罪のケロイド、ダイヤのみんな

罪のケロイド、ダイヤのみんな

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※IFローがケロイドのことを「醜い」と考えていますが、これはローの自罰自責思考の結果であり、「ケロイド=醜い」という主張ではありません。医師であるローは他人のケロイドについて絶対そんなことを思わないよ。




 刺青は誇りだった。信念だった。

 しかし、だからこそ「こんなもの」を今生きているクルー達に、全てを守りきれたもう一人の俺に見せる訳にはいかなかった。

 だってこの胸には、世界一の大事のひとつがあったはずのここには、もう、自分の弱さの証明しか残されていない。

 最初ナイフで切られるだけだった胸元の刺青は、散々痛めつけられるうちにガン腫瘍のようにぶくぶく膨れたケロイドと化し、もう二目と見られないものになっていた。

 これは罰だ。俺が弱くて、勝てなくて、みんなを守れなかった罪の証。

 怯えて服ごとケロイドを握って痛めつけるしかできない俺に、優しいクルー達は今までよりさらに顕著に動揺した。

「わっわかった! そんなに嫌なら着替えるのはいいよ! まずはアクセサリーを外そう? ね?」

 冷静なら。普通なら。正気なら。かつての俺なら難なく理解できたはずだった。焦ったクルー達には全員かけらの悪意も無いことも、どんな診断にもどんな治療にも金属類のアクセサリーは邪魔でしかないことも。

 だけど、俺は、もう。

(ああ、そんなに気に入ったんなら)

 声が聞こえて、とっさにすくめた首から丸めた手首から握り込んだ指から折りたたんだ足首から、守ろうと飲み込んだ腹の内から、今も輝く愛するもの達が、伸ばした手が届かないままむしり取られ、


(壊さねぇとなァ)


  子供の虫遊びより容赦なく、灰より儚く「また」散らされて、

 俺は。

 善意の反対で触れられることが多すぎた。


「あ゙あ゙ぁぁァッ」

「キャプテン!?」

 手足の全てを丸めてうずくまった俺に、四方八方から悲鳴が降りかかった。

「やめろ、やめてくれ、やめて、もうつれていかないで」

 「俺」らしからぬか弱い懇願。周囲に困惑の気配が満ちる。

 元々俺はアクセサリーに特段の執着を示すタチじゃない。そもそもあいつに強制されたものでなくとも、だ。

 頭を掻きむしった拍子に指輪の一つがするりと抜け落ちた。あいつのサイズ直しが間に合っていなかったもの。

 ころころ、指輪がクルーの間を通り抜ける。

 それが無くなったことに気付いてまた叫ぶ。混濁した意識の中、まだこれがあると胸元のネックレスを引き寄せて飲み込もうとすると「何やってるの!?」とまた新たな悲鳴が上がる。腕を掴まれて止められる。

 無力な俺は数珠繋ぎにされたかつての名前を呼び続けることしかできない。

 ダイヤは返事をしないのに。

「……異食症かと思ったが」

 ぴたり。ひしめく狂乱と悲鳴が一瞬でならされた。

 平らな声音。「俺」の声。


「これは、こいつらなんだな」


 しん、と静まり返った空間の中で、俺はのろのろ顔を上げた。

 ダイヤの指輪を拾い上げた向こうの「俺」は、何もかも悟った目をしていた。

 ……本当に久方振りに、心の底から「しにたい」と思った。

 ろくな力の入らなくなった顎で舌を噛む。嚙み切るどころか傷さえできない感触に、俺はまた涙を流した。



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2022/12/10追記

同じ小説を2022.10.5. 20:02:48付けで「ぷらいべったー」に投稿しています。非公開です。

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