組み分け直前

組み分け直前


汽車は速度をだんだん落としてゆき、停車した。

閉まっていた扉が開いて、

多くの者は緊張し、顔が青白くなったり、胃がひっくり返りそうな者もいた。

「イッチ(一)年生!イッチ(一)年生はこっち!ハリー、元気か?」

半巨人族の男___ハグリッドの大きくて跳ねるような言葉。彼がここにいるのは、その人柄で新入生の緊張をほぐすため。まあ実際はマグル生まれの生徒を怖がらせてもいるが、まあまあ効果はあった。

ハグリッドの大きな髭面が、ずらりと揃った生徒の向こうから誰かに向かい笑いかけた。

ここまではおおよそ『例年通り』の光景である。そう、ここまでは。

「一番着替えが遅かったからお前格下」

「はあ?うっせえ、お前百味ビーンズ吐いてたじゃねえか」

「ありゃゲロ味だったんだよ。元々の物に帰ったからノーカンだノーカン」

「うっせえなー、あ、おれが一番早く着替えたからお前ら格下な!」

「「あ゛あ゛???」」

「そんなわけあるかボケ」

「馬鹿なのか?そんなわけあるかよ。名前の通り猿なのか?」

「このっ…じゃあこうしよう!ゾロっていうマリモみてェな幼馴染がおれにいるんだけどな、そいつ連れてこれなかったやつ格下!」

「はあ!?なんだそれ、お前に有利すぎる!!」

「ハン、じゃあハンデとしてお前が見つけられなかったらダントツで格下だ。いいな?」

「なんでおれが見つけられなかったらダントツで格下なんだ?」

「「ハンデだよ!!」

「付き合い長いんだからどこにいるかとかは分かるだろ!」

「いやああいつの迷子もう魔法のようなもんだから…」

「はあ…。いいぜ、やってやるよ…。煽ったのはそっちだからな!」

すう、と大きく息を吸う。

「“ROOM”」

ヴヴン、と独特の音を立てて青い膜のようなドームが広がる。その中心にいる生徒からは軽い圧力のようなものを感じた。

「ここはもう『魔法界』だ…。魔法使われたって文句は言わねえよなァ!?」

「え、ちょ、これどうすれば」

ローはそこら辺の石を手に取り、頭上に放り投げる。そして、呪文を紡ぐ。

「“シャンブルズ”」

その瞬間、ぱっ、とゾロと小石の位置が入れ替わる。

「は?」

「よっとと…」

どさり、と重力に逆らわず落ちてきたゾロを、ローは受け止める。

「…チッ」

「あ!ゾロだ!」

辺りにどよめきが広がる。

「い、今のは…?」

「急に人が空から…!」

「魔法界、こんなこともあんのかよ…」

「あんな魔法、知らないわ!一体何の…」

「フン。ここが狭いところよかった。で、お前誰だ?」

「名前も知らずに魔法使ったのかよ!!…ロロノア・ゾロだ」

「お、ゾロ!やっと会えたな!ちなみにこっちがトラ男、こっちがギザ男だ!」

「トラファルガー・ローだ!」

「ユースタス・キッドだ!!」

「なるほど、トラとギザ男か。よろしく」

「話を聞け!!!」

「ま、まあイッチ年生は揃ったか?いないやつはいないかな?とりあえず、足元に気をつけろ!いいか、イッチ年生、ついてこい!」


「おれが見つけた。だからお前ら格下。おれが、格上。」

「うるせェ!あれはズルだ!あれがなけりゃおれの方が見つけるのは早ェ!だからお前ら格下ァ!」

「そーだそーだ!おれのほうがゾロとのつきあいが長ェ!だからお前ら格下!!」

「フン。人との付き合いしか誇れねェ奴が格上なわけがあるか」

「お前が人付き合い以外でおれらに勝てることあんのかよ!!」

「ああ!おれの方がよく食べる!」

「何ィ!?おれの方が食べる!」

「いいや、おれだ!」

「…お前ら少しは落ち着け」

険しくて狭い小道をワイワイと仲良く(?)進む四人。

右も左も真っ暗で、木が生い茂っていようが関係なかった。滑れば「格下」。つまづけば「格下」。この三人の落ち着く気配のなさに、ほぼ満場一致で出た答え。

「(あいつらには近寄らないでおこう…)」



「みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ!」

ハグリットが振り返りながら言った。

「この角を曲がったらだ。」

『うぉーっ!』

一斉に声が沸き起こった。

狭い道が急に開け、大きな黒い湖のほとりに出た。向こう岸に高い山がそびえ、そのてっぺんに壮大な城が見えた。大小様々な塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かび上がっていた。

全員がその光景に目を奪われていた。

やっといつも通りに戻り安心したハグリッドは、

「四人ずつボートに乗って!」

こう宣言してしまった。これが良くなかった。当然、

「おれ達は同じボートだな!」

「まあ他のところに乗せてもらえなさそうだからな。」

「こんなかで漕ぐ速度遅かった奴格下ァ!」

「「あ゛あ゛???」

という絶対アカンもまっ青な組み合わせになってしまった。

「みんな乗ったか?よーし、それでは進めえ!」

ハグリッドの号令と共に、ルフィ、ゾロ、キッド、ローの四人を乗せたボートはとんでもない速度で漕ぎ出し、すぐに後ろからは見えなくなってしまった。

「おいロロノア屋、お前もしっかり漕げ。微妙にボートが回ってるぞ」

「うるせェ。お前らの漕ぐスピードが異常なんだよ。周りを見ろ」

とか言いつつしっかりすごい速度で漕いでいる。

この船が先頭になってないはずもなく、鏡のような水面をモーターがついてるかのようなスピードでボートが進んでいく、という何とも言えない状況のようになってしまった。そうこうしているうちに向こう岸の崖に近づくにつれ、どんどん辺りの影が濃くなっていった。

「お前ら、頭下げろ!!」

全員が頭を下げるとボートはそのままの勢いで蔦のカーテンをくぐり、その陰のぽっかり空いた崖の穴にホールインし、地下の船着場で

『止まれ~~~!!』

と急停止した。

「ハァ…ハァ…着いた…」

「トラファルガー…、お前…頭下げるの…ゼヒュー…ゼヒュー…早かったから…格下…ゲホ、ゲホ…」

「うるせェ…お前は…遅すぎる…ハァ…ハァ…から…ゲホッ、ゲホッ…格下…そんなことより…ロロノア屋は…どこだ…」

「「あっ…」」

後続の人とハグリッドに拾われたゾロが来た時、三人はまだぐったりしながら言い争いを続けていた。

「こいつら馬鹿では?」

「馬鹿な船頭が多すぎて船が山に登るどころか崖を登ってそう」

『三馬鹿』と『三船長』という愛称が使われ出したのはこの事件の後のお話である。

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