素ヨダナ、やらかす

素ヨダナ、やらかす

~アシュヴァッターマン発狂するの巻~

「んあ…?」

それは、ある静かな日、ドゥリーヨダナを襲ったとんでもない事件の話。


「んー…なんなんだ?これ」

ぺたぺたと自身の頭から生えている黒紫色の角に触れる。どうやら誰かがイタズラで付けた髪飾りではなく本当に生えているようだ。試しに引っ張ってみたがビクともしない。

はて、この角どこかで見たような…。寝起きのせいか、頭が回らない。いや、サーヴァントは夢を見ないのだから、頭が回らないのはこの異変のせいだろうか。

「にしてもなぁ…ん?」

部屋に備わっている姿鏡の前に立ち自分の姿を確認しよう……としたのだが、またもや異変に気がつく。

「……尻尾?」

そう、尻尾。不気味な色合いをし、棘の着いた爬虫類のような太い尻尾が尾骶骨あたりから生えていた。

普段の自分ならこの時点……いや、角が生えてる時点で恥を捨て叫びながらマスターの元へ走っただろう。しかし、先程も言ったように現在頭が回っていないのだ。

「おぉ……!なんだ、便利ではないか!!」

試しに動かそうとすると、まるで手足のように自分の意思で動かせる尻尾に感動を覚え、ゆらりゆらりと漂うそれに愛着が湧き始める。なるほど、不気味な色合いかと思ったが、確か他の国では紫は高貴な色らしい。なんとも自分にふさわしい色ではないか。

とはいえこの姿に心当たりがないかと言われてしまえば、そうでは無い。というか、今思い出した。これは恐らく、悪魔カリのモノだろう。幸運なことに自分は生涯悪魔の姿になることはなかった(はず)が、他の世界の自分……有り得ざる世界のドゥリーヨダナはそうでは無かったらしい。実際、このカルデアにも悪魔としての1面が強く出た自分や弟達が居た。

「しかし、流石わし様!この姿も格好良い!」

他の自分達に比べればまだ人間要素が強いものの、普通と比べると少し赤みが増した瞳、白みの増した肌、三臨に比べて伸びた藤色の髪、少し尖った爪、人にあらざる角、アンバランスな筈の悪魔の尻尾など、それら全てが普段よりもドゥリーヨダナを妖艶に際立たせていた。


異変に気づいて早十数分、くるりくるりと鏡の前で女子のようにはしゃいでいたが、段々と飽きが出てくる。折角なら誰かに見せて反応が見たくなってくる。

「お、 そうだ」

丁度良い奴が居るではないかと、ニンマリと悪い笑みを浮かべる。

そうと決まればと、ベッドのシーツで自身の身を隠し、霊体化してマスターの部屋へと向かった。

……霊基内の弟達の抑止の声は聞こえない振りをした。




「おぉい!マスター!居るかー?!」

どんどんと扉を強く叩く。本日は周回も休みの日でマスターが自室に居るというのは、実は把握済みである。自室に居ないとしても直ぐに帰ってくるだろうから、もし開かなければ無理に入って中で待つの良いかと思案していた。が、幸運な事に、扉は直ぐに開いた。

「いるよー、ドゥリーヨダナ…って、え?シーツ?」

「なんだ?旦那が来るって珍しいな」

「お?なんだアシュヴァッターマンまで居るのか?!」

「おう、マスターと談笑がてらな。旦那はどうしたんだ?今日は周回もないから好きにするっつー話だったろ」

スーツにくるまっている姿に驚くマスターとアシュヴァッターマンを見て、しめしめと舌を舐める。

「ふふん。わし様、さらに格好良い姿になったのでな。特別に見せてやろうと思ったのだ」

「え?霊基再臨じゃなくて?」

「そう、期間限定故にな…で、見たいか?」

「ぐう…気になる…!」

マスターが「期間限定」という言葉に弱いのは周知の事実だ。実際、今目の前でマスターが頭を下げて「お願いします見せてください…」と唸る。アシュヴァッターマンはというと、なんだかよく分からん顔をしていた。今思えば、この表情から察してここで「やっぱやめた」と言って大人しく自室に帰っていれば良かったのだが。

残念ながら、この時の自分はその判断が出来なかった。できていれば良かったのに、と心の底から思う。

「ならば仕方ないなぁ!見ることを許そう!」

と言いながらシーツをバサッと勢いよく脱ぎ捨てた。白いシーツが宙をひらりひらりと舞う。

「え」

「__あ」

一瞬、マスターとアシュヴァッターマンの視界は白に染まる。そして、そこから見えるのは……。

白いシーツがマスターとの間に落ちる前に、アシュヴァッターマンの絶叫がカルデア内に響いた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!嘘、嘘だ!!あ、あ゛あ゛あ゛あ゛」

「え、なんか思ってた反応と違」

「ドゥリーヨダナ?!え?!な、は?!?!え、あ?!」

「いだだだだ?!?!マスター!!それ、ツノ剥がせんから!?離、いやすっごい馬鹿力!?」

「だん、旦那あ゛あ゛あ゛!!」

「ちょ、待てアシュヴァッターマン!!この状態でタックルはやぐほぁああ!!」


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