罅入りの茶器
───────補習授業部の再開と同時刻
「申し訳ありませんナギサ様、魔女を逃しました」
「そうですか....またなにか情報が入ったら連絡を。」
「はい!!」
「.....はぁ」
体裁上とはいえやはり疲れてしまいますね....
ミカさん....無事だと良いのですが
「やはり、ミカのことが気になるかい?」
「気にならないわけがないじゃないですか....はぁ」
確かに、私の中でもミカさんへの憎悪が洪水のように溢れています。
ですが、何をしたわけでもなくあそこまで異常に殺意を抱かせるのは普通に考えればおかしい事だと気づけるのです。
そして、その気づきをいつの間にか忘れてしまう。
物事を忘れるのは人間として仕方ない面もありますが、これではまるで
『気づいたことが都合が悪かったので消した』
そう思えてしますのです。
「あ、あの...その、報告です!!」
いけない、考え事に夢中になってしまって来客を待たせるとは。
「さて、どうしたのですか───────」
「───────ハナエさん?」
朝顔ハナエ、トリニティ総合学院1年生にして救護騎士団の子。
「ミネ団長は如何されたのですか?本来であればこの場に来るのはミネ団長の方がふさわしいはずです」
「ええっと....その団長についてなんですが....」
「待ちたまえ」
セイアさんが話を遮る。
「その前にひとつ、確認したいことがある....ナギサ」
「君、ハナエくんに対して『不快感』を感じていないかい?」
なにを言っているのでしょうこの狐は。
すぐさまマカロンを不躾な口にぶち込んだ後に謝罪をしなければ。
「申し訳ありませんうちのセイアさんが....」
「もがっ!!もがもご...」
「わあああ!?大丈夫です全然気にしてませんし!!!不相応なのは分かってますし!!!!」
「むぐ....んぐっ、ぷはぁ。それで....今の質問、これはyesと受け取って構わないね?」
うぐ....た、確かにハナエさんに少し辛く当たったような気がしますし、感じていないと言えば嘘になります。
「ええ....ですが、それになんの関係が?」
「.....いわゆる色相環において、藤色...紫系統の色はピンクに近い色合いなんだ」
「ミカは当然ピンクで、今こうして名前を挙げてるだけで腸が煮えくり返りそうになる。」
「しかし、ハナエくんもまたミカ程ではないとはいえ悪感情を抱いてしまっている。察するに....ピンク色に近いほど憎悪が増すのではないか、とね」
.....一理あります。確かにこうして説明されれば共通項を見出すこと自体はできるでしょう。ですが───────
「それがもし、『勝手に共通点を見出してしまう』だけだった場合は?」
「その時はただ進展がなかっただけだ、あくまで予測の範疇だしね。」
「さて、確認も終わったところで要件を伺おうか?団長が一体どうしたのか。」
「その....団長が、自分を救護しました」
「まちたまえ、ちょっと情報量が多すぎる」