続き
ついにポーラエリア禁止令を出されてしまった。
「ほんとはサバンナエリアだけにしたいくらいですが…」
「…ごめん」
ポーラエリアは寒くて長時間いると体調を崩すから。キャニオンエリアは崖があって危ないから。コーストエリアは水が多くて危ないから。
通常では怪我くらいで済むような場所が、俺にとっては「死」に繋がるから。
「…………」
手首をぎゅっと掴んで口を噤んだ。
いつも、この胸の中のもやを抑えるのには力が要る。
…「死にたい」を抑えるのには。
「それで、風邪は大丈夫か?」
カキツバタに訊かれて頷く。
喉はまだ少し痛いけど、熱も少しあるけど、我慢出来ないほどじゃない。
今、部室にはタロとカキツバタしか居なくて、本当になんだか申し訳なくなる。
ネリネがアカマツとねーちゃんを呼んで外に連れ出してくれているのだ。
アカマツとねーちゃんだけには絶対にこの「死にたい」を秘密にしていたいって、俺がわがままを言ったから。
「うーん…元チャンピオンは我慢強いねぇ。雪の中で寝て平気なんだもんな」
「カキツバタ、またそういう言い方…」
タロはため息を吐いてから俺の額に手を当てると、眉を下げた。
「スグリくん、もう今日は部屋に戻って寝た方がいいですよ。…いや、いっそこの部屋で寝た方が…」
「だ、大丈夫。部屋戻る」
「でも…わたしたちが心配です」
悲しそうな顔をするタロに、俺は慌てた。
だめだ。
俺はまた、そんな顔をさせて。
「…今回のは、ほんとにうっかりしてただけだから…!さ…散歩してたら風邪引いて…」
「スグリ」
いつになく低い声に遮られて、ぞくりとさえする。
カキツバタを見ると、いつも通りニヤニヤと笑っていた。
「死にたいんだろ?」
「!」
さあっと顔から血の気が引いて、言葉が出なくなった。
そんなことない。違う。平気だ。
そんな嘘たちはこの胸を占める本音に比べればとてもちっぽけだ。
せめて頷きたくなくて、拳を強く握りしめる。
「相変わらず強情だねぇ。オイラ達もう知ってんだから隠さなくていいんだぜ?」
「…………」
「オイラはオマエが死にたいのは別に悪いことじゃないと思うね」
カキツバタは背中で手を組むと、のんきな様子で部室内を歩いた。
「でもオイラはスグリに死んでほしくねぇから助ける。タロが心配してるのも、ネリネが協力してくれるのも、オイラ達がそうしたいからだ」
「……そん、な」
ぐるぐると胸の中が渦巻いて、本音と嘘が混ざって分からない。熱が上がったのだろうか。目も回る気がする。
「そんな救いは…いらない」
「そうかい」
タロが寄って来て、また俺の額に手を当てた。
それから額に貼る保冷シートを取りに棚を探り始める。
カキツバタはというと、さっきまで浮かべてた笑みがすっかり無くなっていた。
「それが本音ってわけかい」