練習って、なに?
私の正体がガウマ隊のみんなの知るところになって、そして蓬君に、怪獣使いと同じ力があるとわかって。それから色々と話をして、蓬君の力に秘められた怪獣使いの力の練習相手として、怪獣の私が手伝いを請け負う事となった。
「それじゃあ、その。やるんで……」
「う、うん」
しどろもどろになっている蓬君に釣られる様に、思わず緊張する私だった。
躊躇いがちに、ちょっと変わったVサインの様な形に開いた右手が向けられる。おっかなびっくり、といった具合なのは、色を塗る怪獣との一件が尾を引いているのと、私を"操る"事への忌避感が拭えないせいらしい。私も望んだ事なんだからいいのに、と思う反面、相変わらずな蓬君の優しさに触れて少し胸が暖かくなる気分にもなった。
「…………インスタンス・ドミネーション」
意を決して、呪文の様な言葉が呟かれると同時に、指の間から覗く蓬君の琥珀色の瞳が、赤く妖しい光を放った。
「────ぁっ」
視線が光線みたいになって、私の身体が貫かれた。一瞬、本気でそう思った。
まるで、服を全て取り払って、自分の肌を全部晒している姿を見られているような、自分の何もかもが暴かれて、覗かれている。恥ずかしくてたまらないような、けどなんだか癖になりそうな、妖しい気持ちよさに似た感覚があって、身体中がぞわぞわと震える。
「はっ、はっ、あ、ぁっ……!」
身体越しでも、言葉に乗せてでもなく。繋がった心から、直に伝わってくる感情。私に対する想い、量も質も普段と段違いに感じるそれが堪らなくて、溺れてしまいそうで、胸がいっぱいになる。
【…………みなみ、さん】
耳と、頭の中に直接。二重に響いてくる蓬君の声に、くらり、と脳が揺らされたような気がした。うまく考えが巡らなくなって、ただただ蓬君の声だけを聞きたくなる。
(あ、これ、ダメかも)
蓬君の、心が、私の中に、入って来てる。
本当なら、誰も入ってこれないはずのところまで、蓬君の存在が、入って来てる。
おかしくなっちゃう。いやおかしくなりたいのかも。おかしくして欲しいとか、そんな風にさえ思っているのかも。
いや、何が"だめ"なんだろう。ぜんぜん"だめ"なんかじゃない。こんなに気持ちが良くて、幸せな気分になって、蓬君がこんなに近くに感じられて、強くて甘くてとびきり美味しい情動が、体の中に溢れてて、それで、それで────
「ぷはぁっっ!!」
「あっ…………」
ぷつん、と電源を落としたみたいに、繋がりが不意に途切れた。いつの間にかぼやけていた目の焦点を合わせると蓬君が肩を上下させながら呼吸を整えていた。
あれ、待って、私、今、何かとんでもない事を考えてたような────?
「きょっ、今日はっ!ここまでにしとこう!ねっ!?」
「え、あ、うっ、うんっ!」
顔を赤くしながら、何か慌てた様に声をかけてくる蓬君。その勢いに押されるように、今回の練習はお開きとなった。
「はぁ……」
余韻でざわつく心と身体を鎮めるように吐息をひとつ。何故か火照っている身体を手でパタパタと仰ぐ。
…………違うから。絶対違うから。別にえっちな気分になったとかぜんっぜんないから、違うから。
妙な事を考えそうになる頭を軽く振ってリセットした。
「ね、蓬君」
「はいっ!?なんでしょうかっ!?」
身支度を整えつつ、蓬君に声をかけると、これまた大袈裟なくらい反応が返って来た。
「その、また、"練習"したくなったら、言ってね。私も、慣れときたいし」
「えっ、あっ、そのっ。は、はぃ……」
「…………大丈夫?具合、悪いの?」
「だだだだいじょうぶ、うん、おれはだいじょうぶ……」
操縦に慣れてない頃のダイナソルジャーみたいにぎこちない動きをする蓬君がちょっと心配になりつつも、その日はそこで別れたのだった。
怪獣使いの力で繋がると、蓬君だけじゃなく、私の心まで筒抜けになる。
それを後から知った私が、色々と大変な事になるのは、また別のお話。