純粋なる愛のカタチ -part.6-

純粋なる愛のカタチ -part.6-

サラダ事変「純愛ルート」

 和楽チセがサラダちゃんとの初めての愛の営みをして4時間。

 ヒトの精子に該当するサラダちゃんのエキスと生徒のたまごが一つになって誕生する存在--いわゆる「たまごサラダちゃん」の発育は急速なものであり、本来の「ヒトが妊娠して出産するまでの経過時間」とは異なるものである。

 今回の彼女の子宮内で起きている発育状況から鑑みるに「7日を1時間としてカウントする」という成長速度であり、それに従って判断すると妊娠1カ月に相当する状態になっていた。

 そんな彼女の子宮内では小さな2つの生命が「自分たちはここにいる」とか細く、しかしゆっくりと確実な鼓動を刻んでいた。


「……ん~?」

[どうしましたか、わがはは?]

「なんだろう……。すごく鼻が利くというか、ちょっとしたニオイが気になるかな~って」

[ほほう、ではかんきつけいのかおりをほうしゅつしておきますね]

「ありがとうね~」


 なぜ嗅覚が敏感になったのか疑問に思うチセ。気のせいか、自分の乳房が張っているような感覚にもなっていた。


(なんだか、自分の体がおかしくなっちゃったみたいな感じ~。どうしたんだろう?)


 そんなことをチセが考えていると、サラダちゃんたちが液体を入れた大量の箱を持ってきて彼女と中枢のサラダちゃんの元へとやってくる。


[ただいまかえりました~]

[わがはは、わがあるじにろうほうです。こちら、げへなのちかすいみゃくからとれたおみずとなっております]

[われわれさらだちゃんのうまれこきょうのあじ。これをのむとちからがわいてきますので、ぜひともおふたりにもたんのうしていただきたく]


 サラダちゃんの話によれば花鳥風月部の箭吹シュロがサラダちゃんを暴走させようと汲み取ってきて、いざ計画を実行に移すも失敗に終わったものを拝借した--とのことである。


[ほうほう。たしかにきょうみぶかいはなしでありますね]

「それって……ゲヘナの天然水?」

[だれがうまいことをいえと]

[しかし、さすがわがはは。いいせんすです]

[こんごはうぉーたーさーばーをせっちして、ここにいるどうほうたちにものんでもらおうとおもっております]

[できれば、こんごもげへなのちかすいをいっぱいのみたいですね]


 ゲヘナの地下水の話で盛り上がっていたところに、ハイランダーの鉄道を通じてやってきたミレニアムのサラダちゃんが会話の中に入ってくる。

 なお、このミレニアム産のサラダちゃんはチセから生まれたサラダちゃんとの「(触手的な意味も含めた)交流」を経て、会話ができる個体へと進化を遂げていた。


[おもしろいはなしをしていますね。そのちかすい……だれかがえんせいして、みずをくみとるようにすればよいのでは?]

[たんくろーりーをもほうして、おみずせんようのゆそうしゃをつくってみるのはいかがでしょうか]

[さすがはみれにあむのどうほう。そのほうほうをさいようして、すぐにさぎょうにとりかかりましょう]

[げんせんのこかつをふせぐべく、じゅようときょうきゅうりょうのばらんすもかんがえないと……]

[それとしゅうへんのじばんちんかのぼうごさくや、あんぜんたいさくもおこなわなければ……]

[げへなはきけんですから、ごえいようのせんりょくもひつようですね。なにせ、われわれさらだちゃんのおうたるそんざいがいるとききます]

[かざんちかくのすいみゃくをさがせばひつようないかとおもいますが、ねんのためにごえいしゃりょうもよういしましょう]

[すばらしいけいかくだ、すばらしい]

[かなうことならげんちでくみとることなく、このちかすいにちかいすいしつをうみだすなにかしらのしょくばいがあればよいのですが……]

[しんぴのしょくばい……さすがにわれわれみれにあむしゅっしんのさらだちゃんでも、とけるかどうかもわからないなんだいですね]

[むしろ、そういうもんだいはとりにてぃのどうほうがくわしいのでは?]


 技術者集団の学園から生まれたサラダちゃんだけあって、論理的な計画性の伴った会話が活発に繰り広げられる。

 そんな先進的なサラダちゃんたちが語る一部の内容について、チセ産のサラダちゃんは「あーそういうことね完全に理解した」という風に話半分で聞いていた。


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 サラダちゃんの会話を眺めながら、チセと中枢のサラダちゃんはゲヘナで取れた地下水を飲んでいた。


「ごくっごくっ……。んんっ、全身にしみこんでいく感じがしていいね~」

[たしかに、ひとくちのむだけでちからがわいてきます。これはいいものですね、わがはは]

「……おぉ、閃いた」

[なんと]

「--地下水を 飲みて感じる あいの風」

[なつのそよかぜと『あい』のいとなみをかけた、すばらしいいっくですね]

「うん。今度のコンテストで応募するときに使おうかな~……んんっ」

[どうかしましたか、わがはは?]

「ちょっと気持ち悪いかも……。うぅえぇ……」


 そういうとチセは突然サラダちゃんの粘液を吐き出し、中枢のサラダちゃんを驚かせる。


[あわわ……。いったいどうしたのですか、わがはは]

「わからない……。なぜか吐き出したくなって、うえぇ……」


 愛する者の変化に戸惑うサラダちゃん。ここでハッとチセの使っている携帯端末で検索をかける。

 そして、サラダちゃんは彼女の背中をさすりながら「ある結論」を報告する。


[わがはは、もしかすれば『つわり』なるげんしょうがおきているやもしれません]

「つわり?それってなぁに?」

[かんたんにいいますと、にんしんしてまもないひとにおこるはきけやしょくよくふしんのことです]

「妊娠……。そっか、私たちの子……できたんだ」


 サラダちゃんの説明を聞いて、変化が見られない自分のお腹をさすりながら、まだ見ぬ赤子に思いをはせるチセ。


「それにしても、早いね~」

[はい。われわれとせいととのあいのこは、せいちょうそくどがはやいのです]

「どれくらい育っているのかな?」

「それについて、ご説明させていただきますにゃ!!」


 誰かの声が聞こえたかと思うと、自分たちのいる部屋に向かっている足音が聞こえて襖が勢いよく開かれる。

 そこにいたのはクロレラ観察部の少女--とは別の存在であった。

 本来の少女にあったヘイローの内側にチセのヘイローが内蔵されており、ピンクの尻尾からは鮮やかな色とは対照的な黒緑色の粘液が垂れていた。

 そして、最大の特徴としてチセと同じ深紅の瞳と角が生えていたのである。

 以上の内容から、彼女は少女とチセから生まれたサラダちゃん(後に分かることだが、このサラダちゃんはシュロに液体をかけられたリーダー格のサラダちゃんである)の間の子である「変異型たまごサラダちゃん」であった。


「うわっ、びっくりした~」

「自分、木林サクラと申すもの。これからは我が母たるチセ様と主様にご奉仕する所存でございますにゃ」

[すばらしいなまえですね。だれがつけたのですか?]

「んにゃ?名前は自分で適当に決めましたにゃ。同胞から何故か「きばやし」と呼ばれておりましたので、それに姓をあてたのと髪の色からサクラと名前を付けた--それだけのことですにゃ」

[そ、そうですか……]


 自分の名前なんてどうでもいいといった感じで、サクラは手をワキワキさせてチセのおなかを触ろうとしていた。


「ねぇ?なんで、私のおなかを見て手を動かしてるの?」

「決まっておりますにゃ!お子様の様子をこの肌で感じ取るためですにゃ!」

「えぇ……」


 キラキラ光らせた目に若干ドン引きしているチセの様子を気にせず、サクラは両手を透明な粘液で濡らして彼女のお腹を丹念に触っていく。


「ふむふむ……この成長速度から察するに、8週目に入っていますにゃ。いやはや、これほど大きいと見つけやすくて助かりますにゃ」

[どうなのでしょうか、さくら]

「主様、私の触手を介して視覚を共有してもらえますかにゃ?そして、例の端末とやらに接続していただければ、チセ様もご覧になれますにゃ」


 サクラの言われたとおりに、中枢のサラダちゃんが彼女の触手を絡ませた後にチセの携帯端末に接続し、サラダちゃんがチセに端末を触手で手渡す。

 そして、サクラが触手を用いて白黒の画面--いわゆるエコー検査の画像についての説明をしていく。


「この黒い空洞の中にある白いものがありますね?……これがチセ様と主様の愛の結晶、すなわち赤ちゃんがいる証拠ですにゃ」

「おぉ~。これが、私たちの赤ちゃん……」

「反対方向を見ると……ほら!ここにももう一人のお子様がすくすくと育っているのが確認できますにゃ」

「すごい。確かに動いているね~」


 小さく、されど確実に生命の拍子を刻むのを視覚的に見て感動するチセ。


[さくら、あなたはこののうりょくをどこで?]

「私が母の体から生まれ、気が付いたら得ていましたにゃ」


 サクラの能力。それは生みの親であるクロレラ観察部の少女が日ごろから行っている「観察」という行為から生まれた能力--すなわち、サラダちゃんを感知・認識する能力である。

 サラダちゃんたちの調子や居場所を視認するだけで把握でき、さらに端末などを介したりすれば自らの視覚を共有することも可能になるというものである。


[うまれてすぐに、ですか]

「実は輸送中に、まるで誰かに『奉仕しなければならない』と命令されたような謎の使命感に襲われまして……」

[ふむふむ……]

「そこにたまたま通りかかった母親を見て、先ほどの使命感に加えて『ヒトとして生まれたい』という欲求が生じたので素早く胎内へ潜り込み、たまごと一つになってヒトとして生まれてここまできた--というお話ですにゃ」

[いわゆる『たいないかいき』をもって、あなたはたまごさらだちゃんとしてうまれかわったと]

「平たく言えばそうなりますにゃ。私がチセ様の特徴を有して生まれたこと、そして特殊な力を得たこと……主様、あの地下水は間違いなく我々のサラダ生を飛躍的に躍進させる素晴らしい生命の水となりますにゃ」

[あなたがそのようにへんかしたとなると、わたしにはどのようなへんかがしょうじるのでしょうか……]


 ゲヘナの地下水の効能に、驚きを隠せない中枢のサラダちゃん。

 ちなみにチセの体にも早速変化が起きており、彼女が飲み干した地下水は臍帯を通じてお腹のたまごサラダちゃんたちにも巡ってきて、彼女たちだけが持つ能力の兆しが見え始めていた。

 彼女の体内もまた変化を遂げつつあり、肉体強度が出産の負荷に耐えれるように強固なものになっていき、ホルモンバランスもサラダちゃんの粘液を摂取することで回復する体質へと変化していく。

 そして、サラダちゃんを受け入れたことによりゲヘナの地下水が持つ神秘に呼応して恩恵をあずかれるようになった。具体的には彼女自身が持つ神秘の許容量が増設されたり、出産時に発生する神秘の消耗量を軽減するなど、サラダちゃん・たまごサラダちゃん両方を産むために彼女の肉体が最適化されつつあった。


「主様、チセ様。このサクラ、今後はチセ様のお世話--具体的には妊娠中の身の回りの介護とケア……そして、産後のケアやお子様の教育などをさせていただきますにゃ」

[それはあんしんですね]

「もちろん、主様へのご奉仕の心は変わりませんにゃ。妊娠中の接し方のアドバイスや、ご奉仕以外で主様の求めることへのバックアップも可能な限り致す所存ですにゃ」


 サクラの言葉に対して、中枢のサラダちゃんは少し戸惑いを見せる。自分がなすべきことは奉仕--愛しき隣人たるチセとの愛の育み以外に持ち合わせていないのだから。


[ごほうしいがいにもとめることなんて、なにも--]

「そうですか。でしたら、それはおいおいの話ということで今は聞き流してもらって構わないですにゃ」

[わたしが『ごほうし』いがいにもとめる……。はたして、そんなことがありえるのでしょうか?]

「ん~、例えば『サラダちゃん全員が幸せになってほしい』……とか?」

[なるほど、さすがはわがはは。たしかにそうねがうのも、ひとつのかのうせいではありますね]

「いっそのこと、こことは別の理想郷を作る……というのは言い過ぎですかにゃ?」

[りそうきょう……]

「サラダちゃんだけの世界?……すごく楽しそう~」

[われわれ、さらだちゃんだけのりそうきょう……]


 チセの何気ない発言に、深く考え込んでしまう中枢のサラダちゃん。


「大丈夫?あなたが悩むなんて、らしくないよ~」

[……それもそうですね。いまもこれからも、かわらずあなたにつくすとちかったのです。そこにうそいつわりなんてありません]

「愛の告白みたいで、聞いてて恥ずかしいな~」

[そうですか?……そういわれると、なんだかてれてしまいます]

「それはこっちのセリフですにゃ~。仲睦まじいお二人のやり取りに、こっちが赤面しちゃいますにゃ!!」


 新しい仲間、木林サクラを加えてチセは新しい生命の誕生を迎える準備を始めようとする。





和楽チセが二つ子を出産するまで……残り、32時間--



[ to be continued... ]


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