細かいことで悩むくらいならに任せた方が却って上手くいくそんな両片想い百合的な?

細かいことで悩むくらいならに任せた方が却って上手くいくそんな両片想い百合的な?


ちょっと目つき悪い普乳かちょっと大きめくらいのサバサバした性格の♀トレだと個人的に捗る





「それで先輩のトレーナーのヤツがさ〜」

「それは大変でしたね」


ただの仲の良い仕事仲間として彼女を見られなくなったのはいつからだろうか。随分と昔のようにも存外最近のことのようにも思える。


初めて出会ったのは何年も前、グランドライブ再建に奔走していた頃。当時新人トレーナーだった彼女が偶然にも居合わせ、協力を申し出てくれたのがキッカケだった。そこから何度となく仕事の打ち合せをしたり休日一緒に出掛けていただいたりするうちに仲が深まり企画が成功してからも何かと遊んだり食事をしたりする仲になっていた。今、彼女と居酒屋にいるのもそのためだ。


「いやーもうホントホント!アイツのヅラ引っ剥がしてやろうかと思っちゃったよ!」

「ははは……」


そうして長い間接していると必然彼女のことを深く知るようになる。彼女の仕事にかける情熱だとか真摯さだとかどんな時も担当ウマ娘のことを考えていることだとか周りをよく見ていて色々と気が回る人だとか物怖じすることなく堂々と意見を言える意思の強さだとか誰に対しても優しいだとか……。


そんな彼女を間近で見ているうち彼女に抱いていた友情がいつのまにか恋心に変わってしまっていた。何故そうなったかは自分でもよくわからない。自分の好きを否定しないでくれたとか、色々な場面で助けられたとか、理由になりそうなものは色々ある。しかし、どれもどこかしっくりこない。なんというか『彼女の人柄に自然と惹かれて気づいたら好きになっていた』という理由とも言えない曖昧なものが彼女を好きになった理由なのだと思う。


「ありゃ?もう枝豆が無くなりそうだわ。ハローさんなんか頼みたいのある?」

「えーっと……では、唐揚げを一皿。トレーナーさんがまだ食べ足りないならですけど」


ともかく私は彼女が好きだ。好きなのだが、彼女は私をどう思っている?確かにウマ娘と女性同士が〜などということは今時そこまで珍しくはない。だが、世間的には珍しくなくても彼女がそうだとは限らない。第一彼女がそうだとしても私の思いを受け入れていいと思ってもらえるかはまた別の話だ。


言えば拒絶されるかもしれない、今の関係が崩れてしまうかもしれない。何よりこの気持ちを我慢して成就するかもわからない恋心を押し込めるだけで少なくとも今の心地よい友人関係は維持『できるだろう』ことを思えば告白なんてできるはずもない。


「しっかし、どぶろく?なんて初めて飲んだけど結構いけるねコレ」

「いいもの、なんでしょうか?私も初めてなので相場は分かりませんがなんとなくお高そうですし」


できるはずもないのだが……『できるだろう』なのだ。いつも通りに、彼女をただの友人と思えていた時のように振る舞っていたつもりだったのだがやはり無理があったのかもしれない。最近彼女がどこか余所余所しいのだ。おそらく、自分が気づいてないだけで彼女相手に随分とぎこちない接し方をしてしまっていたのだろう。


この気持ちを曝け出せばこの関係は壊れるかもしれない。しかし、このまま心の片隅に留めていてもやはりこの関係が壊れるかもしれない。進むも地獄退くも地獄、進退極まりだ。


「あっ追加分きたね。ここの唐揚げ美味しいよね〜他の店と比べて大きいし」

「まぁそのせいで一皿だと足りないけど二皿では少し多い、となってしまうのが難点ですけどね」


それでも、できていないのかもしれなくても努めて『いつも通り』を演じない訳にはいかない。お酒を片手に仕事場のグチを言い合ったり最近あった楽しかった出来事とか面白かったドラマの話だとかをしながらツマミの枝豆やら唐揚げやらをシェアしてみせていないと何もかもを失うんじゃないかという恐怖に押しつぶされておかしくなってしまいそうだ。こうして彼女の話に相槌を打って笑ってはいるが心は手元のどぶろく同様にごりきっている。


……覚悟を決めるしかないのかもしれない。今日の彼女はどこか無理をしているような気がする。普段の彼女も仕事上の愚痴をこぼす事はあるがそれはたいてい嬉しい悲鳴のようなものか彼女が失敗したとか力不足を感じたというような内容ばかりだった。他のトレーナーが云々というものもあるにはある。が、せいぜい『同期の目が濁ってて怖い』とか『同期が着ぐるみ来て商店街を徘徊してるのが怖い』とかそういう変人エピソードばかりで誰かに対する恨み言などというものは聞いたことがなかった。


……自分の臆病で煮え切らない態度のせいで彼女に迷惑をかけてしまっているのだろう。やはり私は『いつも通りの振る舞い』などというものはできておらず、調子を崩させてしまっているのだろう。それは駄目だ。ただでさえ自分の身勝手で彼女に気を遣わせているようなのに自分の身勝手さのためにこれ以上迷惑をかける訳にはいかない。


この想いが成就するかどうかはどうでもいい。ただそのせいで彼女に迷惑をかけてしまったことを謝罪して正常な関係に戻りたい。最悪彼女との関係が壊れるにしてもせめてこれ以上彼女の負担になることだけは避けたい。……などという考えも単なる自己満足かもしれないがこんな正常なフリをした異常な状況を現状維持するよりはマシだろう……と信じたい。


などということ考えているうち、気づいたらテーブルから会話は消えていた。彼女もなんだかソワソワしてあまり自分と目を合わせない。


勇気を出すために、何よりアルコールの力で勢いづけるためにコップに多少残っていたお酒を一気に飲み干しコップを置く。緊張のせいか叩きつけるようとまではいかないが些か強く置いてしまったようだが——


「「好きです!!」」

「「…………えっ?」」


それはトレーナーも同じだった。まるで鏡写しのように彼女も僅かに残ってたお酒を飲み干して少しばかり乱雑に机に置き、全く同時に勢い任せに同じ言葉を発したのだ。


「私のこと好きなん?ハローさん」

「私のこと好きなんですか?トレーナーさん」


「もしかしていつの間にやら二人してなーんかぎこちないカンジになってたのって」

「両想いだということに気づかずお互い独りで悶々としてたから……でしょうか?」


「…………マジ?」

「…………おそらく?」


「はははっ」

「あははっ」


「はーっはは!!なにそれバカじゃないの私たち!?」

「あはは!!どうしましょう反論が思いつきません!」


あまりにあんまりな急展開に今まで悩んでいたことや緊張してたことが急にバカバカしくなってお互い大笑いする。こんなことなら無駄に考え込んだりせずに正直に気持ちを伝えればよかった。まあ、それが出来たら苦労しないのだけれど。


「あー、ダメダメ笑い死にそう。いや、アレだね無駄に考えすぎるよか酒の勢いにでも任せた方がいいんだねえ」

「ふふっ。あくまでケースバイケースだとは思いますけどね?」


すっかり酔いが覚めてしまうくらいに二人してひとしきり笑い合う。…………お互い目尻に少しばかり涙が浮かんでるのはたぶん笑い過ぎだけが原因ではないだろう。


「まあ、兎にも角にも」

「ええ、改めまして」


「「今後とも末永くよろしくお願いします」」


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