翌朝
「おまえ、トレーナーさんのことが好きなんじゃないか?」
目を覚ますとサンタクロースにマウントポジションを取られていた。レースが終わったら会おうと約束していたから、それ自体はいいのだ。朝から部屋に侵入するとは性急だが。ただ、浮かれたサンタ帽に不似合いな切羽詰まった表情と、その質問はいただけない。
トレーナーのことが好きか。もちろん好きだ。自分を見出して、ずっと一緒に戦ってくれた人だ。しかし今訊かれているのがそういう意味でないことは鈍い自分でも理解できた。
「……こっちに戻ってくる前にSNSに上げたツーショット、すごく幸せそうだった。自覚してないだけで、好きなんじゃないか? 想像してみろ。もしトレーナーさんが結婚したら素直に祝えるか?」
「ああ」
大好きなトレーナーが共に人生を歩みたいと思うほどの人と出会って幸せになる。それは素晴らしいことだ。曇りなき本心だ。どう言葉を尽くせば伝えられるだろうか。
「ははっ、ぜんぶ顔に出てる。勝手に疑って勝手に妬いてバカみたいだな……ごめん」
ぱたり。胸の上に倒れ込んだ彼の表情は見えない。肩に手を回すと、とくとくと心臓の鼓動が伝わってくる。
レースで思うように走れなかった春も立て直しのために休んでいた夏も軽いトレーニングしか許されなかった秋も自分だけが置いていかれるようで怖かった。だからあの日は本当にうれしかったのだ。久しぶりにトレーナーに会って、予定通りにレースに戻ると決まって、また歩き出せることが。
そして今はこうして身はを寄せ合い、互いの心をさらけ出せることがたまらなくうれしい。
「おれは幸せだな」
「恥ずかしいやつ…………おかえり──」
耳元で囁かれた自分の名前は甘く響いた。
「よし! 湿っぽいのは終わり!」
1日遅れのサンタクロースは体を起こして高らかに宣言する。
「ここからはクリスマスだ。疲れてるだろうから全部準備してある。覚悟しとけよ」
このあとめちゃくちゃクリスマスケーキ食べた。