罪悪感と朝チュン

罪悪感と朝チュン



正雪の笑顔を見るのは好きだ。それはとても良いものに思えるからだ。

目を開けると裸体の正雪が目に入った。朝の日差しを受けて白い肌はキラキラと輝いていた。一見造り物のようだが、その肌はほんのりと赤みがかっており、生と共に色香を放っていた。

目に毒だと、俺は手を伸ばして正雪の身体に布団を掛け直す。

「伊織殿……」

正雪はわりとはっきりした声で寝言を言う。幸せそうに緩んだ口元には微かな涎の跡。俺はそっと指先でそれを拭う。きっと気付いたら、これでもかと言うくらい頬を染めるだろうから、正雪の尊厳の為にも証拠は隠滅しておく。

俺は身体を起こそうとするが、正雪に阻まれた。よく見たら、眠る正雪の手が俺の着物をギュッと握りしめている。余程強握り締めているせいか、血の気の通わなくなった関節が白くなっている。

——どこにも行かせまいとする意志を感じられた。

「……俺は正雪を置いて何処にも行きはしない」

俺は身体を起こす事をやめて、一人ごちる。

正雪が——『由井正雪』が望むがまま、俺は彼女を抱いた。最初こそそれが正雪の望みだからと自分に言い聞かせていた。しかし、痛みすらも俺の与えるものだからと微笑んで受け止める正雪の姿にいつしか理性が飛んだ。ただひたすらに正雪の細い身体を貪った。甲高い声は猫のように可愛らしく、もっと聞きたいと幾度も責め立てた。自然と涙を流す正雪の顔に胸を締め付けられて、その唇を唇で塞いだ。

何とも自分勝手な時間だった。それでも正雪が笑うからと、俺は正雪を抱いたのだ。

この『由井正雪』はかつての儀に参加した正雪ではない。正雪は死んだ。ここにいるのは増殖機能で増えたもう一人の由井正雪。

その身体は健康そのものでひび割れもない。翠玉の瞳はいつだって俺を捉えてやまない。

当初は人形のようだった『由井正雪』も徐々に人間味を深めていき、今ではかつての正雪との差は分からなくなっている。そんな正雪を前にするともう以前のように拒絶ができない。

これは前の正雪に対する不義理ではないのか?

人道に反する行為ではないのか?

何度も疑問に思う。だが、未だに答えは出ない。

「……ん、いお、りどの」

そう考えていると正雪が目を開けた。翠玉の瞳が俺へと焦点を結ぶ。

「おはよう、伊織殿」

花が開くように正雪は微笑む。

「……あぁ、おはよう、正雪」

つられて俺も微笑んでしまう。

俺は正雪の頬に手を伸ばした。ヒビのない柔らかな頬。触れられたすらわからない彼女はもういない。

正雪は俺の手に頬擦りをして俺の手に己が手を重ねて、また綺麗に笑うのだ。

あぁ、夢のような幸せに眩暈がする——。

罪悪感に息が止まりそうだ。

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