終劇

終劇



王は天高く翔ぶ。黄昏に沈む大空をどこまでも、どこまでも…

ただ一つの結末を目指し、彼は──




別世界の自分との共闘、再演(リフレイン)された王来の異聞帯…未知の領域の戦いはかくして再度カルデアの勝利によって決着した。


龍、そして鬼の歴史に語られた英雄たちの合成獣、ディスペクターは須く討ち果たされ、この世界線でもドラゴンオーブによる世界の崩壊は阻止されたのだ。


万事安泰に幕を閉じた戦場から次の舞台へ。一度きりの戦友との別れを惜しみつつ、涙々にストームボーダーは旅立った。


各々の持ち場へ戻り、皆が一息ついたその時、突如として敵襲を告げる警報が艦内に鳴り響く。

もうじき異聞帯を抜けるというその最中、誰もが愕然とするその視界に映ったのは最後に相対した鬼の世界線のディスペクター、終末縫合王ザ=キラーキーナリーの翼であった。



『左舷後方から大規模な魔力反応の接近を感知ー。おそらく例の如く超銀河弾による次元断裂を引き起こされるので、全力で回避をお願いしまーす。』

『機関の調子が治ったばっかだってのにいきなり壊されてたまるか!ここが落ちたら終わりなんだぞ!』

『2番ドック、損害大かもー!?うわー、退避、退避ー!』



ネモシリーズ達の忙しなく駆けずり回る姿を見送って、マスターはマシュやカドックの待つ管制室に走っていた。

窓より見えるその禍々しき有翼の竜、苦難と共に打ち倒したはずだった終末王の肉体は見るからに深い損傷を負っている。包帯で覆われた繋ぎ目からは全身に亀裂が広がっており、有体に言えばその様にはかつて程の脅威は感じなかった。


事実ザ=キラーキーナリーのEXライフはこの異聞帯でのカルデアとの攻防で既に一度消費されており、最早彼に再挑戦を望めるまでの力は残されていない。

勝ち目も、立ち塞がる意味も無いことなど、誰の目にも明らかだった。




それでも、それでもいい。たとえ勝てずとも──




突如として脳内に捩り込まれるドロドロとした油のような思念、そのあまりの重圧にマスターは思わずよろけてしまった。

ふと見上げれば側にはいつの間にか小さなソドムズビースト……即ち地動説体のドラコーが居り、神妙な面持ちでこちらを見つめていた。



「ほう…貴様にも聞こえたか……。それこそがあの鬼の歴史における終末王の叫び、伽藍堂の魂に宿った唯一の願いそのものよ。」

「ザ=キラーキーナリーの、願い…?」

「ただ純粋に、生きた証を残したい。それこそが奴の……いや、この世界に呼び出されたツギハギ共全ての総意だ。

その本質は余と同じ、看取る者なき結末を忌避した末の悪足掻きであろうがな。」



思い返せばそれは散々なものだった。


混成王は生まれ落ちた時より12の厄災に連なる忌み子として作られた。


電融王は竜王(イレギュラー)の誕生によって与えられた地位から貶められた。


接続王は初めから矛盾を孕んだ者として生み出された。


縫合王に至っては創造主の気まぐれに、継いで接いでを繰り返された。


これこそがディスペクターなどいるべきでないもの、作られるべきでなかったものという証拠なのかもしれない。

英雄の魂を閉じ込め、心を押し殺し、中身なき駒として扱う、そんな歪な存在に生きる意味など見つからないのかもしれない。




──否、否、否、否。幾千幾万の歴史が我々を否定しても、そんな事実はあってはならないはずだ!

贋作に名誉あれ!粗悪品に誇りあれ!

世界よ、汝この二つ並ぶ命を忘れること能わず!




それは力を求めた強欲な邪帝でも、滅亡を望んだ貪欲な騎士のものでもない。

落陽を迎え、歴史への冒涜として存在を否定されながら忘れられゆく全てのディスペクターたちの妄念、その代弁者となった終末縫合王としての新たな人格による選択だった。


理性なき言葉の代わりに咆哮をあげ、王は最後の飛翔をして見せたのだ。



「このまま倒すだけで終わりなんて、いいのかな…?」

「構わん構わん。」



はらはらと落ちる刃の如き風切り羽根を窓枠から覗き、尋ねるマスターへドラコーは冷淡に答えて見せた。



「どこまでいこうと結局、ビーストやあ奴らに出来ることは危害の二文字のみ、言うならば神話において倒されるべき怪物でしかないのだ。

ならばせめて物語の『悪役』のように、奴を打ち倒してやってくれ。

それでしか奴らの存在は歴史に、そして記憶に刻まれ得ないのだ。

……それくらい、我が乗り手ならしてやれるであろう?」

 


看取る者に巡り会えた獣の、炎ように揺らぐ瞳を真っ直ぐに見つめ、カルデアのマスターは強く頷き返した。


絶えず脳内に染み渡る澱みの如き思念に気圧されぬように踏み締める。

閉幕したこの舞台に降って湧いた蛇足のようなエピローグに、せめてディスペクターの終焉という見せ場(クライマックス)をもたらすべく、彼らは駆け出した。





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「王として下々の未練全てを背負い立つその在り方、眩きまでに天晴れだ!この海より来る厄災が直々に喝采を送ってやろう!」



天動説体へと形態を変えたドラコーによって終末王の肉体は真横に一閃された。



「だが、物語は今度こそ閉幕だ!悪意に結び合わされし帝王よ、貴様はその身を休め、鎮まるべきだ!」



『抱き融す黄金劇場(ベイバロン・ドムス・アウレア)』によって全身を砕かれたザ=キラーキーナリー、その大きな肉片が地へ向かい落伍して行く。

嵐の壁へ向け突き進むストームボーダーから遠ざかりながら、孤独な王は消え去っていったのだ。


結局、ディスペクターやディスタスと対話することは今回もほとんど出来なかった。

人のような形(なり)に姿を変えたごく少数の、深い底に沈む魂を引き摺り出し、それでようやく垣間見ることが出来るくらいなのだから仕方ないと言えばそうである。


だが、確かにあの王は、満足気に死んでいったように見えた。


最期に残されたたった一つの命、それを彼は他者のために燃やし尽くし、そして華々しい煌めきを残していったのだ。

たとえ言葉は分からずとも、それを肌で感じ取れた。

だからきっと、彼の、彼らの生きた証は記憶(せかい)に必ずや刻まれたはずだ。



偉大なる劇作家(シェイクスピア)はかく語る。



── A stage where every man must play a part.[この世という舞台では、全ての者が一役を演じなければならない。]



喜劇にせよ悲劇にせよ、彼はこの逆説証明電界で大役を演じ切って見せたのだ。


カーテンコール無き終幕に無言の敬意を表しながら、カルデアのマスターは過ぎゆく異聞帯の夕焼けを眺め続けていた。

いつまでも、いつまでも、そのパッチワークの落陽が映す絶景を──


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