終焉の、その先
これは何もかもが手遅れになった後全てを取り込んだ女とその女の幸福を願った男の物語である。
「あーあ、最ッ低な気分だよ」
「ンンンンンンンン、何をなさる!?」
その日、異星の神の使徒は突然現れたサーヴァントによって異聞帯から消滅させられた。もっとも、ここに居るのは式神である為、本体は何処かで暗躍しているのだろうがそんな事は彼の知ったことではない。
「やあ、アルジュナ 、随分、変わり果ててるじゃないか」
「…些事。」
「そう…ボクの事は覚えてないんだね。いや、そっちのボクは今のボクと違うから記憶があろうが変わらない…か…。」
アルジュナ、と呼びかけられた女は男を一瞥すると興味無さげに街へと視線を戻す。男は苦笑いしながら話しかける。
「ねえ、兄弟達を覚えてる?」
ピクッと僅かに彼女の身体が反応する。アルジュナはそんな自分に不思議そうにする。
(今のどこに反応したのだろう…私は神じゃないか。)
そう彼女は神だ。インドの神を全て取り込んだ地上最後の神…それが彼女だった。
「ねえ、アルジュナ、ボクはね、クリシュナ…のオルタなんだ。クリシュナ・オルタ…なーんて、長いからさ、君の好きなように呼びなよ。」
「クリシュナ……」
(何故だろう、酷く懐かしい気が…する…)
「君にはさ兄弟が居たんだ。法の神たるダルマの子、ユディシュティラ。風神ヴァーユの子、ビーマ。アシュヴェイン双神の子、ナクラとサハデーヴァ。名前に覚えは無いかい?」
「ユディ…シュティ…ラ…ビー…マ…ナク…ラ…サハ…デー…ヴァ…?」
「…やっぱり…記憶は無いんだね…」
そう言うクリシュナ・オルタは寂しげで神たるアルジュナは何故だか無性に悲しくなった。
(悲しい……?そんな感情…この私には…)
ある筈ない…と神たるアルジュナは動揺した。神たるアルジュナはこれまで無感情、無感動で機械的な神だった。なので彼女が自分の人間らしい感情に戸惑いを覚えるのは当然の事だろう。
「神には巫女も必要だ!そうだ、ドラウパディーも喚ぼうじゃないか!!でも彼女一人では荷が重いな…スバドラー、ウルーピー、チトランガダー…彼女達の力も授けよう!」
「ドラウ…パディー…」
何故だろうか、彼女の名前を聞いた途端、ポロリと涙が溢れた。クリシュナ・オルタはそれを見ると微笑みかける。
「大丈夫、みーんなボクが喚んであげるさ。さあ、キミの願いはなんだい?」
「邪悪…の…根絶…」
「そう……キミはそこまで…いや、今は感傷に浸ってる場合ではないな…キミの家族を喚ぶのだから!!」
「家族…」
神たるアルジュナはその言葉を聞くとなんだか胸が締め付けられる様に痛く、そして…暖かい気持ちになった。
ーーこの後クリシュナ・オルタによって無事彼女の兄弟達と妻が神将と巫女として召喚された。