終焉兵器は砂糖砂漠のユメを見ない
「ここに居たんですね。」
視界一面の砂、今もなお広がる砂漠で少女は呟く。
「まったく……探しましたよ、ユメ先輩。」
これは無数の可能性の中の一つ。青春の物語に繋がらないバッドエンド。
あの後、ユメ先輩の埋葬をして墓を作った。
あの人の遺体が砂漠で野晒しだなんてそんなのいいわけがない。
ポケットから飴を取り出す。口に入れて嚙み砕く。
「どうしてだ……なんで先輩が死ななきゃいけない。」
「そりゃあ、あの人が愚かだったからですよ。身の程をわきまえず、できもしないことをやろうとしたら死んで当然でしょう。今頃は地獄で反省会でもしてるんじゃないですか。」
幻聴が聞こえる。そう嘲笑っている幻覚(私の姿)を打ち抜く。
「あの人を地獄に落とすな!死んでしまえ!!消えろ!!!」
「だったらお前が気を抜いていたせいだ。お前のせいでユメ先輩が死んだんだ。お前が殺したようなものだ。」
今度は幻聴から耳の痛い話が聞こえる。言い返せない。
「黙れ!」
廃れた校舎で私の声だけが空しく響く。周りには誰もいない。
「私が死んじゃったことは気にしなくてもいいよ。」
朗らかな声が後ろから聞こえる。申し訳なさそうな声色が含まれている。
「そりゃあ、やり残したこともいっぱいあるけど。それはホシノちゃんに背負わせるようなものじゃないよ。」
振り返ると何もない。これも所詮私の妄想だろうか。自己嫌悪が強くなる。
「でも、もしそれでも納得できないなら、どうせなら今抱えている感情すべて外にぶつけて。それは独りで抱えきれるものじゃない。」
私にとって都合のいい幻聴が聞こえる。先輩ならきっとこんなこと言わないだろう。自分が嫌になる。
それでもこの気持ちは抑えきれない。怒りが納まらない。どうせ他にできることなんてないだろう。だったら行動の指針ぐらいにはなるだろう。
こんな世界壊れてしまえ。
この砂漠には色々なものが埋まっている。
そのため変な連中がちょっかいをかけようとしてくる。カイザーコーポレーションもそういった連中の一つだ。
そいつらが探してる超古代兵器。「ウトナピシュティムの本船」もその埋まっているものの一つだ。
砂まみれだが問題なく使える。私の意のままに動かせる。
これで連邦生徒会を襲撃する。
連邦生徒会は問題なく陥落した。有象無象が幾らいようが相手にならない。連邦生徒会長がいなかったことは気がかりだが今となってはそんなことはどうだっていい。
連邦生徒会にはアビドスと比べ物にならない程の資料がそろっている。それでも砂漠をどうにかする方法は見つからない。私たちが送った要請とかも軽く探したが見つからなかった。しかし、面白いものが目に入ってきた。
キヴォトスを終焉に導く兵器「名もなき神々の王女AL-1S」。
これなら楽に世界を滅ぼせる。一々襲撃なんて面倒なこともしなくても済むだろう。
資格のないものはたどり着けなくなっているが問題ないだろう。そんなもの容易く偽造できる。
連邦生徒会の警備を蹴散らしてミレニアム近くの廃墟まで向かう。
「接近を確認。」
部屋全体に音が響く。
「対象の身元を確認します。小鳥遊ホシノ、資格はありません。……。資格を確認しました、入室権限を付与します。下部の扉を開放します。」
床が開く。降りた先には少女が見えた。
「この子がキヴォトスを終焉に導く兵器。とてもそうは見えないね。ただの少女にしか見えない。」
といってもただの少女ではないだろう。安らかに眠っているようで、今日埋葬した死体とは明らかに違う。どちらかと言えば「電源が入ってない」ほうが表現として正しく思える。
どちらにせよ裸なのはまずいだろう。
未練がましく持ってきた予備の制服を彼女に着せる。もし自分以外がアビドスにやってきていたら。そんな考えが脳裏に浮かぶが全力で振りほどく。
直後、彼女から警報音がなる。
「状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します。」
少女は立ち上がり私に向かって疑問を投げかける。
「状況把握、難航。会話を試みます。……説明をお願いできますか。」
「君はキヴォトスを終焉に導く兵器「名もなき神々の王女AL-1S」、資料にはそう載っていた。正しい?」
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません。」
「だったら、その「鍵」を探してみませんか。こちらにはその心当たりがあります。」
廃墟の何処か、「AL-1S」の収容されているところと違う景色。しかし、彼女は見覚えがあるようだ。「AL-1S」の体は自然と「鍵」へ導かれる。「AL-1S」の向かう先には一台のコンピュータが点いていた。
[Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください]
「AL-1S」に「key」と入力させる。
[]
[……#$@#$$%#%^*&(#@]
「はい」
[音声を認識、資格を確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S]
<<<私の大切な…………よ。>>>
感動の再開はこれで十分だろう。資料を見た限り「鍵」は別のところに移したほうがいい。
「とりあえず、そのパソコンじゃ保存状態が悪そうだし、この端末に移ってもらっていいかな?」
[構いません]
「じゃあ、帰ろうか。アビドスへようこそ。」
上から見下ろしてなお視界一面の砂の中、いくつかの建物が見える。
「それじゃ、やっちゃって。」
『……コードネーム「AL-1S」起動完了。』
『プロトコルATRAHASISを実行します。』
『AL-1Sに接続された利用可能なリソースを確保するため、全体検索を実行。』
『リソース領域の拡大』
『リソース名、「ウトナピシュティムの本船」の全体リソース——9999万エクサバイトのデータを確認。』
『……現時刻をもって、プロトコルATRAHASIS稼働。』
『コード名「アトラ・ハシース」起動プロセスを開始します。』
『プロセスサポートのための”追従者”を呼び出します。』
『従属機「アポピス」を小鳥遊ホシノにインスト―ル。』
『王女は鍵を手に入れて箱舟は用意された。』
「名もなき神々の王女AL-1Sが承認します。———ここに、新たな“聖域”が舞い降りん———!」
そしてキヴォトスは滅んだ。