美は朽ちぬもの④
鈴澄 音夢注意
・続きもの
・3ペア不在
・1ペア視点
プルプルと呼び声を上げる電伝虫は調子が良いのかすぐに電波を拾い、三度目のコールで繋がる音と共に青みの強い紫の髪の真似を始めた。
「久し振りだな、Ms.ダブルフィンガー。NEWスパイダーズカフェ開店おめでとう」
「ええ、久し振り。でも、新店舗ではそう言う事はしないから、ザラって呼んでちょうだい。貴方はまだ、Mr.1って呼ぶべき?」
懐かしい声へ呼び名を訂正し、改めて話を始める。どうやら女性スタッフ達で呑みの途中だったらしく、先程Ms.ゴールデンウィーク、もといマリアンヌが潰れたばかりの様だ。
「まあ、そういう訳で、これからはダズで良い」
「そう、分かったわ。今、マリアンヌが寝室に運ばれたから、そろそろ本題に入って良いわよ」
話が早くて助かるな。
「態々こんな時間に掛けて来るんだから雑談じゃないし、貴女が聞いて来たのはマリアンヌだけだから分かるわよ」
「それは、悪いな。今さっき思い立ったばかりで、其方の事を考えてなかった」
彼女の店に定期連絡をするのは、いつもこの時間だったからな。つい向こうが寝ている可能性を考えていなかった。
「先程、海賊を派遣する仕事の話をしただろう。それで一人程雇って欲しいんだ」
「何それ。広告用の実績が欲しいなら他所でやって」
「一回り下のペアと同じく酒に飲まれてる馬鹿な男は理由が無いと会いに行かないだろう?」
「バ!このバ!そんな理由ならもっと早く言いな!」
Ms.メリークリスマスか。後ろから聞こえる声からしてMs.バレンタインもいるのだろう。部屋を変えたりしてないのか、とは思うものの、酒盛り中に電伝虫を掛けたのは此方だと思い出し、俺のミスだと思う事にした。
「まあ、それなら透明な蝋でコーティング出来る能力者を一人貸してちょうだいな。うちの看板娘の個展が来月に控えてるんでね、イタズラ防止に絵の保護が出来る奴が欲しいわ」
「分かった。開店祝いという事で料金は俺から出しておくが、流石に何ヶ月も此処を開けさせる訳にも行かなくてな。日程については明日の店を閉めた頃にまた話そう」
通話を切った電伝虫が彼の特徴的な繋がった眉毛と厚い唇の真似を解き、ウトウトと眠り始める。こんな時間に起こしてしまったから、今日の眠りは浅いかもしれない。ツマミのサラダからドレッシングの掛かっていない所を選んで口元に運ぶと、ムニムニと食べながら完全に寝落ちた電伝虫に心配は要らないかもしれないが。
振り返って二人に話を説明するまでも無く、これからの方針が満場一致で決まり、自然と乾かしている『忘れ難き原罪』に目を向けていた。私達の知らない髪を下ろした優しげな笑みの彼の絵に。
「最初の罪が、温もりに触れた事なんて、私は認めないわよ」
「当(当たり前)!」
愛してるかと聞けば不思議そうに首を傾げる癖に、恋してるかと聞けば赤いほっぺを更に赤くする可愛い私達の末っ子。貴方がこの子に愛を教えたんだから、最後まで面倒見なさいよ。
「キャハハハ!あのロリコンにそろそろケジメ付けさせるよ」
17も18も超えたんだから、そろそろ良いでしょ。