくと脈動する。それがもうおかしくなりそうなくらい、深い絶頂感になって襲って来る。
「はっ、ぁ、ゆうかちゃんっ…♡」
「のあぁ……♡」
まだ、まだ、もっと。
ただ名前を呼び合っただけでも、その意図を考えるよりも先に直感で理解した。
(今日は、どのくらい長く溺れてられるかな)
頭の片隅でそんな思考が掠めたけれど、またすぐに、頭の中は『気持ちいい』しか考えられなくなった。